第12話 制服を着た女の子

試合会場になっている体育館では、応援用に2階席が開放されていた。

地区予選出場のための予選だから、見に来る人も限られている。

出場校の生徒やその保護者がいるくらいで、人はまばらだった。

莉子は2階席の中でも一番前の席にわたしを連れて行った。


ふと気になって

「莉子ってバスケのルール知ってるの?」

と、聞くと

「相手のゴールに多くボール入れた方が勝ちでしょ!」

という答えが返ってきた。


間違ってはいない、けど…



皐月高校は次の試合だった。



知っている顔がないかと周りを見渡したけれど、誰もいない。

代わりに、少し離れたところに、皐月高校の制服を着た女の子達を見つけた。


誰かの応援に来てるんだろうな。



皐月高校の対戦相手は、桜西高校という私立の高校だった。

私立だけあって、部活に力を入れている。強豪校の一つだ。


「ねえ、颯太くんどれ?」

「1番の背番号つけてる子。」

「1番ってことは一番上手いってこと?」

「えーっと、うちの高校はポジションで背番号つけてるから、ポイントガードってことになるかな。」

「ふうん。」

莉子の返事で、よくわかっていないということがわかった。


颯太はバスケ部の中で見るとそんなに背が高くない。

だからポイントガードなのかな。

とは言っても、158cmしかない自分よりは随分高いから、170cm以上は余裕であるんだろうけど。



ホイッスルの音で試合が始まる。



「ずっと走ってるから全然颯太くんの顔わかんない…」

莉子の言うとおり、本当に颯太はずっと走っている。

走りながらも誰がフリーなのか見えていて、パスが上手い。

そしてドリブルが速い。


ずっと目が追ってしまう。


「ねぇ、なんで颯太くんは自分でどんどんゴールしに行かないの?」

「えっと、彼は司令塔みたいな役割だから自分から点を取りに行かないわけではないんだけど…」

その時颯太が相手チームからボールを奪った。

その瞬間、皐月高校の制服を着た女の子たちが声を上げた。

「北条くん!」

それを聞いて、莉子が

「颯太くん!」

と声を上げた。

それで、女の子たちに睨まれてしまう。


なんで張り合ってんの…


それでも、女の子達が颯太だけの応援に来ていることがわかった。


「颯太くん、こっち見たよ。」

莉子が言った。

「試合中に2階席なんて見ないよ。」

「そうかなぁ、わたし目はいいんだけど。」


皐月高校は強豪校相手に頑張っていて、同点のまま時間だけがすぎていた。

相手チームの選手は本当に高校生なのかと思うほど背が高い子ばかりで、それだけで随分不利に見えてしまう。


残り時間が少なくなった時、再び颯太がボールを手にした。


「北条くん!」

という高校生の子達の声に

「颯太くん!」

と莉子の声が重なった。


颯太は、今度は誰にもパスせず、早いドライブで、相手チームのディフェンスを抜くと、綺麗なシュートを決めた。

同時にホイッスルが鳴る。


「勝った?」

莉子が嬉しそうに聞く。

「うん、勝った!」

「すごーいっ!颯太くんかっこいい!ね?」

「うん。」



ずっと、颯太しか見てなかった。

試合中、誰か1人だけ目を離せないでいるなんて、こんなの初めてだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る