浮気NTR系WEB小説を読んで戦慄する幼馴染カップルの話

よこづなパンダ

浮気NTR系WEB小説を読んで戦慄する幼馴染カップルの話

 突然だが、俺・風間かざま 神楽かぐらには、幼馴染の恋人がいる。


 彼女は可愛い。めっちゃ可愛い。


 ひいき目とか抜きで、校内で、いや県内で、いやいや日本で、いやいやいや世界中の女の子の中で!


 ……一番可愛いと思う。

 船矢ふなや 茉莉まつり。名前も可愛いでしょ?


 現に、彼女を狙っている男の子の一人や二人、俺は知っていたし、茉莉によれば、高1の頃は俺と付き合っているにもかかわらず、実際に告白されたことが何度もあったそうだ。


 だから、俺は彼女と付き合っていることをできるだけ公にして、皆に見せつけてきた。

 流石に校内でいちゃついていると風紀を乱しちゃうからほどほどにしてるけど(そもそもボディタッチとか恥ずかしくて2人きりのときもあまりできてないけど)、教室ではだいたいいつも一緒だし、そうしているうちにやがてクラスメイトからの公認カップルとなって、1年に付き合い始めたときに比べたら、今では大分ましになった。


 こうして今、高校2年生となった俺たちだが、数えてみれば、付き合い始めてからはまだ1年と少ししか経っていない。

 だけど、幼馴染である俺と彼女の間には、幼い頃から共有してきた思い出が沢山ある。

 そして、その事実は、俺を他の男子とは違うんだ、という気持ちにさせてくれる。


 茉莉は心を開いた相手にのみ、色々と喋るタイプ。


 学校の男子たちは、きっと彼女の類まれなる美貌に惹かれてアタックしていくのだろうけど、俺は、彼女の内面的な可愛いところをたくさん知っている。圧倒的優越感。


 実際、彼女のことは可愛らしい見た目以上に、その性格が好きだったりする。

 ちょっとクールに見せようとするけど、失敗して照れちゃうところとか最高。


 TVで見るアイドルなんかよりも断然可愛くて、かつ性格が自分好みの彼女。


 絶対に手放すものか、と思っている。


 幼馴染で親同士の付き合いも長いから、俺たちの交際はもちろん親公認。

 その代わりに、安易に大人の階段を登れないのが残念だけど、俺は彼女のことを本気で大切にしたいと思っているから、我慢だ。


 そんな俺たちのデートといえば、7割くらいはおうちが舞台。理性を保つのにいつも必死である。

 決して大きいとはいえない街に住む俺たちが遊びに行ける場所なんてたかが知れているし、高校生の所持金では行ける場所も限られているから、仕方ない。

 そりゃバイトを増やせばいいとは思うけど、そうしたら彼女と一緒にいられる時間が減ってしまうので本末転倒な気がしてしまう。

 彼女自身が結構インドア派なのもあり、もっとよそ行きでお洒落した彼女を見たいという気持ちもないわけではないけど、俺たちは身の丈に合った交際を続けているのだった。




 そんな俺だけど、最近思うところがある。


 来年は高3になって、受験を考えなくてはならない。

 彼女の家は決して裕福なわけではないから、俺が頑張って沢山給料を稼いで、将来けkkごほんごほん、結婚、したときに茉莉のことを誰よりも幸せにしたい、という気持ちがあった。(やばい結婚めっちゃ恥ずかしい)


 だから、俺は県外にある、いわゆる難関大学と言われるところを志望校にしている。

 しかし、そうなると俺は県外に住んで一人暮らしをすることが必然。大きな休み毎に帰省することはできるだろうけど、彼女と会える機会が減ってしまうのは目に見えていた。


 嫌だ。

 こんな辛い思いを、みんな経験して……


 そう考えたとき、俺はふと、気になった。




 世の幼馴染カップルは、どうしているのだろう?




