第3話

京都で今人気の旅館「網縫館」。そこはかつて「人喰い蜘蛛」という妖怪の住処だったとされている。


人喰い蜘蛛はとても残忍な妖怪だった。名前の通り人を襲っては食べた。


住処に近づいたものは問答無用で食べられ、誰も来なければ近くの村まで獲物を探しに行った。そうして大量の人が食い殺された。


人喰い蜘蛛の残忍さはそれだけではない。人を食べるとき、唯一足だけは残すのだ。なんのためなのか、誰も知らなかった。しかし、獲物を探すために襲った民家へと足だけ返すという。


その妖怪を退治するために1人の侍が立ち上がった。名を喜晴(きはる)という。


喜晴はある夏の夜に1人で人喰い蜘蛛の住処まで乗り込み、こう言い放った。


喜晴「化け物よ。我が名は喜晴。其方を討つべく参上致した。姿を現せ。我は死を恐れぬ。喰えるものなら喰ってみよ」


するとその時、ピチャ、ピチャと不気味な音を立てて人喰い蜘蛛が姿を現した。獣のような頭、黄と黒の縞模様の胴体、六つの足を持った巨体だ。


人喰い蜘蛛は言い放つ。「身の程を知らぬ愚か者よ。喰ってやろう。殺してやろう。そして下僕にしてやろう」


喜晴は咄嗟に刀を握った。間違いない。こいつこそが忌まわしき妖(あやかし)「人喰い蜘蛛」であると確信したのだ。


しかし、その直後にさらにおぞましいものを目にした。


人喰い蜘蛛「我が下僕よ。この愚か者を殺してやろうぞ。出会え出会え」


そして現れたものは糸のようなものでできた異形の妖だった。よく見れば人の体を使っている部分もあった。


喜晴はそれを見たとき、人喰い蜘蛛への激しい憎悪と殺意を感じていた。そしてこう言い放った。


喜晴「化け物よ。我は貴様を決して許さぬ。何人もの人を喰らい、それらを自らの下僕とするその姿、殺されたものを侮辱していると思われる。ならば我が貴様を斬りそれを見世物にしようが恨むまい。」


その言葉を聞いた人喰い蜘蛛は憤慨し、呼び出した下僕共を喜晴へ襲いかからせた。が、喜晴の剣技には為す術もなく下僕は皆あっさりと斬られてしまった。


人喰い蜘蛛「おのれ人間風情が!貴様を見るも耐えぬ姿に…」


人喰い蜘蛛が話している間に喜晴は人喰い蜘蛛の首を斬った。そのまま人喰い蜘蛛はその場に倒れた。


人喰い蜘蛛の死体は都にて晒されたとされているが、その後の行方は定かではない。

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