第2話 あっ晴れ

早央里さおり先生、昨日で本当に良かったですよね」


北野きたの先生のお陰じゃなない」


 僕は、そう言われて、悪い気はしなかった。でも、この功労者は、音楽担当教諭の天日去あびこ先生なんだ。



 そう、6年生の遺跡見学学習は、木曜日の昨日無事晴天の中で行われたのだ。


 しかも、今日は、朝から雨模様だ。そんなに雨量は多くはないが、1分たりとも雨の止む時は無いような降り方だ。


「本当にいい日を選んだものだね~」


 傍を通った教頭先生にも褒められた。



「それにしても、前日の水曜日は、あんなに大雨だったのに、午後から一転快晴になり、地面もすっかり乾くんだもの。遺跡の見学には、最高だったわよ」


 早央里先生は、満面の笑みで褒めてくれた。



「早央里先生、僕は天日去先生にお礼を言いに行った方がいいでしょうか?」


 今度は、小声で聞いてみた。


「別に、いいんじゃない?……何かの時についでに報告しておけば……」


 早央里先生は、案外、あっさりとした感じで、天日去先生についてはあまり触れようとはしなかった。


 ちょうど週末の日曜日に、近くの公園で野外演奏会が開かれる。出演するのは市民楽団の人達で、その中に天日去先生も混じっている。

 彼女は、ティンパニーの名手だそうだ。職員打合せでも紹介があり、「ぜひ、日曜日の午後は見に来てほしい」と、告知があった。


 定期演奏会で、保護者や子ども達もたくさん見に来るらしい。


 先日のこともあるし、僕は見に行くことにして申し込んだ。参加は、無料なのだが、急な変更等の連絡もあるということで、メール登録をするのだ。




 僕は、少し楽しみな気持ちで、週末を迎えた。


 演奏会を明日に控え、僕は少し浮かれた気持ちにもなっていた午前中に1本のメールが届いた。

 明日の演奏会を午前9時開催にするという開会時間の変更案内だった。



 何が予定変更の原因なのかは、メールに記載していなかった。


 とりあえず天気予報も確認したが、明日は一日中「晴れマーク」だった。

 きっと、団員さんの都合でも悪くなったのかなあと考えてみたが、よく分からず、その日はそのままにしておいた。





 次の日、演奏会は9時に始まった。風もなく、太陽が降り注ぎ、気持ちの公園で、楽しい一時を過ごすことができた。

 11時には、すべてが終了して、楽器搬出もお昼までには済んだ。


 僕は、天日去先生に一声掛けてから帰ろうと、しばらく待っていた。楽器に搬出時にでも傍に行って声を掛けようと思ったのだが、どうもそんな雰囲気ではなかった。


 どの団員さんも、無言でテキパキと作業を進め、持って来た楽器を運搬用のトラックに積み込んでいた。まるで、何かに追われているような感じで、声など掛ける隙間はなかった。



 12時を回り、トラックの扉を閉めた瞬間に、眼鏡に水滴が付いた。ふと、空を見上げたが、雲は全くなかった。

 それから、5分もしないうちに、上空一面が真っ白い雲で覆われ、12時30分には、大粒の雨が降り出して来た。



 もちろん、その頃には、楽器を積んだトラックも、演奏会を楽しんだ僕も、もう公園には居なかった。

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