 幼馴染。

 小さい頃から、傍にいて当たり前だった存在。


 だけど、そのような子が生涯ずっと傍に居続けていることって、どれくらいあるのかな?

 もし、仮に一時離れ離れになってしまっても、心はずっと繋がったままでいたい。

 そう願っている俺は、ネットの力を借りて、そうあり続ける方法を探ってみようと考えた。



 幼馴染 カップル 彼女……



 それ以降の検索ワードは恥ずかしくて言えないけど、色々と片っ端から検索してみた。


 ちょっと参考にできそうなコラムがちらほらとヒットする。

 まあ、これらは後でじっくり読むとして、とりあえずそのまま下の検索候補に目を通していく。


 すると、創作物の数々が目に留まった。

 中でも気になったのが、WEB小説だ。


 俺は、普段から異世界転生系のWEB小説なんかは頻繫に読んでいるし、それを彼女にオススメしたり、おうちデートのときに一緒にそういったアニメを見たりすることもよくある。


 よくハーレムもののアニメなんかでは『幼馴染は負けヒロイン』として扱われるから、悔しくてそういった作品はあまり見てこなかったけど……

 こういった恋愛モノのストーリーを彼女と一緒に読んで、WEB小説をきっかけに、俺たちのこれからについて茉莉と一緒に考えるのも良いかもしれないな。


 そう思った俺は、試しに検索エンジンにヒットした幼馴染モノの短編小説を読んでみることにした。






~30分後~






 読み終わってからしばらく経ったというのに、俺はまるで氷漬けされたかの如く、その場で身動きが取れないでいた。




『なんだこれは』




 それは、ちょっとしたすれ違いをきっかけに、幼馴染が寝取られるという内容だった。


 あまりにも衝撃的すぎる展開に、俺の脳内はパニックを起こしていた。


 だが、それを機に色々とオススメ表示される幼馴染モノ小説の数々。




 ―――気がついたら、俺は次の作品をクリックしていた。









 そして、次から次へと湧いてくる作品を片っ端から読んでいき、『これ以上ないほどに自分を好いてくれていた幼馴染の女の子が浮気する』という物語に辿り着いた頃には、クラスメイトの前で堂々と交際宣言をしていた頃の自信はすっかり影を潜め、抜け殻のように力なく部屋の壁にもたれている自分がいた。


 俺はずっと茉莉のことを大切にしてきたつもりだし、茉莉を部屋に呼んでもずっと我慢してきたし、本当はもっと彼女のことを独り占めしたいけど、自分の身勝手な行動で彼女を縛り付けないためにも、他の男の子と話すことを禁止したりはしていない。

 勿論、茉莉には「好き」という気持ちは何度も伝えてきた。付き合いたいと告白したのも俺だ。




 だけど、茉莉の方は俺をどう思っているのだろう?




 照れ屋さんの茉莉のことだから、そういった気持ちはあまり表現しないタイプだ。いや、今日まではそう思っていた。


 しかし、実際のところ、俺と茉莉の間には温度差があるのではないか?

 茉莉は他の男の子と会話するうちに、段々とその子に惹かれていって……




 ああああああああああ!




 負のスパイラルに陥った俺は、それでもそれらの作品を読むことをどうしても止められなくて、そこから一晩中読みふけり、眠れない夜を明かした。




♢♢♢




 翌日。土曜日。

 今日はおうちデートという名目で彼女と家でゴロゴロする予定だ。


 正直、遊園地デートとかじゃなくて助かった。

 結局、昨日は一睡もできなかったからだ。


 他県の大学に進学するという俺の目標は、どうしても彼女と一緒にいられる時間がこれまでより減ってしまうことを意味する。


 そういう『離れ離れになる』状況下に置かれた幼馴染カップルの末路は、創作物においてもどこかリアリティがあって、俺の心の中には、それらを読み終わってからしばらく経った今でも不安な気持ちが渦巻いたままだ。



ピンポン



 チャイムが鳴り、ドアを開けるとそこにはいつも通り最高に可愛い俺の彼女が立っていて、少しホッとする。


 今日は俺の両親は休日出勤で家にいないけど、そんなことはお構いなしで何の躊躇いもなく俺の部屋にトコトコと入ってくる彼女。


 それもいつものことのはずなのに、ふと、このままでいいのか、という思考に陥る。

 何も手を出さない。彼女のためを考えた結果に起因する俺の振る舞いは、もしかすると茉莉の心が俺から離れていってしまう原因に??




