タナトスの箱部屋

荒屋 猫音

第1話

タナトスの箱部屋


坂本 16歳

一時的な記憶喪失により、何故箱部屋に来たかが分からない


鈴木 20代

事故に巻き込まれて箱部屋に来る


タナトス

その名は死を意味する。死を運ぶ者。言葉足らずな死神


医者

後半少し出てきます。タナトスが兼役推奨


性別不問

一人称の変更、軽度なアドリブ、語尾の言い換え可能

セリフは男性仕様になっていますが、

一人称と言い回しを変えれば女性が演じても構いません




____


白い6畳ほどのスペース、

出口は無い。

気絶している2人…

そして…


____


鈴木「…ん…ここは…」


坂本「……なんだここ…」


鈴木「…誰あんた」


坂本「…アンタこそ…」


タナトス「…目が覚めたか…」


坂本 鈴木「…!?」


タナトス「ここは…私の箱部屋の中…」


坂本「箱部屋?」


タナトス「1度しか言わない…お前達の魂は今、私が握っている…」


鈴木「はぁ!?どーゆーことだよ!」


坂本「魂って……なんだよそれ…」


タナトス「私は死そのもの…命を狩り、運ぶもの…」


タナトス「お前達の肉体は、今頃病院とやらで大層な機械に繋げられて延命している…」


坂本「病院…?なんで…」


鈴木「もしかして…」


鈴木「(しばらく考え込んで)…あの時の……事故」


坂本「事故?」


タナトス「ほぅ…お前は記憶の喪失がないのか…?」


鈴木「俺は、国家試験を受けるために会場の大学に向かってたんだ…最寄りのバス停で、バスを待ってた。そしたら……暴走した車が…」


鈴木「…俺、まだ生きてる…?」


鈴木「……はっ!」


鈴木「でも…あの時バスを待っていたのは俺の他にも居たはずだ!なのに、なんであの場所にいた俺だけがここに…」


鈴木「…まさか…」


タナトス「あの場所で生き残ったのは、お前だけ…他の者の命は既に狩り取った…」


鈴木「…そんな」


タナトス「聞くか…?肉体の損傷がいかなるものだったか…」


鈴木「……聞きたくない…」


タナトス「お前の肉体も、まぁ酷いものではあったが…今は生きている。今は、まだ…」


坂本「俺…なんでここにいるんだ…」


坂本「事故った訳じゃない…でも…思い出せない…」


タナトス「一時的な記憶の喪失、混濁は今までもよく見てきた…そのうちに、思い出す…モヤが晴れれば、すぐに…」


タナトス「私はタナトス……」


タナトス「命を狩り、運ぶ者…」


タナトス「お前たちに残された時間は、24時間…」


坂本「…なんだよ、24時間って...」


鈴木「その時間で、何させるんだよ…」


_タナトスは不敵な笑みを浮かべる


タナトス「私が次に命を狩る相手を決めるのだ……お前たち、2人のどちらかが、私の次の獲物だ……」


(タナトスしばらく退室)

