encounter〜少女、機関銃〜

(あの黒服……どう見ても工場の人間じゃねえ……同じ目的の人間がいるって訳か……?)

 考え事をしながら階段を登って、気づけば4の文字が見える。

 そこには凄惨な状況が広がっていた。


 四菱の作業服を着た男たちが血塗れで倒れている。

 もたれかかっていた壁にはべっとりと血糊がついていた。

(襲撃……やはり先客がいたか!!)

 管理室の扉の前で、さっき拾ったグロックの拳銃の引き金に指をかけて、深呼吸を一つ。

 拳銃を発砲して鍵を壊し、ドアを蹴破る。


 薄暗い部屋の中にいたのは数人の黒服とシックなドレスを着た金髪の少女が一人。

「……まさか、私たちの後をついて来たのですか?」

 少女の黒い瞳がイーグルを睨め付けている。


 金髪の女は肩までかかっている長い髪を後ろに束ねてポニーテールにしている。

「私たちの事を知ってストーキングをしたなら、度胸のある人間として認めましょう。それか、余程の命知らずか……」

 少女の手に持っていたものは彼女の華奢な体格には見合わないほどに大きな重機関銃。


「だからこそ、ここで死んでください!!」

 黒と緑のカラーリングをした“ソレ”を少女は脇に抱えて銃口をイーグルに向ける。

 小さな肩は機関銃の反動をものともせずに銃口を左右に振り回す。


「おい……アレは……」

『次代少女兵器22番“V“』

“J”の言葉と同時に破裂音が連続に鳴り響く。

 咄嗟に物陰に隠れるイーグル。

 しかし弾は既にジャージの袖やズボンを掠っていた。

 イーグルは入り口の手前まで下がり、相手の様子を見る。


「クソ……相手が機関銃はさすがに予想外だった」

『“V”は弾幕担当。あの子が前線部隊を殲滅してたもの』

「じゃあお前の担当はなんだったんだよ」

『斥候』

「……こりゃあピンチだな」

『なによ』

ショットガンに変身した“J”がムスッと不機嫌になる(ような気がした)

 仕方なく、拾っていたグロックの拳銃で応戦するイーグル。今この状況を近距離特化の“J”で切り抜けられる訳がない。

せめてあの弾丸の嵐をどうにか突破出来れば……

「あの弾幕をすり抜けられるようなモノ、なんかないのか?」

『そんなの……あるけど』

「あるのかよ……それならそれを……」

『……いいの?』

「は?」

 白いショットガンが少し戸惑っている。心なしか“J”の顔が少し赤い(気がする)。

『それは人間でいう逢瀬と同じ……互いを認めたモノでしかできない行為……』

「あー、アレか?要はセッ……」

 機関銃の連射音がイーグルの言葉を掻き消す。


 グロックの拳銃で応戦したが、カチカチと引き金が鳴るだけで弾が出ない。

「だがこの状況を切り抜けるにはお前の力が必要なんだ。頼む“J”」

『……っ!!……分かった。しょうがない』


 重機関銃による弾丸の嵐。

 蜂の巣にされた壁は既にボロボロでいつ崩れるかすらも分からない。


 白煙が舞う中で影が動く。

 少女が“V”の引き金に指をかける。

 その時。


 煙を割って目の前に投げ出されるグロックの拳銃。

「っ……!!」

 少女が慌てて重機関銃の照準を合わせる。

 だが、そこに青年の姿は見えない。

 

「こっちだ」

 しかし、肝心の銃手の声は少女の背後から聞こえた。

 少女の首元に白い腕が巻き付いた。

 「ぐっ……!?」

 真っ白に染まったイーグルが、後ろから少女の首を絞めていたのだ。

 

 腕の中で必死にもがく少女。だが、力不足が故に抜け出せない。

 暴れ回ったせいで機関銃“V”を床に取り落とす。


「大人しくしろ。このままオトすことも出来る」

 イーグルの制止を聞かずに必死に対抗する少女。彼の腕の力が強くなっていく。

「動くな。次動けば頭を撃つ」

 ドスの効いた声が少女の耳に響く。

 気づけば白いショットガンが彼女の頭に突きつけられていた。

 イーグルの身体の中で怯える少女。

「出来れば、お前の命を摘みたくない」

 少女が必死に首を縦に振る。

「…よし」

 ゆっくり締めていた腕を解く。

 だが。

 少女は咄嗟に小型の拳銃をイーグルの心臓に向けた。

「チッ……」

 少女は勝利の笑みを浮かべながら引き金を引く。


 パァン!!


 乾いた破裂音がカムリの胸元を抉るように響く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る