 ―――今日の、というか昨日からの俺はどうかしているな。

 明らかにネガティブ思考が勝ってしまっている。

 今まで、彼女は絶対に渡すまい、と周囲に対して過剰なまでに明るく振る舞ってきたことへの反動だろうか。


 そんな俺とは対照的に、茉莉は今日も俺のベッドの上に腰かけた。

 そして、これまたいつも通りに……しかし、俺が今、最も避けたかった話題へと誘導するかの如く、彼女は首を傾げた。


「最近面白いWEB小説、ある?」


 部屋に入るなり、何気なくいつものノリで尋ねてきた彼女に、俺は冷や汗が出る。


「……べ、別に。特に最近は読んでないし、特になかった、かな」


 ……咄嗟に噓をついてしまった。

 ごめん。実はめっちゃWEB小説読んでます。


 あくまで平静を装ったつもりの俺だったが、そんな姿は長年一緒にいる彼女には通用しないらしい。


「あーっ!噓つきー!何か読んでるじゃん!そうやって誤魔化すときはだいたいHなものを読んでるときだもん!」


 そう言って、ベッドの上に投げ置かれていた俺のスマホを手に取る茉莉。



しまった



 不安な気持ちに苛まれていた俺は、一刻も早く彼女の顔を見たくて、スマホを開いたままその辺に放り出して玄関へと向かってしまったが…

 俺のスマホには、読み終わったばかりの幼馴染浮気小説が開いたままだったのだ。



「なーに読んでるのー?」


 そう言って、俺のスマホを握りしめ、後ろを向く彼女。


「……ちょ!返してよー!」


 俺は彼女の細い腕を掴もうとするが、俺よりも身長が低く不利なはずなのに茉莉は身軽に体を捩らせて俺の攻撃を巧みにかわす。


 そんなわけで、ついムキになってしまう俺だったが……


「……ひゃっ!」


 気がついたら、俺は彼女のことを後ろから抱きしめるような態勢になっていた。

 彼女の耳がみるみるうちに真っ赤に染まっていく。

 こういったことに初心なのが、親公認カップルというものだ。


「……!」


 慌てた俺が腕の力を緩めると、顔を真っ赤にした彼女はするりと腕の中から離れて、俺のスマホを手にしたまま、全力ダッシュでトイレに駆け込んでいった。


「あー!ずるい!!」


 これまでも彼女がこういう行動に走ったときはあった。

 おうちデート中の事故で、茉莉が照れ隠しに逃げる先はいつもトイレ。



 そこは、俺が追いかけてこられない場所だと知っているから。



 別にここは俺ん家だし、彼女も駆け込んだところでそのままトイレしてるわけではないだろうから、入って追い詰めても良いのだけど、万一可愛い彼女を傷つけるような展開になってはいけないし、結局小心者な俺は彼女が落ち着きを取り戻して戻ってくるまでは一人自室で待ち続けるのがお決まりのパターンだ。


