(10)「才」「害」

         ***


『彼女――咲は、君のことをもう恨んでないって。私もあなたの立場だったら同じことをしてしまったと思うから、だって』


 十七歳になる寸前――明るい光に包まれる瞬間に案内人にそう告げられた。

 それを聞いた瞬間、絶句した。そして何も言えなくなっていた。呆れや失望、怒りとは違う言い知れない何かがぐっと全身に巡り、煮えたぎっていた情動が一瞬にして消え失せてしまった。

 ああ、それと、と言って放心状態の俺に、「咲からの伝言」と意味ありげに、にやりと笑みを浮かべる。


『咲、あなたは生きてていいんだよ。どんな時も私はあなたの味方で傍にいる。だから一人じゃないんだよ。咲、どうか、どうか強く笑って幸せに、生きて――』


 は? 嘘だろ、おい、こんなの、……えっ、なんで、なんで泣いてんの、俺? おかしいだろ。なんで、こんなに胸が痛いんだよ? 

 もうどうすりゃいいんだよ? 俺の恨みや怒りの矛先はどこに向ければいいんだよ? 俺はこれからどうすればいいんだ? 教えろよ! なんで? どうすれば?

 咲! 案内人! 答えろよ! 俺はどうすればいいんだよ……これから!


「……じゃあね。自分が作った世界、頑張って、生きてね、じゃあ、さようなら……」




 待てよ! この先どうしたらいいんだ!







 ねぇ――






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「才」「害」 うよに @uyoni

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