第19話謝罪

翌日、入院したと連絡が入って真っ先に病院に顔を出してくれたのはおふくろ達家族だった。

あぁ、家族って何でそんなに暖かいんだろうか

だがそう思ったのもほんの数分の一時であった。


「さぁ、全て吐きなさい神威、いったいどこの女を口説いて椿ちゃんにそんな大層な傷つけられたの?愛想つかされてもいいの?それとも親より先に旅立つ親不孝者になりたい?」


ギリギリ


現在オレは、何故か椿がいるにもかかわらず浮気した挙句に現場をツバキに見られて怒りを買い、手元にあった手頃な刃物でぶった切られた…という事になっているらしく、おふくろのコブラツイストを食らわされていた。

いや、切られた以外何一つ当ってねぇし!!!


「ギブ、ギブ、吐いちゃう。入院食全部吐いちゃう」


オレは苦しさのあまり、おふくろの腕をタップする。


「吐くなら私の質問あと10個この体制のまま答えてから吐きなさい」


「メッチャ理不尽!!!」


答え切る前に吐瀉物で埋もれるわ!!


「ご主人元気そう!!」


「そうだねぇ〜思ったよりタフだね、お兄」


「さすがオレの息子だ」


誰一人として助けようとしてくれない、家族内の上下関係に涙がちょちょぎれそうですよまったく。


「あの、お義母様。神威さんの傷が開くと大変ですので、そろそろその辺にしては…」


「椿様!!!」


「…はぁ〜椿ちゃんがそう言うなら」


おふくろが、ゆっくりとオレを解放する。

椿様ありがとう。マジリスペクトっす。

将来尊敬する人はと聞かれたら、即座に椿様と答えられるほどリスペクトっす。


「因みに椿ちゃん、こいつの浮気相手は誰なの?」


「え"?」


まだ疑ってやがるよこのババア。


「ご主じーん!!」


ドゴォ!!


「ぐぼぇがぁ!!!」


ようやくおふくろのコブラツイストから開放されたオレだったが、今度はういはの激しい体当たりでぶっ飛ばされる。

おかしいな…ここ病院なのに、治るどころか、怪我が増えてる。


「あ…」


「これういは、止めんか」


「え?」


ピクピクと痙攣するオレに、ういははどうしたの?と言わんばかりの表情で見つめてくる。

いや、君がやらかしたんだよ。ういは君。


それから何とか意識を取り戻したオレは、家族からの見舞いも淡々と済ましてようやく一息ついていた。


「やっと帰った…」


「家族にそんな事言うもんじゃないぞ神威よ」


「その家族から、コブラツイストと全力タックルと、読者には説明してないけど沙耶からの腹パン略して沙耶パンもくらってるんだからな」


「メタいこと言うでないわ」


だってほんとだもん。

アレだな、アイツのパンチは世界を取れるよ。ミスターサ○ンを超えてるよ。キングパンチじゃなくてクイーンパンチだよ。


「にしても暇だねぇ」


「…のう神威、あまり強がらなくてもいいんじゃぞ」


病室の花の手入れをしながら、椿がいきなりそんな事を言い出してきた。

はて?強がる?なんのことを言ってるのかねこの娘っ子は


「お主、あの闘いで負け「はいストーーップ!それ以上は言わなくてよろしい」じゃが!」


「強がってなんかいねぇさ!オレはオレ、いつも通り!アニメ、漫画が好きなただの高校生だ」


「……」


オレがそう言って空気を変えようとしたが、何故か失敗してしまい椿とオレだけの病室で沈黙が続く。

そこへカラカラとドアが開く音が聞こえ、里見先輩と春華さんの2人が入ってきた。

主に春華さんは変態のおっさんを引き剥がそうとしながらだが、


「見舞いに来たぞ」


「やっほーアンタ達、ちゃんと生きてるぅ?」


「春華ちゅわぁん!いいじゃんちょっとくらい付き合ってよぉ」


「離れなさい変態!!」


「おぼぉ!!」


「救世主(メシア)!!!」


「「は?」」


オレの呼びかけの言葉に、目を点にする2人

そんな変な事言った?


「とりあえず今の言葉はスルーするぞ」


「辛辣!!」


「うるせぇ、それよりもお前らにきちんと、この前の事を説明しておきたいからな」


「椿、アンタには私が説明してあげるわ、こっちに来なさい」


「え?あ…はい…」


椿は、春華さんについて行き、そのまま病室を出ていく。


「んじゃあオレも」


後ろからおっさんがついて行こうとしてますが?


