屋上で。

「め、目薬で本当に……?」


「お前おれを疑ってるのか? その目薬は俺が作った特製の目薬だ。効かねーわけがないだろ? マタタビを嗅いだ猫がどうなるか、お前も知っているだろ。原理はそれと同じさ。その目薬さえあれば女はイチコロだ。どうだ気に入ったか?」


 彼はそう話すと、悪の顔でニヤリと笑った。



「あとは壁ドンを使え、壁ドンで落ちない女はいない。壁+口説きの文句で女を落とせ!」


 優希の心の揺さぶりは、彼にダイレクトに衝撃を与えた。


「か、壁ドン……? そ、それって……??」


「男が女を壁際に追い詰めて、片手で口説き文句を言うシチュエーションのことだ。大概はそれで落ちる。女の憧れは何だ?憧れの王子様にお姫様抱っこされることや、カッコいい男に壁ドンで迫られることや、手と手が触れあう甘いシチュエーションだ。お前がみせてやれ、憧れの美紀ちゃんに。女の子の憧れのシチュエーションってやつをな――。コードネームは壁ドンだ! 壁ドンを使って美紀ちゃんを口説き落とすんだ!」


「もっ、もし……!  もし壁ドンでも俺が美紀ちゃんを落とせなかったら??」


 そう言って自身無さげに優希に話した。すると彼はポケットからタバコを取り出すと、屋上のフェンス越しでタバコを一服吸ってから話を切り出した。


「んー、そうだなぁ。そん時は俺がアンタの前で美紀ちゃんの肩を抱いて"美紀"って呼んでるかも知れないぜ――?」


 優希はポケットに両手を突っ込むと、背中を向けて彼の前でカッコつけた。その空を仰ぐ姿は、どこか自身に満ち溢れていた。彼その話しに克己の心に男のスイッチが入った。


「美紀ちゃんを呼び捨てにするな……! 美紀ちゃんは俺の女にするんだ!?美紀ちゃんは誰にも渡さねーからなッ!!」


 克己はそう言って優希にライバル心を燃やした。すると、彼は鼻で笑いながら嘲笑った。



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