領主の娘はひろい世界に憧れているようです 16

「モトキさん眠いですよー……なんなんですかこんな早朝にぃー。つれーわー……昨日8時間しか寝てないからつれーわー……」


「めっちゃ健康的な睡眠時間じゃねえか……いいから歩け」


 早朝、俺とリューはあくびをかみ殺しながら『シャクナの森』を歩いていた。

 

 朝露のついた枝葉をよけながら、人目のない森の奥深くへと入っていく。


「うぅ……モトキさんが鬼ですよ。しかしモトキさんずいぶん元気ですね。最近ロリっ娘攻略したりモンタさんとBLしたりけっこう動き回ってるのに」


「役所勤めだったとはいえ元は地球で働いてたからな。忙しいのも短時間睡眠もお手のもんだ」


「お、寝てねー自慢ですか。地球名物本場の『寝てねーわー』やって下さいよ」


「寝てない自慢なあ……あれ自慢できるうちはまだいいんだよ。ほんとに寝てないやつは終始無言な上に死神の目してるからな。やっと口開いたと思ったら急に『君たちはうちの会社をブラックって言うけどね、これでも年次休暇100日はもらってるんだ。社員思いのいい会社なんだよ!』ってまくしたてるように自社をかばいだすからな」


「やっぱり人間360日は休まないとだめってことですね」


「それは無職だ」


 そんな話をしているうちに、やがて俺は森のひらけた場所へと出た。


「じゃ、始めるか」


 ――あいつになりたい


 俺はそう念じ、『ミラー』を使ってとある金髪剣士に化けた。


 腰の鞘から剣を抜く。


「なあリュー、ちょっとこの剣握ってみてくれ」


「んあ? まあいいですけど。しかしずいぶんかっちょいい剣ですねー。わたしの中二心が呼び覚まされるデザイ――ギャァァァァァァ……!!」


 リューに握られた瞬間、剣は雷のような電撃を放った。


 感電し、昏倒するリュー。


「レプリカとはいえ、名剣はやはり持ち手を選ぶか……」

 俺が化けたのは、以前『クーラ』ですれ違った有名剣士である。


 有名剣士の持つ剣は当然名剣であり――持ち主を選ぶ。

 剣はリューを『アウトー!』と判定したのだ。名アンパイアだわ。


「おいリュー、起きろ」

 つんつん、とリューの頬をつつく。

 あ、起きた。


「……な、なんなんですか一体!! これが本妻にする仕打ちですか! わたしに保険金でもかけてんですかあなた!?」


「落ち着け、お前にかけられる保険とかないから、バカすぎて。――いや実はさ、モンターヴォに使わせる剣を探してるんだよ。名剣で、だけどモンターヴォ程度にも使えるようなちょうどいい剣を」


「モンタさんの剣……? それとこれとに何の関係が……!」


「俺の見立てじゃモンターヴォとお前は戦士として同格くらいだ。つまりお前が使える剣はモンターヴォにも使える。つまり――」


「はっはーん。つまりわたしに実験台になれってことですねぜってぇぇぇお断りですよ歯ぁ食いしばれってんですよおらぁ!!」

 ナイフをぶんぶん振り回すバーサーカーリューちゃん。


 こうなると長いんだよなあ……。

 時間を無駄にしたくなかったので、俺はプライドを捨てることにした。


 ひざまづき、リューの腹のあたりにひしっと抱きつく。

「なあリュー……頼むよ。俺、お前しか頼る人いなくてさ……ビックになったらちゃんと恩返しするからさぁ……」

 

「女に金を無心するバンドマンみたいな軽薄ワードが並んでるんですが…………あの、本当に恩返ししてくれますか……? 都合よく使って後でわたしのことポイしません……?」


