第12話


これで三人目。網縫館で死んだ人は三人目だ。恐怖を感じる反面、僅かな間に3人もの死体を見たせいで慣れが出ているところがある。


状況だけで言えば、きっと他の二人も同じなのだろう。一玉さんの死体を見た時と比べてまだ落ち着いたように見える。これも慣れとかそういうやつなのか。


ただ、正直なところ、私にとってはその方がよっぽど都合がいい。早く事件を解決するためには証拠が欲しい。その証拠を得るための人が多くいた方が捜査がしやすいのだ。


玉藻さんの死体を発見して少し時間がたったら玉藻さんのことを色々推理した。


玉藻さんの死体も足が切り取られていた。他の二人と共通していることだ。もしかして足を切り取ることが何か重要な意味を持っているのだろうか?


などと考えていたら、椿さんがこんなことを言った。


椿「今回の事件、もしかして見立て殺人…?」


見立て殺人…


「見立て殺人…見立て殺人……………そうか!」私は考えるより先に声が出ていた…と言いたかったが、よく考えれば考えていた。

なんだこのややこしい文章。


一織「響さん、何か分かったんですか?」


響「分かったよ、一織ちゃん。今回の事件は人喰い蜘蛛伝説になぞらえた、逆見立て殺人だよ!」


一織・椿「逆見立て殺人!?」と二人は口を揃えて言った。


私が言った「逆見立て殺人」とはこうだ。網縫館に伝わる人喰い蜘蛛伝説では、人喰い蜘蛛は人を襲っては食べていたが、唯一足だけは返すということが言われている。これを言い換えたら、足以外は全て失われた状態であると言える。


では今回の事件についてはどうか。今回の事件の被害者は三人。そのうち二人にはある奇妙な共通点がある。足が切り取られているのだ。これこそが、この事件を逆見立て殺人だと考えた理由である。


殺したうえで足まで切り取る、どう考えても無駄な行為だ。しかし、今回は伝説を意識していると思われる。もしそうならば犯人がそのような行動をとる理由ができる。


そして、今回は伝説とは逆のことをしている。私たちが見る時には死体の足だけが消えていて、それ以外の部分は見えているのだ。これが私が言った逆見立て殺人だ。


私の考えを二人に説明したところ、「そういうことでしたか!さすがですね、響さん!」と一織ちゃんはどことなく嬉しそうに言った。


ただ、まだ安心してはいられない。今解明したことは今回の事件の特徴ぐらいであり、他のことはまだ分からない。


そのため、私は風呂を去って、残り二人のことをもう少し調べようと思った。「玉藻のことを調べないでいいのか」などと思うかもしれないが、一応調べた。調べたがあまり証拠を得られなかった。


得られたこととしては、彼女の死因についてだろうか。彼女の死因は恐らく射殺だ。露天風呂の中に死体はあったが、一度出してみたところ、溺死ならありえない傷があった。


彼女の頭には小さな穴があった。私はそれを見た時に、射殺ではないかと判断した。射殺された彼女は犯人によってここまで運ばれ、最後にここへ投げられたのだろう。


これで、現在私ができる推理は終わりだ。死亡場所はまだ証拠が少ないし、死亡推定時刻など専門外だ。とにかく、他の二人のことも推理しよう。

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