幕間 女神さまは多様性を愛しています
『クィーラ教の神官ミリアをユーヴァ教に改宗させた。そして風呂場でした。ラーニャも含め、複数人でした。どちらとも付き合うつもりはない。セフレにするつもり。現在セフレは全部で4人』
ここ最近の武功を紙に記し終えた俺は、「よしっ」と頷いた。
「なにが『よしっ』だい……あんたの存在は完全アウトだよ」
ラーニャは俺の書いた武功を見て、苦々しそうに言った。
ラーニャの目の下には色濃いくまがある。
それに彼女の腰から下はガクガクと震えていた。
「ラーニャ、ずいぶん疲れてるみたいだな」
「朝まであんたに体力しぼりとられたからねえ! 人がもう無理だって言ってんのに何回も何回もあんたは……。ところで、なんであんたはそんなに元気なんだい? 化け物なのかい? いや性欲の化け物なのは知ってたけど、体力的にもそうなのかい?」
「いや、普段から鍛えてるからな。ルビィとか相手に。ラーニャもなかなか体力あるじゃないか」
「ふん。こっちは毎晩シェイカー振ってんだ、体力ぐらいいやでもつくさ」
「神官は普通シェイカー振らねえし、あれそんな体力つかないだろ……」
俺はそう言いながら、ラーニャ特製のカクテルを飲み下す。
ちなみに、ミリアは昼日中を過ぎた今もベッドですやすやである。
よほど体力を使ったのだろう。
昨晩のミリアの淫らな
「とにかくラーニャ、俺の武功を早く女神ユーヴァに報告してくれ」
「はいはい……いやでもね、いくらユーヴァ様でもこんなのを武功として認めるわけ――めっちゃ認めてる……」
ラーニャが紙を燃やしたとたん、金の光が大量に生じた。
砂金のようなそれは俺の体をすっぽりと包みこみ――
**
……どこだ、ここは。
気が付くと、俺は見知らぬ部屋にいた。
ずいぶんと統一感のない部屋だった。
壁の模様はエスニック、床は畳で、天井にはシャンデリア。
印象派っぽい絵画、精緻な銅像、それから前衛アートの置物がいくつか。
なんだここ……。
「――多様でしょ、ぼくの部屋」
後方から届いた声に、俺は振り向いた。
そこにいたのは、ゴスロリの服を着た小さな少女。
目の下にひし形のタトゥーが入ってるのが印象的であった。親泣いてんぞ。
「こんにちは、ぼくのかわいいモトキくん。転生先の世界ではずいぶん楽しくやっているみたいじゃないか――ところでモトキくん、察しのいい君のことだ。ぼくが誰かわかるよね?」
「ああ、もちろんだ」俺は頷く。「ええと……昔近所に住んでたよっちゃん、だったか?」
「ちがうよ! 誰だよそれ! ぼくは女神さま! 君を見守る女神ユーヴァさまだよ!」
「いやわかってるわかってる。ちょっとぼけたんだ。で、女神さまが俺になんのようだ。手短にしてくれ」
「うぅ……まさか自分の
「チュートリアルもせずに俺を異世界に放り出しておいて、今さら登場されてもな」
他の転生者は、転生する前にちゃんと女神から説明を受けたらしいのに、俺だけこの世界にいきなり放り込まれたのである。
俺だけ。
「いやいやそれに関しては悪かったよ。君の魂が天界に来た日、ちょうどぼく二日酔いで顔がむくんでてさぁ。顔出すのが恥ずかしかったのさ! まあ、結果オーライだからいいじゃないか!」
「…………」
「あ、じゃあ今からチュートリアルしようか?」
「おっせえよ!」
もうだいぶストーリー進んじゃったじゃねえか。
「まあまあモトキくん、そう怒らないでよ。ちょっと話をしようじゃないか」
女神ユーヴァは怒る俺にかまわず、勝手に話し出す。
「ねえモトキくん、多様性って本当に素敵な言葉だよね。いろいろあるから面白い。物も文化も人間も、いろいろあるから魅力的なストーリーが生じるのさ!」
「まあ……それに関しては同意だな」
多様性――俺もその言葉を愛してる。
「だろう? 男も女も
でもさあ、と女神は続ける。
「チートスキルをもった転生者は、ぼくらの愛する多様性を損なうよ。亜人を殺しつくすのはやめてほしいよ。内政ものの転生者もそう。異世界を地球の色に染めないでよほんと」
「そうだよなあ」
この女神さま、俺と考え方が恐ろしいほど似通っていた。
認めたくはないけれど。
「というわけで、モトキくんにはこれからも世界の多様性を損なう他の転生者を弱らせていって欲しいんだ! 頑張ってね、ぼくの送り込んだバランサー。応援してるから!」
ぎゅっと俺の手を握り、間近で笑顔を浮かべる女神さま。
その笑みに、ついやる気を出してしまった。
「ところでモトキくん、地上に戻ったら一つ、君に仕事を頼みたいんだ」
**
地上に戻った俺は、さっそく女神ユーヴァに頼まれた仕事を果たすために動いた。
つい先日までミリアが守っていたクィーラ教の教会へと向かう。
ミリアが出奔したので、そこは、今はもぬけのからになっていた。
俺は礼拝堂のすみに隠れて、人が来るのを待つ。
そうして一時間ほど経った頃――。
「きたか」
こちらに向かってくる足音。
街のクィーラ教徒が祈りを捧げにでも来たのだろう。
俺は『ミラー』を使い――女神ユーヴァへと化けた。
……さすがに女神に化けるのは消耗が半端ではなかったが、なんとか耐える。
「ひっ……」
訪れた二人連れの婦人は、降臨した女神ユーヴァの姿に息を飲んだ。
俺は言う。
「ぼくの名前はユーヴァ! 我が姉クィーラはすでにここを去った――今日からここはぼくのものさ!」
女神ユーヴァの降臨――街は騒然とした。
そして、ユーヴァ教団は勢いづいた。
逆にクィーラ教団は消沈した。
女神が街を去っただなんて、と。
これにより、『クーラ』での女神クィーラの影響力は、決定的に弱まった。
――それはすなわち、ユータロウの弱体化をも意味している。
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