____


坂本「(決められなければ2人同時に狩る、そう言ってあいつは姿を消した……)」


坂本「(深呼吸をして)…一応聞くけど…アンタ、名前は……」


鈴木「……鈴木」


坂本「……俺は、坂本」


鈴木「あいつ、助けるとは言ってなかったよな……」


坂本「…あぁ」


鈴木「…」


坂本「……俺たち、結局あいつに殺されるってことか……?」


鈴木「どちらかを差し出して、それで片方が助かる保証はないけどな……」


坂本「……」


鈴木「……」


鈴木「俺は、死にたくない……」


鈴木「…必死に勉強して…やっとの思いで…ここまで来たのに…」


鈴木「死にたくない……」


坂本「…鈴木…」


鈴木「お前はなんでここに来たんだよ、思い出せないなら、お前が…!」


鈴木「……ごめん…」


坂本「…いいよ、思い出せないのは確かだし…」


鈴木「…残り時間は…」


坂本「時計もスマホも無い、ここに時計がある訳でもない…」


鈴木「…時間経過が分からなければ、黙ってるだけ無駄だな…」


坂本「そうだな…」


鈴木「でも……俺らはまだ、生きてるんだよな…」


坂本「そう言ってたな、今頃、病院だって」


坂本「……病院…?」


鈴木「…なにか思い出したか?」


坂本「俺…最初から、病院にいたような…」


鈴木「……なんかの病気とか?」


坂本「…わからない、なんつーか、アイツが言ったように、モヤがかかってうまく思い出せない…」


鈴木「まぁ……どの道、俺は試験受けれないって事で…」


坂本「鈴木は、国家試験受けるはずだったんだよな、なんの試験?」


鈴木「……医者」


坂本「うわっ、頭いいんだな」


鈴木「良くない…良くないから必死に勉強して、浪人してまで勉強して…やっと試験に挑めるだけの知識を身につけて…なのに…」


坂本「…運が悪かった…あと10分家を出るのが早いか遅いかしてれば、ここには来なかったかもしれない…」


鈴木「……あぁ、全くだ」


鈴木「……っ!!」


_瞬間、鈴木の手が坂本の首に迫る


坂本「かっはっ……!」


鈴木「運が悪かった……?ふざけんな、そんな言葉で片付けられるか……!!!」


鈴木「なら、お前が死んでくれよ!俺は生きる……!」


坂本「…す……ずき……っ」


鈴木「…ふざけんなよ……」


鈴木「なんで、俺らなんだよ……」


_ゆっくりと首から手を離す鈴木


坂本「(咳込んでから)……はぁっ、はぁっ……っ」


坂本「…鈴木、もしここから出られたらどうするんだ」


鈴木「どうするって……試験は受けられないしな…親にはこれで最後にしてくれって泣かれたし…」


坂本「…諦めちまうのか?」


鈴木「…親のスネかじりながら、浪人までして勉強させてもらってたんだ…」


鈴木「現役合格出来れば1番良かったんだろうけど…俺、頭悪いから…」


鈴木「ここから出られても、医者になる道はない……せめて親孝行だよ迷惑かけたから」


坂本「…なんで医者になろうと思ったんだ?」


鈴木「…俺自身はあんまり覚えてないんだけど、小さい頃は病弱で、入退院を繰り返してたらしい。」


鈴木「んで、やっと日常生活に問題がないくらいまで回復して…退院するその日、母親が担当医にこれでもかってくらい泣きながら頭下げてて…」


鈴木「漠然と、医者になりたいって思ってたんだ…」


鈴木「思えば、母親の泣いた姿は、それ以来見てないな…」


坂本「いい母親なんだな」


鈴木「いいかどうかはわからんけど、でも、あの時以上の涙を見たことは無いと思う…」


鈴木「あんたは……まだ、思い出せないのか?」


坂本「……病院にいたかもしれない…って事だけ」


鈴木「…まぁ、そのうち思い出すだろ…」


___


タナトスM

命の奪い合いをするはずが、

何故かこのふたりは会話を続ける…


実に面白い……


今までは私が狩るよりも早く、互いに殺し合い、残った方の命を私が狩っていた…


実に面白い…


____



坂本「残り時間、あとどれぐらいだろうな」


鈴木「…さぁ」


鈴木「ってか、24時間以内にアイツに狩られる方を決めるって…ホントならさっきみたいに殺り合うのが普通なんじゃねーの?」


坂本「…なんか、俺的には死んでもいいっていうか…」


鈴木「…なんだよそれ」


坂本「生きてた実感がないから、生き残っても……」


_どこからともなくタナトスが現れる


タナトス「決まったか…残り時間はあと15時間…」


坂本「タナトス……」


タナトス「…お前たちは面白い……なぜ争わない…」


坂本「…?」


鈴木「争いならさっきしたさ。すぐに終わっただけだ」


タナトス「ならば、なぜどちらも死んでいない…」


鈴木「殺すのを辞めたからだ、簡単だろ」


坂本「…時間が来ても決まらなかったら、2人ともお前に狩られる、どちらかを差し出せばそいつが死ぬ。じゃあ、残った方はどうなるんだ…」


タナトス「…さぁ?素直に差し出した者など、いないものでな…」


鈴木「はぁ…!?なんだよそれ!」


タナトス「今までこの部屋に来たものは、総じて互いの命を奪い合い、死んだ者は魂を運ばれ、残った者が私に狩られた…私は、私に命を狩られる者を選べとは言ったが、殺し合えとは言っていない」


