第49話 作り出された特別功労者

 すごすごと建物の方へ戻った。像の前で記念撮影をするグループもいたが、誰かにお願いする気力も無かった。


 タイミング良く雨が降ってきた。建物の中で人だかりを作っている人、サインを求められている人。僕は関係なさそうなので、通り過ぎて家族の元に向かった。


「雨に降られたか思ったわ」


「なんとかギリギリセーフ」


「もうすぐ来るって」

 もう十時半だった。


「早ない?」


「渋滞するかもせんから、早く出たって」




「こんにちは今日はありがとうございます」

 監督が椅子までやってきた。母は笑顔だが姉の顔は少し怒っている。


「それで今回のサポートメンバーですが、椅子は運営の方が楽器はうちの部員が出します」


「だったら光は?」


「指揮台の真ん中から、客席を見てもらいます」


「そんなん何の役にも」


「そうですね。立ちません、でも私たちにとって特別功労者なのでそれくらいは」


「あなたがたが特別功労者ですけどね」

 姉の言葉はとげまみれだ。


「本当にその節は申し訳ございませんでした」

 深々とこうべを垂れる監督以下顧問に姉は一瞥いちべつした。


「では光君。こちらへ」

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