第8話交渉成立

里見先輩の話しを聞き、その後男子生徒…もう野郎でいいや、野郎共から逃げ回り、ようやく椿と合流できたオレは、何とか椿の手を引いて帰り道を2人で帰ることに成功した。


「あ〜疲れた…運動部よりハードなんじゃね?」


「クスクス、神威の周りは賑やかじゃのう」


笑いながらこちらを見てくる椿は、何とも絵になる光け…いや違う違う、半分以上はあなたが原因なんですよ椿さん。可愛い仕草をしてもその事実は変えられんのですよ。


「さっきまで待たされ続けて怒っておった妾も、あんなに激しく手を引いてくれたおかげで怒りなどどこかへ行ってしもうたわ」


「それは、ようござんしたね」


あんなに危機迫ってくる野郎共から、椿1人残して逃げるなんて出来るわけないんだから、手を引いて逃げるのは当たり前だろうに。


「それはともかく、先程言っておった里見先輩とやらの話しじゃがの」


そう、帰りの途中に忘れない内に椿に里見先輩の事を話しておいたのだ。

何とも手を回すのが早いのでしょう!自分でも惚れ惚れするね!


「今現在、妾としても断る理由がないから手を組むというのも構わんぞ」


お?意外とあっさり通ったな。


「お前の事だから、もっと慎重にとか言うかと思ってた」


「まぁ、そうも考えたのじゃがな、その、色々と情報を教えていなかった罪悪感もある訳じゃから…の?」


あー、そういえばそうでした。椿はこの戦いの事をほとんどオレに説明してなかったな、自分は知ってたっぽいし。


「まぁ、いいや、お前がそれで罪滅ぼしの1つと考えるのならそれでも、オレとしてはいい方向に進んでるわけだし」


「い、いや!いつかは話そうと思っておったのじゃ!いつかは…の?」


いつかっていつよ…


「コホン、とにかく!1度妾もその里見先輩に会ってみる必要がありそうじゃ、出来れば先輩の刀にも会ってみたいのぉ」


「さぁ、どーだろな、先輩は刀を学校に連れてきていないみたいだし」


そーいえば確かに、あの人の刀は居なかったな、学校にいる間大丈夫なのだろうか?


「それと、里見先輩の祖父母を殺した男が持ち去ったという黒羽…おそらくじゃが、妾達も無関係とは言いきれぬぞ」


「は?無関係じゃねぇって何で?」


「言ったじゃろう、五大刀輝は引かれ合うと」


え?それってまさか


「黒羽は五大刀輝の内の1本じゃ、それも1《いち》2《に》を争うほど厄介な代物じゃぞ。それこそ妖刀と呼ばれてもいいほどにな」


まじか…つまり、いつかはオレ達と戦うかもしれない敵になるかもって事だよな?


「それって里見先輩は…」


「さぁ?知ってか知らずかはまだ分からぬが、おそらく仮に里見先輩が契りをかわした刀が相当の名刀でないとしたら、持ち主の力に余程の実力差がないと勝てるかどうかも怪しくなってくるじゃろうな」


