第3話 暗闇の中でこにゃにゃちわ

 目当ての水晶玉を見つけ、スキップしながら駆け寄る。


「やった、ついに防御系を見つけたぞ〜」


 色々と水晶玉を拾っていくうちに、どうやら色と大きさで内容がある程度は区別できる事に気がついた。


『スキルオーブの内容を確認』

『内容物:〈頑健〉』

『スキルオーブを使用しますか?』


 下手に新しいスキルを増やすより、既存のスキルを強化する方が活用できる。

 なので、ひとまず最初に覚醒したスキルを伸ばす方向で。


『スキルオーブを使用』

『〈頑健〉を習得。既存のスキルがレベルアップします』

『〈頑健〉レベル2。生命力と防御力を強化し、毒や精神に対する攻撃に耐性を獲得します』


 よしよし、いい感じにしぶとくなったぞ。

 とほくそ笑んでいると、焼けこげた大鼠が蛇行しながら走ってきた。


 どうやら竜は、強い魔物に絞って狩りをしているらしく、弱い魔物はスルーする傾向にある。

 大鼠やスライム、大蜥蜴や大蝙蝠は闘争心がないのか、基本的に道を譲ればそのまま逃げていく。


 たまに当たりどころが悪かったり、瀕死になっている魔物が道中ばで絶命していることもあり、そういう場合は私の方に魔力が流れ込んでくるのだ。


『魔力が一定の値に到達しました』

『ステータスを向上します』


 さっきからバンバンと強くなっているように見えるかもしれないが、それは間違いである。


「ステータス」


▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

湯浅奏


スキル:『頑健』『毒耐性』『呪い耐性』

▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲


『頑健』

解説:生命力と防御力を向上させるスキル。レベルアップにより、毒・精神に対する攻撃に耐性を獲得。


『毒耐性』

解説:毒物と認識した物質への耐性を向上させるスキル。


『呪い耐性』

解説:精神に対する攻撃への耐性を向上させるスキル。


 びっくりするぐらい、攻撃力が上がらないんだ。

 まあ、攻撃力が上昇すると、それを感知するスキルに引っかかるというので焦る必要はないだろう。たぶん。


 お、緑色のスキルオーブだ。

 回復系は高値で売れるって聞いた事がある。

 これはリュック行き。


 そうやってふらふら竜の足跡を追っていると、スマホのライトがついにぷつんと切れた。

 ボタンを押しても、画面に触れても反応がない。どうやら充電が切れたらしい。

 しょうがない。

 ここからは手探りで進むか。


 ────……


 視界が暗闇に閉ざされたからだろうか。

 自分の呼吸や足音とは違う、別の音が聞こえた気がした。


 ────…………


 衣擦れの音に、荒い呼吸音。

 壁に手をついて歩いているらしい。

 微かに血と肉の焼けた匂いがする。


「あの」


 意を決して呼びかけた。

 ここに転移してきて何時間経ったのか、もう分からないけど、もしかしたら他にも探索者がいるのかもしれない。

 出口までの道を教えてもらおうと思っているのだが、一向に返事がない。


「あの〜」

「……」


 ぜぇ、はあ、と荒い息遣いが聞こえるだけ。

 棒立ちでいるのにも飽きたので、好奇心に負けて近づいてみる。


 むわりと血の匂いが増した。

 どうやら、暗闇の中にいるもう一人は大怪我を負っているらしい。


 そろりそろりと近づいて、どうにか距離感を掴む。

 手を伸ばして、ようやくその人の服らしきものに触れた。


「暗闇で何も見えないので、ちょっと失礼しますね」


 リュックから、先ほど拾ったスキルオーブを……


『内容物:〈歩行〉』

『内容物:〈隠密〉』

『内容物:〈気配遮断〉』


 違う違う違うそうじゃない。

 あれだよ、緑色のやつだよ。


『内容物:〈小治癒〉』


 あった! これだ!

 これを習得して、怪我を治せば喋れるようになるはず!


 スキルというのは便利なもので、仕組みや原理が分からなくてもある程度の結果を必ず得られる。

 例えば、薬の知識なんてなくても『調合』のスキルがあれば薬を作れるようになる。色んな効果や副作用を調節するには、やはりそれなりの知識は必要になるけど。


「よし、『小治癒』!」


 掌にぽわっと淡い光が灯る。

 残念ながら周囲を照らすことは出来なかったけど、傷口が少しずつ塞がっているのが確認できた。

 荒い息が少しずつ静まって、落ち着きを取り戻しているようだ。


 ……ところで、すごく意識がふわふわしてきたんですけろ、これってもしかしてきぜつするや







 ぺち

 ぺちぺち


「んだよ、もうちょっと寝かせ────」


 バシンッ!


「んぎょっ!?」


 間近で凄い音が聞こえて慌てて飛び上がる。

 おや、おかしい。

 見慣れた天井がどこにもない。

 それどころか、辺り一面の……闇!


「どこ、ここ、ここ、どこ、私はだれ!? いや、私の事なら私が一番よく知ってる」


 それよりも、先ほどの音はなんだ。

 なんの音なんだ。


 べちっ


 額に鋭い一撃。

 痛みはないが、中学時代に友だちにチャップされたことをふと思い出すような衝撃だった。


 同時に、探索者協会に行ったり、初心者用ダンジョンに潜って転移罠を踏んで今に至る事を思い出した。


「ᛏᚴᛁ ᚾᚨᛘ ᚬᚾ」

「わ、わかんないっぴ」


 すまないが日本語以外はNGなんだ。

 意思の疎通は難しそう。


 それに声の感じからして、男性っぽい。

 私、男の人とまともに会話した事ないんだよね。

 ど、どうしよ。


 困っていると、その人はどうやら立ち上がったらしい。

 私の手首を掴むとどこかに向かって歩き始めた。


「は、はやひ……」


 私が三歩を踏み出す間に、彼はその距離を一歩で進む。

 必然的に、私は駆け足で移動する形になった。

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