第四話『手合わせ・宴会・風呂トーク 前編』


「「「「「う、うわぁぁぁぁーーーー!!!!でたぁーーーー!!!!」」」」」

叫び声が校舎に響いた数十分後

彼らは先日大和が使用したテスタールームに来ていた

目的は施設案内と自己紹介・PF紹介を兼ねた模擬戦を行うためだった

「じゃあ順番はくじ引きで決めてくからとっとと引いてけ」

「ぎゃあ1番!」「おっしゃ4番」「9番・・・ドンケツかぁ・・・」

各々がそれぞれの反応をする

その中で首を傾げる者が1人

「ん?あれ?」

大和である

「おう、どした?」

鈴音がそれに気づき、声をかけた

「なんか変なのが巻きついてる、なんだろ」

紙の端を摘み、引き伸ばす

そこには

『どうせこれ引くと思ったからこの組み合わせにしておくぞ』のあとに

『鬼ノ山兄妹とクリソプレーズ以外の全員と1回ずつな』

と書かれていた

2人が龍哉を見る

その視線に気がついた彼は、いじの悪そうな笑顔を浮かべた

そして視線を外し、全員に声をかける

「とりあえずそれは全員持っとけ、あとまとめてやるからお前らのPFも呼んでこい」

課業中や授業にはPFは参加しないため、通常は自由に過ごしている

しかし、演習や実技の時は別であり、そういった場合は教官からの許可でPFは授業に参加できる

その少しあと、呼び出された各々のPFたちが到着する

全機がもれなく人の姿かたちをとれているのは擬装生体システムと呼ばれる機構の能力だ

そんな彼らの先頭を突っ走る人影

六本に先分かれしたポニーテールをたなびかせ、土煙を上げながら凄まじい速度で駆け寄ってくるその正体は・・・

「あるじさまぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!!!!!!」

そう、灰(かい)である

またも大和の反応が遅れ、灰の頭が腹部にめり込む

それを視認できたのはごく一部のみ

それ以外の生徒やPFたちは2人の姿が掻き消えたかと思った瞬間、凄まじい轟音と共に壁に突き刺さった2人の姿を見ることになった


我に返った灰が壁から

「はっ!申し訳ありません、主さま!」

そう言いながら大和を壁から引き抜く

どうやら目を回しているようだが、生命に問題は無いようだ

「灰!テメェいい加減にしやがれ!』

そう言うと同時に、龍哉が瞬時に自身のPFを展開し、切りかかった

「危ないっ!」

誰かがそう叫ぶより早く、灰が反応する

振り向きざまに自身の擬装生体システムのポニーテール部分を解除し、元の状態に戻す

六本に先分かれしていた髪がそれぞれ半ばから先端部にかけて大きく形を変える

しなやかな黒髪は半ばから無機質な機械のアームに、

鋭く伸びていた先端は六本の太刀に、

それらが位置を変え、背部に接続される

そこを中心に全身が本来のPFの姿に戻り変わる

斬鉄・灰 八刀

それが彼女の新たな姿である

『危ないではないですか龍哉!』

龍哉の振るう大剣を易々と受け止め、灰が言葉を放つ

『うるせぇ!元はと言えばテメェが施設ぶち抜いて出てきたからじゃねえか!』

叫びながらもそのままあえて大剣を弾かせ、浮かび上がった状態から思い切り振り下ろす

その刃は容易に逸らされるが、勢いそのままに進行方向を捻じ曲げ、逆袈裟に切り上げる

だが、それすらも届くことなく、身体を逸らした灰のフェイスパーツ

その顎先に微かに白線を入れるだけに留まってしまった

しかし、龍哉も歴戦の兵士

あらかじめ上方に展開しておいた複合武装飛翔体『アプス・スウィフト』を地へ向けて突っ込ませる

その刃の雨を、スーパーボールが跳ねるように壁を使って回避し、その動きの中で大和を回収する

『チッ、その動き・・・アイツを相手にしてるみてぇだな!』

『当たり前です!何億回繰り返したと思ってるんですか!?』

そう言葉を交えつつ、更に剣戟は激しさを増す

龍哉は双大剣に切り替えた上、更にアプス・スウィフトを増やし、激しい攻めを続ける

対する灰は、その攻めを両の手に追加で持った合計八振りの太刀に合わせ、人にはできない関節の可動域を無視した動きでいなし続ける

『全く・・・オデュッセウス!貴方も起きているのでしょう!?』

灰がそう言い放つ

『ありゃ、バレちまってたか』

言葉が発されたのは龍哉の纏うPF

『久しぶりだな、灰。その性格が相変わらずで安心したぜ』

『何を言いますか!私が私であることは今も昔も変わりません!』

先行量産試作型第一世代機『百腕・蒼』

通称個体名、オデュッセウス

灰と同世代の機体であり、共に最初期の戦場を駆け抜けた一人である

『ほんとに一人で動けるようになったんだな!』

『ええ!時間だけは腐って肥料になるほどありました故!』

二人の戦闘が更に激しさを増す

屋内でそれぞれが加減をしているとはいえスペースには限りがある

さらに言えばここは建物全体が精密機器の塊のような場所

そろそろ致命的なダメージが入ろうかという瞬間

『いい加減にしろお前ら!』

の声と同時に龍哉と灰に何かが直撃する

『うがっ!?』『ん”に”ゃっ!?』

そして、そのままの体勢で地上に落下した

声の主を見ると副担任である霞が自身のPFを展開しており、長大なレールライフルの砲身からは煙が上がっていた

二人をよく見ると針のようなものが突き刺さっており、パチパチと空気の爆ぜる音がしている

『ヤレヤレ・・・二人とも相変わらずデス』

霞の纏うPF

先行量産試作型第一世代機『千里・白』

通称個体名、ペーネロペー

オデュッセウスと同じく、灰と肩を並べて戦い抜いた一人だ

『ペネ・・・いいとこなんだから・・・邪魔するなって・・・』

『オーディーも龍哉も戦闘になると周りが見えなくなる癖は直した方がいいデスヨ?』

ため息混じりに二人と話していると灰が彼女に声をかける

『久しぶりですねペネロペ!とりあえずこれ引っこ抜いてくれませんか!?』

『貴方の喧しさも変わっていないようで安心しまシタヨ。おかえりなさイ、灰』

先程と変わり、優しく微笑むような声で話す

その顔は、数十年ぶりに親友と会った時のように見えた


「おい。おい、起きろ大和」「これ刺してみよっか」

「あばばばばばばばばばばぱびばばばばばばぱば」

「あ、起きた」「あとはその辺に転がしといて良いだろ」

「二人とも・・・」


多少のごたつきはあったものの、当初の予定どおり試合が始まる

開示された試合順を見て、一部を除いた全員が目を見開く

それ以外の残りは『やっぱりか』と頷く

それもそのはず、大和が鬼ノ山兄妹・ルチル以外の全員と試合をすることになっているからだ

だが少し経てば全員が『まぁ良いか』と納得し、それぞれが準備にかかり始めた


『霞さまぁ〜・・・後生ですからこれ引っこ抜いてくださいませぇ〜・・・』

「いい機会だからもう少し転がっとけ」

どうやら灰の折檻はもう少しだけ続きそうだ


第四話『手合わせ・宴会・風呂トーク 前編』 完

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