星型

OnnanokO

星型

目の前に倒れているのは私の同胞である。手に握っている星型のステッキにはその同胞の血がついている。猛烈に雨が降っているがこの血は洗い流されることはないだろう。こうなることは誰もが予想できたし、予想できなかった。でも少なくともあの時の自分には想像できなかっただろう。

『魔法少女』という響きに憧れて入ったこの世界。世界には歪みが生まれ、そこから魔の者が攻めてきていた。その魔の者を退治、消滅させるために魔法少女達は力を与えられた。選ばれた者は声を聞き、その声に応えると魔法少女になれる。

私が魔法少女になった時は世界で自分だけが魔法少女になったと思っていた。でも違った。何回かの戦闘の中、とある魔法少女と出会った。そこで魔法少女はたくさんいてそのたくさんの魔法少女が世界の均衡を保っているということを知った。その時に芽生えていたあの感情をしっかり言語化できていればこの惨劇はなかっただろう。

たくさんの魔法少女と共に魔の者を殲滅する日々。魔法少女じゃないときは人間として日々を過ごす。

人間の時の私には何もなかった。小さな四畳ほどの部屋で1人で暮らしていた。その部屋に帰っても誰も迎えはない。連絡する相手もいない。私の親と呼ばれる個体は存在していなかった。

魔の者が世界の歪みから生まれるように私も世界の歪みから生まれた。それに気づいたのは魔法少女になってかなり年月が経ってからだった。いつか自分の親に会えることを希望に生きていたがこの事実を知った時に希望が絶望へ変わった。

「お前も我と同じ者である」という言葉を消滅間近の魔の者が放った。その続きを聞こうにも魔の者はそのまま消滅してしまった。その答えを探すために私は痕跡を追ってたくさんの場所を回った。その一つのとある施設で私は歪みから生まれたことが分かった。そしてこの魔法少女という力は人間が作り上げ、魔の者も人間が出現させたことが分かった。全部偶発的なことだが原因は人間にあった。

今のままではこの世界の許容量が危ういと感じた科学者が別の次元への拡張を試みたところ別次元へのゲートが開いてしまったということだった。そこから魔の者が溢れた。その最初のゲートで私がやってきたという。まだ小さかった私は光の力で魔の者を払って眠ったという。その力を研究して他の人間にも使えるように量産したのが魔法少女だということ。私はただ一つのオリジナルだとということ。そして利用されていたということ。

久しぶりの大雨。私は特に変身はしなかった。魔の者は出現していたが他の魔法少女が対応していた。傷ついて戦っている姿を見ながら私は一人、星型のステッキを握っていた。魔法や光線が飛び交う。飛んでくる瓦礫を避け魔の者の攻撃も躱す。「何故、あなた戦わないの」と声が飛ぶ。その声も雨の音ともに流れる。私はこの場一人、舞っていた。雨からも戦闘からも視線から感情から全てから音を感じて舞っていた。雨粒は私の体を伝いステッキを滑っていき地面に落ちる。地面に落ちると波紋になる。私はこの場ではこの波紋であった。戦闘が終わろうとしている。魔力を使い大きな魔法を魔の者に放とうしている。私はその魔力を星型のステッキに吸収した。そしてそれを増大して魔の者へ放った。地面はえぐれ、その衝撃は遠くの方の地形を変えた。

「終わったのね」と力尽きた魔法少女が言う。「始まったのよ」と私は星型のステッキでその魔法少女を力一杯殴打した。ステッキには血がつき、顔にも血がついた。その姿を見ていた他の魔法少女は震えた。魔法が飛んできて私の肩に当たった。肩は外れたがそのまま使える方の手でステッキを振るって魔法を撃った魔法少女を殴打した。その場にいた全ての魔法少女を殴打した。そのあと私は魔法少女を呼ぶかのように光の柱を出現させた。そこに蛾のように集まる他の魔法少女達。そのあとは私は全ての魔法少女を撲殺した。

倒したあと魔力を全て使って唱えた魔法。それは世界を作り変えるものだった。私は全てを作り変えた。


ビルが建ち並ぶ都会で仕事をしている。「もう休憩終わっちゃうよー」と声がかかる。「あ、私トイレ」とトイレに駆け込んで鏡で化粧と髪型を直す。耳には星型のイヤリング。ふと鏡を見ると顔に血がついていた。手で拭っても手には血がつかなかった。「あぁ。懐かしい」とにやりと笑う。「もう行くよー」と外から声がする「ごめーん」と急いでトイレから出ていく彼女のイヤリングの星が揺れる。心なしか赤色がついている気がした。

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