第6話 それでも望む事

 ◇

 周が学校に『流行り病になった』と伝えてくれていた。

 今のご時世は便利だ、と内心不謹慎にも思ってしまった私。


 そして、その間は家がお隣さんである周が、朝と夕とやってきてくれてはご飯を作ってくれている。

 私は『周って意外に料理上手なんだ』と感心してしまった。しかしその食事は何も身体が受け付けなかった。


「筝羽、流石に何も胃に入れないのは良くないよ。少しでも……」

 そう言って、パン粥やお粥、オートミールにパンプティング等、ありとあらゆる食べやすいものを作ってくれたのだが、私の胃は受け付ける事をしなかった。

 食欲も無いし、食べると何故かムカムカして嘔気が止まらない。

 嘔吐してしまうことも多々あり、その度に周は甲斐甲斐しく世話をしてくれる。


 こうやって周が私の為に色々やってくれることが凄く嬉しかったけど、これは責任感からなんだろうなぁ、と思うと胸の辺りが苦しくなって蹲ってしまう。

 それが更に周に負担になってしまっていることの悪循環に、涙が止まらない日が続いていた。


 私は体のキズよりも、心のキズの方が苦しかった。

 確かに私の体験は悲惨だったと思う。思い出そうとすれば呼吸が苦しくなり息が出来なくなってしまう。でもそれでもまだ幸いだと思ったのは、犯された記憶は意識を手放したお陰でインプットされていなかった。そして──まだ生きている。


「周、大丈夫だからそんなに過保護にならなくていいよ」

 私は懇願するように声を絞り出す。そして微笑み「周は自分の時間を大切にして」と伝える。


 何故か周は──泣きそうな顔をしていた。

 そして私を抱きしめ、只々『ごめん……箏羽ごめん』と懺悔する。


 私も泣きながら自分の罪を悔やむ。

 今の状況を利用している自分に対して嫌悪しかない。

 それでも──私は周との時間を共有し続けたかった。

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