第13話

露天風呂を出た私たちは、一玉さんの死体がある大広間へと向かった。しかしその光景は最初に私たちが見た時とは違っていた。


首吊りだったはずの一玉さんの死体がいつの間にか机の上に落ちて来ていた。机に血溜まりが出来ていて、足が欠けている死体の状態も相まっておどろおどろしさが増していた。


やはり見ているのも嫌になる程の状態だったが、事件解決のためにも恐る恐るではあるが、近づいてその様子を見てみた。


見てみたところ、あるところに妙な違和感を覚えた。彼女の首を括っていた縄だ。縄の切れた部分を見てみると、ちぎれたとは思えない程に綺麗になっていた。まるで何か刃物でも使ったかのようだ。


その時に大広間にいたのは私、一織ちゃん、椿さんの三人だったが、三人とも同じことを考えていた。


_首吊りの状態からどうやって縄を切ったのか?


この部屋は床から天井までの差がかなりある。机に乗って届くわけがない。今回の事件、そんな不可能を可能にした犯人が必ずいるはずなのだが、そのカラクリがよく分からない。


壁に掛かった絵や、天井から吊るされた照明など、高さを確保出来そうなものはあったが、絵は足場が狭く安定性も何もない。照明は相変わらず天井にあるせいで届きそうもない。


そのまま天井をじっと眺めていると、あることが気になってきた。椿さんに聞いてみた。


響「天井のあそこに開いている穴は何ですか?かなり大きいですけど。」


椿さんから返ってきた言葉は「穴?本当にそんなものが天井に?」だった。普段なら「お前も知らないんかい!」とでもツッコミたくなる言葉だが、そのときの私にとってはあまりにも都合がいい言葉だった。


私の中で浮かんでいた「首を吊っていた縄は大広間ではなく、上の階の部屋に縛られている」という考えが現実味を帯びて来るからだ。そうすれば大広間に縄を縛れなくても、首吊りに見せることができるからだ。


そして椿さんに網縫館の建物の構造と誰がどの部屋に泊まっていたかがわかる見取り図を持ってきてもらった。大広間の、それも一玉さんの死体があったところの上は従業員以外立ち入り禁止の倉庫だった。


そのために倉庫へ行こうとしたのだが、椿さんはもう昼食を作らないといけない時間だということなので、鍵だけもらって私と一織ちゃんの二人で調べに行くことにした。


今まで存在すら知らなかった「倉庫」という場所が判明したことで、事件解決への希望が見えてきた。そんな考えを抱いて、私たちは倉庫へと向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る