その6 謎から謎へ。

チェックイン後、施設案内をし、山内さんが今日使う寝室に通す。

そこで私は、ずっと気になっていた事を、声に出して質問した。



新井:「あの、ベッド、これでいいんでしょうか?寝る時、羽が傷みませんか?」


山内:「あ、それ、大丈夫です。」



大丈夫らしい。

何が、どう?


よくわからないでいると、山内さんは...



山内:「ちょっと、失礼します。」



と一言。


何が?

どう?


と、私は再び戸惑った。


すると...



山内:「フッ!!」



山内さんは、背中の筋肉に力を込める動きをした。

羽が、ピン、と立った。

そして...



ポロッ



と、落ちた。



新井:「えっ!!??」



思わず声が出た。

ビックリした。


外れるの!?

その羽、外していいものなの!?



山内:「ふぅ。」


山内:「あの、ここ、お借りしても、いいですか?」



羽を外した山内さんは、一息ついて、クローゼットを指差した。



イケ:「はい。どうぞ。」



は、はい、どうぞ...と、私も心の中で思った。


すると、山内さんは、外した羽を、クローゼットの中に丁寧にしまったのであった。



えぇ...あれ、どうすんの?

そら館内では外した方が動きやすいけど...。

これ訊いていいのかな?


あの羽をどうするのかが、私の頭の中で気になってしょうがなかった。

しかし、私は、人見知りスイッチがオンになっていて、本人に尋ねる事ができなかった。


夕食でテーブルを囲んでも、その質問はできなかった。

イケちゃんは、普段とは全然違う雰囲気で、軽妙な会話をゲストと繰り広げている。

この人は、一面的に捉えてはいけないタイプだな...実は多才なのかもしれない。


ってか、イケちゃんは、あの羽がどうなるのか気にならないの?

この様子だと、もう知ってるみたいだな...。


私は寝る直前まですげー気になってしょうがなかった。

だけど、睡眠スイッチが入った私は、スッと眠りに落ちた。



そして翌朝。



イケちゃんが地下室から出て来て、ベッドの横を開けた時、私はその動きに気が付いた。

気が付いたけれど、まだ眠かったのでそのまま眠りを継続した。

その時刻はおそらく、山内さんが最初に予約したのと同じくらいだと、私の体内時計が告げていた。


そして次に気が付いたのは午前8時。

イケちゃんが朝食を作ってくれているはずの時間だ。

着替え終わったところにイケちゃんがやって来て...



イケ:「あ、起きた?山内さん、出発するよ。」


新井:「え?もう?」



朝食どころか、すぐ見送らなければ。

急いで顔を洗い、玄関に出る。



その


背中には


既に


羽があった。



ああ~~~...どうやって着けたのか見られなかった...。

うわー、見たかったよ!見逃したよ!

くっそ!くっそ!


歯痒い思いを抱えながら、門まで見送りに行く。

門の前には、タクシーが待っていた。



山内:「じゃあ、また、機会があれば。」


イケ:「ご宿泊ありがとうございました。」



そう挨拶して、山内さんは、タクシーに乗り込もうとした。

羽が引っ掛かって...すごく手間取っている...。


なんだ?

タクシーに乗るなら、外したままで良かったのではないか?

なぜ今、装着しているんだ?


体の向きを変えたり、羽の向きを変えたり、四苦八苦した末、タクシーの後部座席に、頭から突っ込む形で山内さんは乗車した。


いや、羽、外せばよくね?

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