その5 助けてください!

「あ˝っ!!!」


あまりの痛みに、身体の深い所から、声なのか波動なのかわからないモノが口から飛び出した。



う˝あ˝あ˝あ˝あ˝



動けない。

ピクッとでも動くと、もう痛い。



助けて...タスケテ...。


イケモト...イケモトなら、きっと来てくれる...。



さっきまで悪鬼のように思って全力で逃げていたくせに、こうなると救いの神として待望するしかない。


うっわヤバい、マジ痛ぇ...。



??:「怪我しましたね!すぐに人を呼びます!」



木の幹から声がした。


全力でビビッてしまったが、こいつは善い奴っぽい。



イケ:「ああっ!」



今度はイケモトの声がした。

木の幹の声から2秒ぐらいしか経っていないから、元々近くまで来ていたのだろう。



イケ:「こっち!来て!」



他にも追いかけて来た人が居るらしい。

イケモトの声に、「おー」と、少し離れた場所から返事があった。



イケ:「どこが痛いですか?動けますか?」


新井:「コシ...腰...。」


イケ:「動けますか?立てますか?」



私はその問いに対して、首を小刻みに横に振って答えた。



う˝っ!



その小さな動きさえも、腰に響く。



イケ:「あっ!わかりました!もうじっとしてていいです!」



わかった?

わかってくれた?

私にはどうかわからんけどさ...。


とにかく助けてほしい。

動かさないで助けてほしい。



ザッザッザッ、と、他の人の足音が複数聞こえた。



男声:「どうね?」


イケ:「腰を痛めて動けません。」


男声:「病院に運ばんといかんね。」


イケ:「動かさずに運びたい。」


男声:「救急車呼ぶかね?」



...リアル...だな...。


こんなマジな状況、さすがにファンタジーごっこやってらんないよね。

時空転移魔法がどうとか言い出したらぶん殴ってやる...動けないけど。

魔法陣とか召喚とか、寝言は寝て言えよ。

自分達の趣味に他人を巻き込む罠作るなんて、ありえんわ。


...さっきの喋る幹も仕込み?



イケ:「我々で運びましょう。」



え?ヤだ。

プロにお願いしたい。



イケ:「そのまま、ちょっと待っててくださいね。」



イケモトが私に言う。

待つも何も動けねえっつの。



....



痛みに耐えて待つ時間は長く感じた。

早くどうにかしてくれ...。


その痛みは全然弱くなってくれなかったけれど、慣れるというか、痛いのが当たり前になってきて、「これじゃあ旅行計画丸潰れになるな」「キャンセル電話しないとな」などと、痛み以外の事を考えて辛さを誤魔化し始めた頃...



男声:「これでいいですか。」


イケ:「それしかなかった?」


男声:「これが一番丈夫そうでした。」



と、事態が進展しそうな会話が耳に入った。



イケ:「ちょっと、身体を上げてもらえますか?」



イケモトが私に無茶な注文をする。



う˝っ!!



痛いし嫌だったが、従うしかない。

ノロい動きで手をついて身体を持ち上げると、その下に何かを入れ込まれた。


布...?

布かよ...。


その肌触りは、私の体重を支えるのには不安しかない柔らかさを伝えて来た。


担架とかそういう物じゃないのかよ...。



イケ:「すいません、ちょっと我慢してください。」



イケモトがそう言うと...



イケ:「せえ!のっ!」


一同:「おいさっ!」



男達の声と共に、私の身体は地面から離れた。



あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝!


痛いよ怖いよ揺れるよ!

もっと丁重に扱ってくれよ!



厚めの布のような物に乗せられた私は、あらゆる意味で不安でしょうがなかった。

頭おかしくなりそうだ。

叫びたい、でも、叫んでしまうと、凄まじく痛いに違いない。


男達がその布ごと私を持ち上げ、どこかに運んでいる。

4人...いや、6人?


私のために...ありがとう?

でもどうなるか、何されるかわかんないし、ああ...。

なんもできん...もうどうにでもしてくれ...。



思考がぐっちゃぐちゃになる中、揺れ方が変わった。

どうやら林を抜け、元居た広場に出たらしい。


どれくらい歩いただろうか。



男声:「開けて!シート倒して!」



誰かに命令する声が発せられた。


シューーウォオオオ!

カチャッ、カタッ、ダンッ!


たぶん、大きめの車の後部座席をセットしてくれているのだろう。

そんな音が聞こえた。



男声:「はい、じゃあ、入れるよ~。」


男声:「せー、のっ!」



さっきと同じ声の男が合図をすると、私の身体は大地とは別の何かに着地した。

その別の何かがスーッと動いた後、バンッ!とドアを閉めたような音がした。


その後、少しの間、男たちの話し声が聞こえたが、何を言っているのかはよくわからなかった。



ドキュルルルルルッ!

ブゥゥーーーン!



エンジンをかけた音だろうか。

その音が聞こえてほどなくして、私を乗せた車は動き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る