第4話

 今度は、セーラー服を来た少女がやってきた。少女は、うつむきがちに歩いていた。顔の近くに手をやって、とりわけ頬を隠そうとしていた。あなたを見下ろした。

 あなたは目をつむっているのに、少女の頬をその時認識していた。


 少女は、セーラー服のネクタイをはためかせ、一人通学路を歩いていた。頬にできたたくさんのにきびを隠すように、ずっと下を向いて、歩いていた。小学校の終わりから、出来始めたにきびは、別の生き物のように、少女の頬に生息し、好き放題をしていた。


「ずいぶん変わったわね」


 友達の母親は、参観日の時に、少女を見て、少女の親に、そう言って、笑ったそうだ。勝ち誇ったような笑みだったと、母は怒っていた。少女は、あいまいに笑い、部屋にこもった。

 小学校と中学校は、同じ方向にあった。いつも、少女は小学校から目をそらして歩いた。公園を通りすぎるとき、ふと何かにひかれるように、公園を見る癖がついたのも、この時からだった。

 その時、少女はふと思い出した。あの日、楽しくて、まばゆかったあの日、見た光景が、ちらりと頭をよぎった。


「そうだ、あの日、子供がいた。なにをしていたか、わからないけど、公園の真ん中で、しゃがんでいた。あの時、あの子は何をしてたんだろう」


 セーラー服の少女は、ひらめいたように、言った。何か糸口を見つけるような、そんな言葉だった。そうして、ほうけた様な顔をしていたが、彼女もまた、あなたを見下ろした。あなたの瞼がぴくりとけいれんした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る