お兄ちゃんとデート

 その日、弟の友葵を外に連れ出した。土日の休日に本屋で参考書を買うついでに誘ったが、案の定。俺に警戒して、なかなか部屋から出て来ようとしなかった。だが、そんなのは既に計算済みだった。俺は狡猾にも友葵をおびき出す為の餌を用意した。


「トモちゃん、一緒にお外行かないの? ホントにホント~にお兄ちゃんと行かなくて良いの?」


「やーの! 絶対行かないの! お外に行ったらまたトモちゃんのゾウさんイジるんでしょ!?」


――チッ、バレたか。さすが何度も悪戯してたら友葵の奴も警戒するか。だが、此処で大人しく引き下がる俺ではない!


「あーあ。デパートの屋上で今日、ヒーローショーがあるんだよなぁ。そーか、トモちゃんは一緒にお兄ちゃんと行かないのかぁ。残念だなー。あの人気ヒーローの雷切丸が来るのに……」


『雷切丸!?』


友葵は満面の笑みで扉を開けて、無邪気にはしゃいだ。


「優希お兄ちゃん、ホントに雷切丸がヒーローショーに来るの!?」


「ああ、そうだとも。トモちゃんは雷切丸の大ファンだったよね?」


「行く、トモちゃんもお兄ちゃんとお外行く! 早く雷切丸見に行こう!」


弟は急に態度を変えると俺の服を引っ張った。


ああ、俺ってば天才。


もっと早くこうすれば手子摺らずに済んだな。


フッ。全くうちの友葵はチョロいぜ――。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る