「「(アンタ)(お主)は自分の仕事に戻って(なさい)(おれ)!!!」」


「あぁぁぁぁぁぁ〜〜!!」


2人同時に胸ぐらを掴まれて放り投げられるおっさんは、廊下の隅まで投げ飛ばされて行った。


「ふぅ〜、相変わらずだなあの変態」


「先輩のかかりつけだそうじゃないですか」


里見先輩は、椅子に座ってため息をこぼす。


「まぁな、変態だが腕は確かだ。変態だが」


2回言った…


「んな事より、あの後っすよ。結局どーなったんですか?」


里見先輩は、ニヤニヤと笑いながらオレを見てくる。

なんか腹立つ。


「勝ったさ、だからオレがここにいるんだ」


「まぁ、そうでしょうね…」


「だが、アイツらの強さは本物だった。お前が苦戦したのも分からなくは無い」


確かに強かった。あの時のオレの敗因は、敵の能力を見誤った事だ。

正直…悔しくてたまらない。


「無理すんな、だから春華に椿を連れて席を外してもらったんだからよ」


「…ぐすっ…はい…」


気がつけばオレは、涙やら鼻水やらで汚い顔になってしまってた…ははっ情けねぇ

そんなオレを見て、先輩はオレの頭を撫でてくる。


「よく頑張ったよお前は、負けたけど、今回の負けは次に繋がる。自信をもて、胸を張れ、前をみろ。それができるのは失敗を経験したやつだけだからな」


「ありがとう…ございます…うぅぅっ」



椿視点



「さぁて、アタシもちゃんと話さないとね、康太に頼まれちゃったし」


頼まれた?いったい何の話しじゃ?


「何の話しじゃ?」


「アンタもなんとなく気づいてるんでしょ?この前の闘い」


「っ……!」


「あの程度に手こずるようじゃダメね、それでも五大刀輝ってやつなの?あれだけ大口叩いておいてアタシより実力が下なんて聞いて呆れるわ」


妾は何も言い返せない。全て事実じゃから…


「あのね、一つだけ言っておくわよ。これは康太から言われたわけじゃない、アタシ個人の意見よ。

康太もね、初めは色んな敵と闘って死線を括ってきたのよ。それこそアンタ達以上にね。それでも、黒羽にはまだ届いてないと思ってる」


春華は、コチラを真剣な目で見つめながら拳を強く握っていた。


「だからアタシは、アタシ達より弱いアンタ達が気に入らない。康太はアンタ達を買ってるようだけど、アタシは違う。

康太の足を引っ張らないで、康太は…アタシにとってかけがえの無い存在なの、アイツがいない世界なんて考えたくもない。少しでもその可能性があるなら、アタシは、今この場で可能性の芽を潰しておきたい」


こやつの気持ちはわからなくもない、妾達とこやつらの立場を入れ替えて考えたとしたら、妾も同じ考えに至るだろうから。


「アタシが言いたいのはそれだけ、後の事は知らないわ」


「…すまぬ」


その一言が重たかった。ただ一言謝るその言葉が…

そして、春華が妾を指さす。


「謝る相手が違うんじゃない?今回の一番の被害者はあの坊やでしょう」


そうじゃ、確かに今回妾のせいで神威が死にかけたのじゃ…真っ先に謝るべきじゃった。


そう思った時、妾の足は神威の病室へ向かっていた。



神威視点



「スッキリしたか?」


「ウッス」


オレは目を真っ赤に腫れさせて、俯いていた。

いや、めっちゃ恥ずかしい!!穴があったら入りたい!!


「しっかり録画しといたぞ」


「消してくださいお願いしゃす!!!」


オレはベッドの上で、綺麗な土下座を披露して見せた。


「嫌」


「まさかの即答拒否!!?」


「まぁなんかあった時の保険だな。脅しに使える」


「ドグサレ鬼畜先輩コノヤロウ」


「そうか、まず椿にでも見せてくるか」


「ジャストモーメント!先輩話せば分かります!」


椅子から立ち上がる先輩の袖を必死に掴み、オレは先輩の動きを抑える。


「冗談だ」


「ガチトーンだったじゃないっすか…」


そこへ、ガラガラ…バン!!と勢いよく病室の扉が開き、息を粗げながら椿が戻ってきた。

なんて間の悪いタイミングでしょうか。


「神威!!」


「あぁうぇ!!!?」


いきなり大きな声で呼ばれて、自分でもわけの分からない声で返事をしてしまった。


そして椿は、オレに抱きついて「すまぬ」と謝ってきた。

え?ナニコレ?どーゆー状況?


「妾は悔しかった。お主をここまでボロボロにさせた自分自身が憎らしい」


「ナニナニ…いきなり何?」


「んじゃあ、オレは春華連れて帰るわ」


「この状況でサラリと帰ろうとしないで先輩!!!」


「じゃ、そーゆー事で」


「せんぱぁぁぁぁぁぁい!!!!」


———————————————————————フォロー、応援、コメント等よろしくお願いします

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る