 だけど……






~30分後~






 彼女はトイレから一向に出てこない。


 『トイレ遅いよ!』は女の子にかける言葉としてはあまりにもデリカシーに欠けるし、でも、流石に心配になってくる。


「あの……大丈夫?」


 恐る恐る尋ねてみる俺だったが、返事は聞こえてこない。不安になって、トイレのドアに耳を近づける俺。すると……


「……なに、これ……」


 今にもかき消されてしまいそうな、いや、実際に耳を近づけないとかき消されていただろう、茉莉のか細い声が、聞こえるのだった。


「……か、神楽くん、こ、こういう趣味だった……の……?」


「違うよ!!!」






 一時は半泣き状態にまで取り乱していた茉莉が少し落ち着いて、トイレから戻ってきた後、俺は全てを話した。


 離れた大学を目指すことを決意した結果、茉莉に会えなくなってしまうのではないかと不安になったこと。

 最近、ふと幼馴染カップルについて検索したこと。

 そして、そういうWEB小説を見つけてしまったこと。

 自分たちの関係も、いずれそういう結末になってしまうのではないかと、不安になったこと。


 一切口を挟まず、終始無言で俺の話を聞き続ける幼馴染の姿に、俺は話している途中から不安な気持ちを隠せなくなっていたけど、やがて俺が全てを打ち明けたとき、茉莉は口をきいてくれた。そのことに少しだけホッとする。


「……実は、今朝会った時から神楽くん元気がなくてちょっと心配だったんだ」


 そう、だったのか。

 かなわないなあと思う。俺の心は、茉莉には何でもお見通しなのだろう。ちょっと嬉しい。


「なんか目は血走ってたし」


 え、俺そんなだったの!?

 それは怖がらせてしまったのではないかと、あたふたしてしまう俺。

 本当は、こんなときこそ茉莉の心を支えてあげなきゃならないはずなのに、頼りない彼氏過ぎて申し訳なくなる。


 だけど、そんな俺のことを……




 茉莉はぎゅっと抱きしめてくれたのだった。


「……大好き。神楽くんは絶対に渡さない。」


 その言葉は、俺の心をすっと軽くしていった。




 彼女が、今の俺を気遣って言ってくれた言葉だってのはわかる。だけど、同時にそれが彼女の本心なのだと思うと、堪らなく嬉しい。


 俺はずっと彼女のことをみんなに自慢してきたけど、茉莉の方は俺のことをどう思っているのか、ときどき不安になることがなかったかといえば噓になる。


 俺は自分のことを特別イケメンだとは思っていないし、だから彼女の横に立つにふさわしい存在となれるようできる限り頑張ってきたつもりだけど、やっぱりどうしても自信を持てずにいた部分があったと思う。


 そんな気持ちを吹っ飛ばしてくれる言葉を、ゆでだこのように真っ赤になりながらも告白してくれる茉莉のことが、俺はますます大好きになってしまったのだった。




 たとえ離れてしまったとしても毎日ビデオ通話するつもりだったとか、それが俺にとって迷惑なことじゃなくてホッとしたとか、浮気が心配なら俺の親に自分の見張りを頼めば良いとまで言ってくれて、流石にそこまでしたら茉莉の自由を奪ってしまいかねないから気が引けるけど、いつになく慌てた様子で俺にあれこれと訴えてくる彼女は、今まで見てきた中で一番可愛かった。


「神楽くんに私の気持ちが伝わるまで、これから何度でも好きって言う!」


 そう宣言して甘えてくる彼女にかつてないほどに気持ちが昂ってしまった俺は、うっかり一時の過ちを犯してしまいそうになったけど、この後いっぱいキスして落ち着いた。


 そう。なんか落ち着いた。









 ホッとした俺は、寝不足もあって気づけばそのまま眠りに落ちていたようで、目を覚ましたときにはもう夕方の5時を回ったところだった。


 ふと僅かな重みを感じて目線を下に向けると、そこには俺の胸に額を預けてすやすやと眠る幼馴染の姿があった。


 今思えば、昨日はあんなに不安に思ってバカみたいだった。


 だけど、昨日があったからこそ、今日俺たちの関係はより一層深まったと思う。


 その結果、これまで以上に茉莉が無防備になってしまったところはちょっと憎いけど、こんなにも可愛い彼女のことを、俺はこれから一生かけて大切にしていこうと心に誓ったのだった。

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