タナトス「ただ命を差し出す者を選べと言った…ただ、それだけだ…」


タナトス「…だが、お前たちは違う…」


タナトス「残りの時間で、どちらが私に命を差し出すのか...楽しみにしている……」


鈴木「……」


坂本「……」


坂本「今までも、ここに連れてこられた人がいたんだな…」


鈴木「みたいだな…」


坂本「どうする」


鈴木「どうするって…」


坂本「大人しく殺される方を選ぶか、勝手に殺し合うか…」


鈴木「…俺は…」


坂本「医者になるんだろ…?あと、親孝行も……」


坂本「なら、俺を差し出せばいい」


鈴木「…!?」


坂本「ここに来た理由も思い出せない、自分が何をしていたのかもわからない…なら、俺が死んでも問題は無いだろ…」


鈴木「それは、納得できない…」


坂本「…残りの時間で思い出せたとしても、決められなかったらどうせ2人とも狩られるんだ。」


坂本「なら、俺を差し出せばいい」


鈴木「……」


坂本「な?」


鈴木「……まだ、時間はあるんだ。」


鈴木「手伝うよ、思い出すのを」


坂本「……」


鈴木「勝手だけど、どうせどっちかの命を渡すなら、納得して渡したい」


坂本「…」


鈴木「無駄に殺し合うよりはよっぽどいいと思う…」


坂本「…そうかな…」


鈴木「俺がそうしたいってだけだ」


鈴木「……病院にいたかもって言ってたよな…」


坂本「あぁ」


鈴木「病気…とか、俺みたいに事故って死にかけてるとか…」


坂本「…」


鈴木「やばい薬に手を出したとか、酒の飲みすぎとか…なんかあるだろ」


坂本「酒は飲んだことないし、薬もやったことない…」


坂本「事故に遭うような場所にも行ってない……」


鈴木「なら、やっぱり病気か?死ぬような病気なんて…ガンとか、白血病とか、心臓になんかあるとか…」


坂本「(深く考え込んでから)……あ」


鈴木「なんか思い出したか?」


坂本「……俺の心臓、今、ほとんど動いてない…かもしれない」


鈴木「……かもってなんだよ」


坂本「…生まれつき心臓が弱くて、チューブだらけで、いつ止まってもおかしくない状態で…機械と薬で生かされてて……」


坂本「眠くて……」


坂本「このまま眠ったら、もう起きなくても良いのかなって思って……そしたら、ここに……」


坂本「そうだ…俺、起きていることが……生きている事が嫌で…生きてるのに死んでるみたいな生活してたんだ…」


鈴木「……俺と逆だ…」


坂本「……?」


鈴木「俺は、漠然とした夢のために、ほとんど寝なかった…眠るのが嫌だった…」


鈴木「眠るくらいなら勉強してた」


坂本「本当に逆だな…」


鈴木「坂本、歳はいつくなんだ?」


坂本「…16歳」


鈴木「なんだ、意外と若かったんだな」


坂本「鈴木は?」


鈴木「おいおい、さんを付けろ?俺はお前より歳上」


坂本「…本気で首絞めて来た人にさん付けしたくない」


鈴木「ハハッ、それもそうか」


鈴木「…坂本、お前はここから出なきゃダメだ」


坂本「なんで…?出たって…生きてたって…この心臓はそのうち止まる…」


坂本「あいつが来るのが遅すぎたくらいだ…」


鈴木「俺だって事故に巻き込まれてこんなとこに連れてこられたんだ、お互い様だろ」


坂本「……まぁ、そうかもしれないけど」


鈴木「医者になるって言っても、試験に受かったからってすぐに患者を見るわけじゃない、研修や実習、毎日勉強…それを今から本当にやって行けるか…自信が無い」


坂本「…」


鈴木「それに、俺もいい歳になっちまったし?死にかけてるし?目の前には若者がいるし?」


坂本「若者関係ない…」


鈴木「いーや、あるね。大いにある」


坂本「ないだろ…」


鈴木「なぁ坂本、お前、生きることを諦めてないか?」


坂本「…」


鈴木「もういいや、どうせそのうち死ぬから。って、投げ出してないか?」


坂本「……そりゃね、何してたってこの心臓がいつ止まるかわからない…ならさっさと止まってくれたら楽なのにって、何度も思ったよ…」


坂本「学校もろくにいけない、行っても、周りが走って、遊んで、はしゃいでるのを教室から眺めるだけ、自分が少しでも混ざろうとすれば嫌な顔されて、先生からは可哀想なものを見る目で扱われる…」


