その3 思ひ出といふ名の雑念。

予定よりだいぶ遅くなったけれど、切符を買って列車に乗った。

学生時代は、青春18切符で、「1日でどこまで行けるのか」なんてチャレンジをしたものだ。

今となっては、そういう元気がイマイチ出て来ない。

これが年齢トシってやつなのか...?


列車に揺られている間、ぼんやりと外の景色に目を向ける。

流れて行く街並みや木々を見ながら、イヤホンをし、スマートフォンで音楽を聴く。


心地良い時間...



....



.....




......





飽きた。


30分程度で飽きてしまった。

こうなると、封印していたはずの過去の記憶が、脳内に「オイッス!オイッス!」と、呼んでもないのに押し寄せて来る。

うっざ、この雑念どもが。


今回は、元夫との思い出が、とりわけ多く現れた。


旅行の帰り、片道3時間の新幹線の中。

あいつは早々に眠りに入った。

そんでだね...両腕を頭の上に伸ばしたまま、こっちに倒れ込んで来るんだよな...。

凄まじく邪魔だっつの...なんであんな姿勢で眠れるんだ...変態だよホント。


それと...


名物料理の一本麺を食べに行った時、「バリウムう〇こだぁ!!」と、私の方を見てニッコニコしながら言いやがった。

園児かよ...おまえの頭の中には園児が住んどるんか...。

その時は、私が食欲をなくしただけじゃなく、周囲の女性客から、バリウム飲んだ後のソレよりもはるかに白い目で見られてたねえ...。


あと...


雨の日に私が元夫とお客様を出迎えて部屋に案内した時、私はお客様と目も合わせず一言も会話しないまま、お客様が入った時に濡れた床をこれ見よがしに拭いたんだよね。

私に悪気は無かったから、正確には「これ見よがし」ではないんだけれど、今振り返るとお客様はそう思っただろうね...。

自分達の部屋に戻った後しっかり叱られたし、その後のお客様からのレビューにも「スタッフの接客態度に問題あり」って、思いっ切り低評価されてしまった。


あの時は落ち込んだなあ...。


雑念軍団が、旅行とは全く関係無い領域にまで展開し始めている。

元夫と出会った20歳の時の事、大学卒業後就職せずに結婚した事、両親との死別、結婚生活と離婚のキッカケ...。

目的地の駅に到着するまで、思い出という名の雑念たちは、とりとめなく頭の中に現れては消えた。



私は愛されていなかった。



両親からも、結婚相手からも。


こうでなければならない、ああでなければならない。

ありのままの私で在る事は許されなかった。

あの人達は、私に自分達の価値観を押し付けるばかりだった。


ああ...ヤだ、ヤだ。


せっかくの旅行中に、こんな陰鬱な気分になるなんてもったいない。

私は捨てられたんだ。

その事実だけ認識していればいい。


私が私の足で立ち、生きるために。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る