第10話 期待とは裏腹に

 マーチングに熱が入るとますますグランドを使う機会は多くなる。合わせて水撒みずまきの回数も増え、上達にトレーニング担当の坂下先生も驚いた。少し鼻が高い。


 大阪府マーチングコンテストは九月にある。そういう事情もあり、夏休みが終わってもグランドにいることは多い。練習中にのぞきに来る吹奏楽部以外の生徒も多く、まねをする生徒もいる。


 相変わらず、僕は氷を用意し、グランド調整とけが人の応急処置。楽器の管理をしている。雑務係のいる日陰も少し暑い。

 

 これくらいの時期になるとゆるめの練習から、厳しいことも言われ出す。今年はコンクールが早々に落ちたので、それもまた当然の話でもある。


 今年は上を目指す意識も強く、創部以来初めての全国にという思いもある。


 だが、メンバーの想いと裏腹に、行ってほしくない気持ちもあった。口にはしなかった。


 春になってしまった喘息ぜんそくが完治してしまうと、楽器を吹いて大会に出ることになる。僕はもう気持ちの問題で楽器を吹くことが出来ない。

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