坂本「早く止まれって、ずっと思ってたよ……」


鈴木「もしここを出て、ワンチャン今より健康になれるなら、お前は生きたいか?」


坂本「……たい…」


鈴木「聞こえね」


坂本「生きたいよ!今までできなかったこと、出来るならやりたいよ!」


鈴木「なら、決まりだな…」


_鈴木の手が再度坂本の首に迫り、頸動脈を圧迫…そのまま気絶させる


坂本「はっ…がっ……」


坂本「すずき……おまえ……(気絶)」


鈴木「悪いな、でも…寝てくれた方が良いや…」


鈴木「…タナトス!いるんだろ!」


タナトス「…決まったか」


鈴木「あぁ、俺を狩れ」


鈴木「そして、あいつを生かしてやってくれ」


タナトス「…」


鈴木「俺は十分夢を追いかけた、結果死にかけてこんなところに来ちまったけど…でも、あいつは何もかも諦めて死のうとしてる…」


鈴木「あいつは、生まれつき心臓に問題があって、色んなことを制限されてた…生きてるのに死んでるみたいなんて言うやつ、初めて会った…でも、俺は違う」


鈴木「本気で夢を追いかける振りしてたんだ…」


鈴木「俺を狩って、あいつは生かせ!」


タナトス「……良いだろう」


タナトス「安らかであれ、魂よ。その御霊(みたま)は、私が連れて行く…」


_タナトスは携えていた大鎌を振るう

_瞬時に鈴木の姿は消える

_鈴木の魂は球体に姿を変え淡い光を宿している


タナトス「……坂本とやら、お前は生かされた」


タナトス「じきに、目が覚めるだろう…」


タナトス「目が覚めた頃には、この記憶は無くなっているはずだ……」


タナトス「…さらばだ、お前達は、実に、面白かった……」


___


医者「……坂本さん?坂本さん!?わかりますか?」


坂本「……ここは……」


医者「良かった……一時は心臓が停止していたんです…」


坂本「…」


医者「坂本さんの心臓は、もう移植するしかない状態でした…ドナーがすぐに見つかるはずもなく、我々も諦めていたのですが…」


坂本「……」


医者「とある事故で亡くなった方が、臓器の全提供意思表示をされていて、その方の心臓を移植しました」


坂本「…そのひとの、なまえは…」


医者「……提供者の開示は出来ないことになっています…ただ、暴走車事故に巻き込まれた方…とだけ、伝えましょう」


坂本「…す、ず、き………?」


医者「とにかく、目が覚めてよかった…」


医者「簡単な検査をするので、少し待っていてください、準備します…」


(医者退場)


坂本「鈴木……お前の心臓、俺の中で動いてるよ」


坂本「助けられたよ…」


坂本「馬鹿だよ…お前…お前が助かって、医者になって、そんでたくさんの人を救えばよかったのにさ」


坂本「なんで、俺1人を助けるために、お前が死ぬんだよ…」


タナトス「ほぅ、部屋の記憶があるのか」


坂本「タナトス…」


タナトス「鈴木は、自分の命を差し出す時、悲観はしていなかったように見えた…」


タナトス「お前のこれからを…願っていたようだった」


坂本「おれの、これから?」


タナトス「…私が言うものでは無いが…未来、と言うやつだ。」


坂本「……」


タナトス「お前は生かされた…命を差し出す者が、他者の命を、未来を願うことを、私は知らない…実に面白かった…」


タナトス「次に私がお前の命を狙うその時まで、せいぜい生きるが良い…」


タナトス「お前は、生かされた…」


坂本「…分かったよ…でも、次にお前に狙われる時は、今度こそ俺と鈴木の、2人分の命が狩られるんだな…」


タナトス「いつになるか分からないが、そういう事だ…」


坂本「……生きるさ、助けてもらった命…精一杯生きる……生きてみるよ…」


_心臓が強く鼓動する。

鈴木の心臓が止まるまで、次にまたタナトスが現れるまで、

無駄にしない…この命が、尽きるまで…


__________



(長めに間を開けてください)



