焦点絞って

のーと

脱力して、構える

「明日の実技試験どうしよう。」

独り言の内容をわざわざ友人に向かって呟く。

「出席くらいはしとけば。意欲点まで落とすなよー。」

コンパクトに写る自分の顔を見つめる彼女はまるで真面目に取り合ってくれない。角度を変える度揺れるショートカットは悔しいことに滅茶苦茶絵になる。

「なんかさコツとかないの?」

あんまりに迷って考えあぐねた結果藁にもすがる思いでそうぼやく。

「コツゥ?」

コンパクトをパチリと閉じて私を向く。眉を顰めて面倒くさいを隠さない表情。

「初等魔法にコツなんかないよ。みんなできてんだから。」

「なんでそういうこと言うのー。」

全くの正論とその声は私の心を穿つ。

「……どうしたらできるか、じゃなくてどうしてできないかを考えて見れば? 」

薄笑いのまま確かに傷ついた私を察したのかどうしようもないアドバイスをくれた。

本人にも自信はないのかこちらに視線は合わせないまま。

「あー? うん。ありがと? 」



出席番号順に見せしめ地獄が近づいてくる。先生からするとこれは救済措置。誰にでもできることだからここで最低限の成績を取らせてやって赤点と補習は回避させてやろうというお情け。

「じゃ、雲井ー。」

私の一つ手前の子が呼ばれた。気だるそうに返事をして箒を立てて手を離す。

それを見て私は箒を握り込む。鼓動は加速して思考がから回る。思いのほか強く握った柄からみし、と音がしてそれにすら驚いて肩を揺らす。

隣のクラスメイトは詠唱なしに人差し指をくい、と持ち上げ自立した箒と同期する。箒は彼女が指で空をなぞった通りにに校庭を駆け巡り何か描く。踊るように砂に跡を作って線を引いていく。先生はバインダーを抱えながら砂に浮かぶ紋様を静かに見守っていた。

クライマックスに近づいたのだろうか、指先だけの動きが指揮をするような振りに変わる。

先生は笛をくわえていてもうそろそろ自分の番なのだと固唾を呑む。

そこから私の視界は曖昧で彼女が校庭に何を描いたのか上手く認識できなかった。

先生の合格を告げる笛の音で私の意識は無理くり授業に戻される。

「じゃ、次、短田。」

沈黙と棒立ちが許されない合図。どうしても聞きたくなかった言葉。

補助の詠唱だって何にも意味ないし。私にとって全ての対策は気休めでただ結果だけが長い夜をもたらすから。

視界は狭窄していくし、体温はどこまでも上昇する。

私が動き出さないからクラスメイトのざわめきも止んで私の背中に視線が刺さった。

ごめんなさい、できません。でどうにか見逃して貰えないだろうか。

制服のむねに輝くバッチは今確かに私の足枷だ。

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