そんなにヤベーのか、五大刀輝って


「おいおい、里見先輩大丈夫なのかよ」


「分からぬ、じゃがどう転んでもどちらもタダでは済まぬじゃろうな」


そんな話しをしている内に、気がつけばオレ達は家に到着していた。


「とりあえず、明日のことは明日考えよう、今無い頭を絞ってもしょうがねぇしな」


「そうじゃの」


オレ達が家に入ると、早速ういはが出向いてくれた。


「ご主人!お姉ちゃん!お帰りー!」


ういはは、真っ先にオレの足にしがみつく。


「ただいま、ういは」


「妾も呼んでおいて、なぜお主は神威に張り付いておるのじゃ」


「えへへ〜」


よく見ると、ういはの服が変わってる。青くて可愛らしいクマの顔が描かれたシャツに、半ズボンを履いていた。


「お?ういはその服どーした?」


「買ってもらいました!」


「おー、似合ってるぞういは」


オレは、ういはの頭を優しく撫でてあげた。


「妾より先にお義母様達からプレゼントだなんて…」


嫉妬が怖ぇ…


「あら、2人ともお帰り」


ういはと話していると、お袋がエプロン姿で顔を覗かせてきた。晩飯作ってる途中だったのか。


「ただいま」


「ただいま戻りました。お義母様」


「はい、お帰り。帰ってきたなら手洗っておいで、あと椿ちゃんには神威の部屋にプレゼント♡置いてあるわよ」


お袋が椿に向けてウィンクしてるが、おおよそプレゼントの想像はつく、ういはが服ということは、椿用の新しい服でも用意したのだろう。


「本当ですか!!!ありがとうございます!!!」


椿は、ルンルンと洗面台へと向かって行った。

オレと椿は手を洗い終えて、椿はオレの部屋へ、オレはリビングへと向かう。


「あ、おにぃお帰り〜」


「おう神威、遅かったな」


部屋では、沙耶と親父が2人してテレビを見ていた。


「あぁ、大変だったんだよ。椿が来て早々にな」


「あー、何となく想像ついた 」


「椿ちゃん可愛いからなぁ」


沙耶と親父も何となく察してくれたようで、遠い目をしていた。


そして、ドタドタと階段を降りる音が聞こえ、オレ達が振り返ると同時に、リビングの扉がガチャりと開かれた。


「じゃーん!!どうじゃ?中々いいじゃろ?」


そこには、白いワンピ姿の椿が嬉しそうに立っていた。


「うわっ…すっごい綺麗」


「やっぱり椿ちゃんは何着ても似合うなぁ、なあ?神威」


「………」


「神威?」


沙耶と親父が感想を述べる中、オレはただボーゼンと椿の服を見ていた。


「フッ」


「!」


ニヤリと笑う椿は、何かを察したのかオレの下に歩み寄り、小声で囁いてきた。


「似合いすぎて声も出んか?え?ご主人様♪︎なんなら、今度一緒に他の服も買いに行こうぞ」


うっ…見透かされてる。


「私この服気に入りました!」


「あらぁ!似合ってるじゃなーい!!」


「お姉ちゃんキレー!」


料理を持ったお袋とういはが、感想を述べながら机にりょうりを置いていく。


「お義母様、素敵なプレゼントをありがとうございます」


「いいのよぉ、ここに来てくれたお祝いみたいなもんなんだからぁ。勿論、ういはちゃんもね」


「えへへ」


お袋に頭を撫でられて嬉しそうにするういはと、これでもかと姿鏡の前でワンピースを揺らして嬉しそうな椿、それを和やかに見る親父と沙耶…なんか平和っぽいけどこの光景に慣れちゃいけないような気がする。

なんでかは分からんが


そして翌日


「じゃーん!!どうじゃ?神威よ。昨日はワンピースで今日は制服じゃぞ。似合うか?」


朝一で仕切りの向こうで何かやってると思ったら、もう昨日貰った制服に着替えたのか。

あと、オレは寝起きで頭が回っていないからもう少し寝かせて欲しい。


「うん、似合ってる。それじゃあおやすみ」


オレは一瞬椿の制服姿を目にしてから、もう一度布団を被った。


「待たんか!!昨日のワンピースとエラく反応が違うではないか!!」


だって、制服は他の女子も着てるからそんなに違わねぇじゃん。

そして、椿はオレの被ってる布団からゆっくりと手を離す。


「そうか、神威は制服フェチではないのか」


「フェチっつうな!!オレが性癖の塊みたいじゃねぇか!!」


「では何フェチなのじゃ?」


「言ってたまるか!!」


「何にしてももう起きた方がよいぞ?神威よ」


は?もうそんな時間だっけ?

オレはそう思って時計を見たがまだいつもより30分も早い時間だ。

フッ、オレならあと25分は寝てても余裕だぜ。


「今日は早朝持ち物検査をするとか先生が言うとったじゃろう?」


そうでした!!

オレは慌てて飛び起きて、急いで学校へ行く支度を始めた。


「まったく、困ったご主人様じゃ」


オレ達は2人して家を出て、走って学校に向かうこととなった。


「ぜぇ、はぁ、キッツ!しんど!もう帰っていい?」


「登校すらしとらんじゃろうに」


そして、学校が近くなった時、オレ達の前に里見先輩の姿が見えた。


「里見先輩だ」


「ほぅ、あやつが」


あやつとか言うんじゃない、先輩なんだぞ。

ちょうどいい、ここで昨日の返事をしてしまおう。


「里見先ぱ〜い!」


「!?」


可愛い女子高生をイメージして、声のトーンを高くして先輩に話しかけに行ってみたが、隣りにいた椿がドン引きしている。なぜだ?


「神威…気持ち悪いぞ」


「酷くね!?」


事実かもしれんが、なんて事を言うんだこの子は、オレじゃなきゃ卒倒してるぞ


「八九師、オメー気持ち悪いぞ」


里見先輩まで!?思ったよりも不評のようだ。


「それで?何の用だ八九師、刀まで一緒に連れてきて」


「いや、昨日の返事をね、しようかと思いましてですよ」


それを聞いた先輩は、頬を緩めてこちらに視線を向ける。


「へぇ、いい返事は聞けそうか?」


オレは笑顔で、先輩に向けてサムズアップをして見せた。


「勿論っす!昨日の返事、快く受けますよ!」


「そいつは良かった。ならオレの刀も紹介しておかねぇとな、放課後、オメーの刀と一緒に昨日の教室に来いよ。刀と一緒に待ってるぜ」


オレは、ビシッとでも効果音が着きそうな勢いで敬礼して見せると、里見先輩は手を振って先に行ってしまった。


「なんだ、一緒に登校すればいいのに」


そして、学校に到着すると、里見先輩が先に行ってしまった理由がよく分かる事件が起こった。


「テメェ、椿ちゃんと登校とはいいご身分じゃねぇか」


「今朝の持ち物検査がなければもっと楽にあの世に行けたのにな、可哀想に」


「今、使えそうな武器用意してるからよォ、大人しく待っとけや」


「ヤンキーのたまり場みたいになっとる…」


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