第三話『祝福の世代、邂逅』

 その後、正式に登録手続きを済ませ、灰の適合者となった大和

 入学までの手続きを遅れながらも全て済ませ、学園所属の生徒となる

 そして、大和達が配属されたのは『Sクラス』と呼ばれる今年新設されたばかりのクラスだった


 大和の決闘から1週間後、彼らが初めて登校する日の朝

「Sクラス?なんだそりゃ」

 そう疑問を口にする鈴音

 その疑問も当然だろう

 彼らは当初それまで3クラスあったうちのAクラスの一つに配属されるはずだったのだが入学後の配属要項に記載されていたのはSクラスだったからだ

「あぁSクラスですか、それなら今年新設されたばかりのクラスですね」

 そう答えたのは同居人の一人の焔

 朝のシャワーを済ませ、髪を拭きながら続ける

「なんでも今年の入学生はあなた達含めてイレギュラーが相当数いるそうで、彼らをまとめて見るための特例措置だそうですよ」

 そう話しつつ冷蔵庫から牛乳を取り出し、蓋を開け、一気に飲み干す

「まあでも君たちならすぐに仲良くなれると思いますよ?軽く見てきましたけど似たような雰囲気の子ばかりでしたし」

 そこにちょうど遥翔達が朝のランニングから帰ってきた

「ただいまーってあれ?鈴音どうしたの?」

「なんかあたしらSクラスってのに配属されるらしいぞ」

「Sクラスって聞いた事ないけど・・・新しくできたのかな?」

「まあとりあえず名簿見てみよーぜ」


 Sクラス 配属人員表

 担任 結城龍哉 副担任 天草霞

 出席番号

 01 ウルリッヒ・フォン・ルーデルハイト

 02 鬼ノ山鈴音(きのやますずね)

 03 鬼ノ山遥翔(きのやまはると)

 04 黒神朧(くろかみおぼろ)

 05 九尾仙狐(ここのおせんこ)

 06佐々木友次(ささきともつぐ)

 07 佐藤茂歩男(さとうもぶお)

 08 東雲葎(しののめむぐら)

 09 下野兵二(しものへいじ)

 10 武市西人(たけいちにしひと)

 11 テュール・L・ローズ

 12 豊元八六(とよもとはちろう)

 13 日ノ川炬龍(ひのかわこたつ)

 14 比良坂大和(ひらさかやまと)

 15 紅山太介(べにやまたいすけ)

 16 真白尾虎金(ましらおこがね)

 17 リーグラント・ズィヘェルフォーゲル

 18 リンダウルズ・ドラクライト

 19 ルチル・クリソプレーズ


 尚、ルチル・クリソプレーズにおいては専用機の調整及び身体検査が長引いているためそれらの完了後に合流する

 その他専用機持ちは届出をきちんと出した上で専用の待機場所に登録すること

 後に専用機を入手・適合成功した際も同様である


「ほーん、けっこー居んのな」

「みんな一癖も二癖もありますからね、これから楽しくなりますよ!」

「一癖も二癖もあるのはウチだけでいいと思うんだけどな・・・」

 クラスメイトが気になっている鈴音と楽しそうな焔と少し疲れたような顔をする遥翔

 その後ろの寝室から大きないびきに混じって誰かのうめく声が聞こえてきた

 まだまともに家具が揃えられていないのため、雑魚寝の状態のそこには夜勤明けすぐに布団に倒れ込み、大きないびきをかく雷電と「う・・・ぅうあ・・・がっあぁう・・・」とうめく大和がいた

「どーした大和」「あー・・・そういえば・・・」

 よく見ると何かが的確に関節を固めながら大和に抱きついている

「うぇへへ・・・あるじしゃま・・・あるじしゃまぁ・・・♡」

 抱きついていたのは灰だった

 先日の決闘の後に機体が崩壊し、それを理由に施された近代化改装で使えるようになった擬装生体システムで女性のような見た目になっていた彼女がさすが機械と言うべき柔軟性で大和に抱きついていた