タナトス「久しいな…」


坂本「…あぁ、お前か」


タナトス「あれから、何年生きた…」


坂本「さぁ…100年ぐらいか?」


タナトス「面白いことを言う…」


坂本「お前は、変わらないのな、その姿…」


タナトス「私は…お前たち人間のように歳を取らない」


坂本「…そうか」


タナトス「鈴木とやらの心臓は、随分弱くなった…あの時の力強さは、もうない…」


坂本「ははっ、無理はしてないはずだったんだけどなぁ…」


タナトス「それでも、お前は生きた…」


タナトス「…だが、時間だ…」


タナトス「迎えに来た」


坂本「おぅ…」


タナトス「そうだ…あの鈴木だがな…」


坂本「……?」


タナトス「あやつ、お前が来るのを待つと言って、冥界で自由に遊んでいるぞ…」


坂本「…馬鹿なヤツ…」


タナトス「あんな自由なやつを、私は知らん…」


鈴木「なら、早く行ってやらないとな…」


タナトス「まだ来るな…とも言っていたがな」


坂本「…あはははっ、なんだよ、どっちだよ…!」


タナトス「私の知ったことでは無い…」


坂本「……まだ来るなって…ははっ」


タナトス「……時間だ」


坂本「あぁ……十分、生きさせてもらったよ…」


タナトス「……」


坂本「いいよ、連れて行ってくれ…」


タナトス「安らかであれ、魂よ。その御霊(みたま)は、私が連れて行く…」


___



鈴木「よっ」


坂本「よっ。じゃない。この暇人」


鈴木「待っててやったのに酷いなぁ」


坂本「待っててくれなんて頼んでない!」


坂本「……でも、ありがとう…」


鈴木「おう。」


坂本「鈴木のおかげで生きれた。楽しめた。」


鈴木「鈴木さん、な?」


坂本「2度も首絞めるようなやつ、呼び捨てでいい」


鈴木「(ハニカミながら)……はいはい」


坂本「……楽しかったよ、鈴木のおかげで、生きれた。生きてるって思えることが沢山あった」


鈴木「……そうか」


坂本「だから、ありがとう」


鈴木「俺はここでずっと遊んでたよ、アイツが連れてくる魂の世話してた」


坂本「アンタ、医者じゃなくて保育士かなんかになれば良かったんじゃないのか?」


鈴木「かもなぁ」


坂本「そしたら、俺に心臓渡さなくて済んだだろ……」


鈴木「いいんだよ、俺が決めたことだから」


坂本「…」


鈴木「で、だ。タナトス!」


タナトス「呼んだか?」


鈴木「あの話し、やるよ」


タナトス「……そうか」


坂本「…?なんの事だ?」


タナトス「私が連れて行ったあの部屋、あれは死者選択の部屋ではあるが、同時に生きる者を選択する部屋でもある…試していたのだ。ずっと」


坂本「試すって。何を…」


タナトス「死を恐れながらも、生者を尊ぶ者が現れるのを…」


鈴木「コイツ、こんな喋り方で言葉が足りて無さすぎるんだよ…あの部屋は、まだ死んでない訳アリの魂を連れてきて、必ずどっちかを生かすための部屋だったの」


タナトス「私ひとりでは、今まで多くの魂を狩りすぎた…確かに私は、言葉が、足りない…何も好き好んで魂を狩り取っていた訳ではない…だが、どう伝えれば良いか分からず、あの様な言い方をしていたのだ…」


鈴木「そんで、俺に手伝いをしてくれって頼んできたの」


タナトス「……そういう事だ」


坂本「…つまり?」


坂本「俺もやれって…?」


鈴木「おう!」


タナトス「お前たちは初めて生きる権利を得た者…選択が出来た者…お前たちに、私のできなかった事を…魂を、導いて欲しい…」


坂本「……」


鈴木「俺は二つ返事で了承したよ、お前が来てからってのを条件にな」


坂本「…暇人め」


鈴木「ひでぇな!」


タナトス「どうする、坂本…」


坂本「……やるよ」


坂本「鈴木に助けられて、楽しい人生が送れた…」


坂本「あの部屋が正しく使われれば、助かる命があるって、俺が証明出来る。」


坂本「だから、やるよ」


タナトス「感謝する……」


鈴木「よし、そうと決まれば早速行くか!」


坂本「え、早くね?そんなホイホイあの部屋に魂って来るもんなの?」


タナトス「既にいる…残り時間はあと1時間…」


鈴木「…」


坂本「…」


鈴木 坂本「早く言えぇぇ!!!」


タナトス「……済まない」



坂本「(こうして、俺と鈴木は、魂を導く手伝いをすることになった。俺たちだから出来ること…俺たちにしか出来ないこと…無駄な魂なんてひとつも無い事……後悔の無い生き方が、死に方が出来るように、少しだけ手を差し伸べてしていくんだ…)」


______。


r5.9.11 加筆修正


r5.10.30 加筆修正2

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