「しないしない。俺がそんなことするように見えるか」


「超見える上に実績があるから言ってるんですが………あーもう! はいはいわかりましたよ、実験台でもなんでもやってあげますから……そんな目でみないで下さい」


「ありがとうリュー!」


 俺のようなダメ男を掴んでいるだけあって、実はリューも人並み以上に母性が強い。


 なんだかんだで、基本俺の言うことは全部聞いてくれるのだ。

 やだ、リューってばセフレの才能ありすぎぃ……。


「じゃあリュー、次はこの剣を持ってみてくれ」


 俺は赤髪のオークへと化け、背中の鞘から剣を抜いた。

 リューに差し出す。


「うぅ……なんだか嫌な予感がしまぁぁぁぁぁぁ……!?」


 リューは燃えた。


**


 それから30分にわたり、俺は知っている限りの名剣士に化け、彼らの持つ剣をリューに持たせた。


 しかし結果は全敗であった。

 リューには剣を扱えず、つまりモンターヴォにも無理ってことだ。


「どうしたもんか……」


 モンターヴォをトラウマから解放し、『主人公』にするまでの道筋は、昨日ルビィと一緒にほぼ完成させた。


 だが、一つだけ問題がクリアできない。

 あいつに贈与できる武器がない。

 ユータロウを打倒するに足る剣が。


 生半可な剣ではだめだが、名剣持たせると今のリューみたいになる。



 まあ、それはひとまず置いておくとして――


「リュー、大丈夫か?」


 剣たちからあらゆる攻撃を受けたリューは俺の足下に転がっている。

 服は焦げてぼろぼろ、目からはハイライトが消えている。

 ううむ、犯罪チックでとてもエロい……。後で一回やらせてもらおう。


「……うぅ……ひどい目にあいましたよ……」


 ゆっくりと身を起こすリュー。 

 焼け焦げた胸から片乳が顔を出しているが、教えないでおく。


「……しかしモトキさん、あなたの『ミラー』って改めて見るとすげースキルですよね。その人の持ち物まで再現できるって。――つまり……金持ちに化けて持ち物売っぱらえば大もうけじゃないですか! これはびっくびじねすの予感ですよ……!」

 金が絡むと元気になるリューちゃんである。

 

 だが――。


「いいや、それは無理だ。俺が変身解くとその瞬間、変身時の持ち物も全部消えるからな。後で消えるもの売れねえだろ」


「? 売ってから消えるならなんの問題もないじゃないですか?」


「…………」

 詐欺だ、それは。


**


 リューと森から戻った後(戻る前に森でやらせてもらった)、俺はすぐ一軒家へと向かい、キリシャとルビィと仲良く遊んだ(キリシャを帰した後、ルビィともやった。挟んでもらった)。


 ――そして夜。


 俺はいつものように、モンターヴォとの待ち合わせ場所へと向かった。


 まずカイの姿でモンターヴォをしごき、次にルギンドールの姿でトレーニングをつける。


 最近はモンターヴォも鍛えられてきたようで、ほとんどへばらなくなった。

 スムーズに進み、夜明けまであと一時間ってところでトレーニングの全メニュー終了。


 俺はモンターヴォに見えない場所で、ルギンドールの姿から再びカイの姿に戻る。


「それじゃあモンターヴォ、今日も墓地にいくぞ。フリュネさんに謝りにいくんだ」


「……い、いやですよ! こないだ行ったからいいでしょう……! 高貴にして多忙なる僕はちょっと用事を思い出したのでこれで――」


「だめだ! 何回でも謝りにいくんだ!」

 俺はモンターヴォの腕をがっちり掴み、墓地へ引きずった。


 フリュネさんの墓前から目をそらそうとするモンターヴォの頭を鷲掴みにし、無理矢理下げさせる。


 モンターヴォはかつて、保身のために師のフリュネを見殺しにした。

 毒に侵された師を、医者にも連れていかず、部屋に閉じこめた。

 

 それをずっと悔やんでいるのだ、こいつは。


「なあモンターヴォ、もしもフリュネさんから助けを求められたら、今度はちゃんと助けられるか?」


「……なんですかその無意味な仮定は。フリュネはもう死んでいます! 死んでしまった相手を助けるなんて……高貴にして世の摂理を司る僕でも、そんなことは不可能なんです!」


「ああ、そうだな。死んでしまった人とは二度と会えない」


 通常、ならな。


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地球からきた転生者の殺し方=ハーレム要員の女の子を寝盗っていきます 三浦裕 @miuraYOU

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