「あー・・・今日もか・・・」

「改装終わってから毎日こうだよね」

「全く・・・二人とも起きろー」

 しかしどちらも起きない

 その後も声をかけ続けるが、一向に起きる気配は無い

 そしてとうとう鈴音の堪忍袋の緒が切れた

「お前ら起きろ!遅刻すんぞ!?」

 そう言い二人の頭をはたく

「ふぁっ!?敵襲ですか!?」

 と灰が飛び起きようとした瞬間

「ぴぎゅっ」という何かが潰れたような声と共に灰が極めていた箇所が全て粉砕された

 灰がこの姿になってからの日常の光景になりつつあるそれを流し、鈴音が大和を叩き起す

「おら起きろ。とっとと飯食わねぇと遅刻するぞー」

「うぇ・・・もうそんな時間・・・?」

 本来なら朝に強い大和も寝つきが悪いと途端に朝が弱くなる

 寝ぼけ眼を擦りながら差し出された朝食を食べ進める

 その後学生寮を出発、指定された校舎に入り、Sクラスの扉の前に到着した

「はぇー、ここが教室なんだ」

「まさかこんなに近いとはね」

 そう、彼らが立つ場所

 そこは彼らの居室から歩いてたった数分の建物の最上階

『ちょっとコンビニ行ってくる』のノリで行ける場所にあった

「なんでもいいから入ろうぜ、他の奴も気になるしな」

 そう言って鈴音は教室後方の扉を開ける

 そこに居たのは多種多様な種族の学生たち

 ワイバーン系の竜人族に九尾狐の獣人族、鬼人といった学生たちが見受けられた

 彼らは扉が開かれた音に反応し、こちらを向く

 すると一斉に目の色を変え、こちらに駆け寄ってきた

 しかし、若干一名は何かに怯えているようだ

「おう見たぜこの前のやつ!最初期のヤツで最新型に勝つなんてよ!」

「そうそう!それにPFであんな柔軟な動きができるの初めて見た!」

「是非、1度手合わせ願いたい!」

 口々に先日行われた決闘を賞賛する言葉を大和に投げかける

 そこに教室の前方の扉が開き、さらに2人入ってくる

「おらガキ共、渡すモンあるからとっとと座れ」

「お前はもう少し言葉遣いを考えたらどうだ・・・」

 その人物はSクラス担当教師、結城 龍哉(ユウキ タツヤ)と天草 霞(アマクサ カスミ)だった

 その言葉で、大和たちを取り囲んでいた生徒たちは各々の席に戻っていく

 大和たちも自分の席につき、モニターボードを見る

 霞が端末を操作すると、そこに1日のスケジュールが表示された


 1限目:書類配布

 2限目:校内設備一覧・使用方法

 3.4限目:自己紹介・PF紹介・模擬戦

 昼食・昼休憩

 5~7限目:模擬戦

 夕食:教室


「今日はこの順序でやってく。なんか質問あるヤツはいるか?」

 それに対して生徒たちは各々で無し、と答える

「じゃあ番号順に1人ずつ前に書類取りに来い」

 それに従い、ウルリッヒから前に向かい、書類を受け取り、自席に戻る

 全員が受け取り終えたのを確認すると

「1限目は終わり、あとは勝手に過ごしとけ」

 と言い残し、教室を去る

「全くアイツは・・・まぁそんなわけだから教室の中で過ごしてくれ」

 呆れ混じりに霞が全員に伝える

 教室に話し声が戻ると同時に大きく伸びをした大和の視界の端、窓の奥に何かを捉えた

 その直後、外からジェットエンジンのような甲高い音が近づいてくる

「あ、霞先生そこの窓開けてください!」

「え、あ、わ、わかった!」

 そうして窓を開け放った瞬間

 一条の尾と共に緑に輝く流星が飛び込んでくる

 それは真っ直ぐに大和に向かい、猛スピードの車が正面衝突を起こしたかのような轟音と共に停止した

 飛び込んできたそれがムクリと起き上がり、頭を抑える

「いったたた・・・あれ、ここってSクラスの教室で合ってる?」

 クラス内の考えはほとんど(・・・誰!?)で一致した

「うん・・・まあ合ってるけど」「ルチル、それよりも壁とアレどうにかしろ」

 鈴音が指差すそこには頑丈な壁に空いた大穴と

 その向こう側で何かのアートのような格好で壁にめり込んでいる大和がいた

 よくよく見ると接触したと思われる彼の顔面は、それはもう形容しがたい酷い有様だった

「あぁ!やっくんが大変なことになってる!一体誰が!?」

「ルチルだねぇ・・・」「お前だよ」そして一同も(お前や)と考えた

「まあでも・・・」と立ち上がり鬼ノ山兄妹を見て

「そのうち治るしいっか」とサラッと言い放った

「とりあえず壁から外しとくね」「まあそうだな、そのうち起きるだろ。ってか壁は直しとけよ」「りょ!」

 そういうと彼女は自らの腕を伸ばし、分裂させ、周辺に散らばる瓦礫を回収し、壊れたパズルを組み直すように修復し始めた

 鬼ノ山兄妹はさも当たり前のように見ている中、教室内の面々が再度目を見開く

 腕を伸ばすことが出来る種族は少数ながら確かに存在する

 しかし、分裂させそれぞれ独立した動きをさせることが出来る種族など記録上にも類を見ない

 全ての破片を組み終えると、宙を漂う緑色の粒がその隙間に入り込む

 一瞬小さく光ると、壁は模様替えを施された状態で元に戻った

「ふぅ、作業終わり!」

 手の甲で額を拭うと教室を見回す

 そして、自分を見る視線に気がつく

「あ、あれ?私何かしちゃった?」

「「何かしちゃった?」じゃねえ。喜べ、オメェが記念すべき最初の反省文だ」

 いつの間にかルチルの後ろに立っていた龍哉が眉間に青筋をうかべ、アイアンクローで後頭部を掴み、持ち上げる

「痛い痛い痛い!離してぇ〜!」

「離すか!テメェはこのまま反省室行きだ!」

 そのまま教室外へ連行され、しばらくルチルの悲鳴が聞こえてきていたが、消えた

 呆然としていた一行であったが、全員がハッと我に返る

「そうだ!大和くんは!?」

「医務室・・・いや、集中治療室!」

 焦る彼らを止めるように遥翔が手を叩き、制する

「みんな落ち着いて、大和なら大丈夫だから」

「だ、大丈夫って言ったって・・・」

 その時、現代アートになっていた大和が何事も無かったかのように平然と教室に戻ってきた

「あーびっくりした・・・ってあれ?みんなどうしたの?」

「「「「「う、うわぁぁぁぁーーーー!!!!でたぁーーーー!!!!」」」」」


 第三話 完

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