第19話 デニールとの決着


 デニールは左腕を突き出し、僕の身体目掛けて、熱線を放ってきた。僕の身体は一瞬で炎に包まれ、業火に焼かれた。


「……」


「はははっ! どうだ。覚醒した俺の力は」


「で?」


「何だと?」


「それだけか。神官よりも弱いな。見せてくれるんだろう? 王たる力を?」


「自惚れるなよっ! 虫がっ」


 デニールは突進し、殴り、蹴りと凄まじいラッシュ攻撃を見せた。


「フハハハッ。俺が速すぎて、反撃する隙もないだろう!!」

「虫の方がまだ、良い動きをするぞ」


 僕は『黒装』を使用しており、すべての攻撃を弾いていた。


「残念です。アーサー王子に比べたら、貴方など」


「アーサーと、俺を比べるなああああっ! 悪魔召喚、火の悪魔よ!」


 すると、どこからともなく魔法陣が展開され、炎の悪魔が現れた。アークデーモンとかそこら辺だろうか。


「我が肉体へと吸収されよ!!」


 デニールは召喚した悪魔を体に取り込み、さらに肉体と魔法を強化した。角が出現し、体がメラメラと燃え盛っている。


「フハハッ。ああ、これだ。これこれぇ! 今ならば、アーサーなど、一撃で倒せる。はぁはぁ、俺の無限の力だ」


 ——瞬時に奴を蹴り飛ばして、地下神殿の柱に激突させた。ここに居られると、女性達が危ない。


「何だ今のは? 痛くも痒くもないわ!」


「そうだろうな。お前を移動させるためだけに蹴ったのだから。これはどうだ?」


「ガハッ!!?」


 黒装で強化した膝蹴りをデニールの顔面に打ち込み、上空に上がった体を更に追加で何回も蹴り飛ばし、殴り、地面へと叩きつけた。


「……なぜ、これほどの力を——俺は、俺は負ける訳には行かんのだ! 超級-炎属性魔法『大炎の柱』」


 デニールを中心とし、僕を取り囲む様に炎の柱が出現した。メラメラと辺り一面が炎に包まれている。


「この中では、俺は最強だ! 炎を喰らい続け、魔力が尽きることはない!」


 デニールが肩から更に炎の腕を生やし、4本腕となった。その腕から、火の玉を連射して放って来た。槍で簡単に打ち落とす。


「そんなチマチマした技ではなく、全力で来い」


「クク。ならば、奥義をくれてやろう! 燃え盛る炎よ、我が前に現れん。暗黒の奥底より、熾烈しれつなる力を、我に。焼き尽くす炎よ、その獰猛さを撃ち放て! 焦げつくす者の名により滅せよ。『焔破滅フラム・ラグナ』」


 メラメラと燃え盛る巨大な火の玉を出現させた。それは、僕に向けて放たれる。


 バーーーーンッ! 


 凄まじい炎に包まれ、僕の体は焼かれた。辺り一面の柱は熱で形を崩し、熱風で温度が上昇する。


「素晴らしい。素晴らしい力だ。さすが、我が一族の秘宝。どうだ、これで貴様も」


「貴様も何だ? 言っただろう。チマチマした技ではなく、全力で来いと。まさか、今のが全力か?」


「なぜ、立っていられる。バカな……今のは俺の最大級の魔法だぞ」


「今度はこちらの番のようだな……デニール」


 すぐさま奴の懐に入り込み、打撃の連打を食らわせた。「ガハッ、ゲフッ」と血反吐を吐いているが、僕は休む暇を与えず、最後に上空へと思い切り蹴り飛ばした。


「お前に、絶対的な格の差を教えてやる——三下さんした。これが、全てを超越する、暗黒の力だ『黒き星ゼロ・アトミック』」


 空中のデニール目がけて術を放った。あたり一面が閃光に包まれて、爆発した。神殿の柱は風圧と衝撃でボロボロに砕かれ、崩壊寸前だ。


 魔物の身体は消滅し、デニールは元の人間の姿へと戻った。


「——ううっ。なぜ。なぜだ」

「滑稽ですね。デニール兄様」


 僕は仮面を外して、姿を顕にした。


「お前は! レッ、レイノルド……なぜ貴様が、その様な力を」


「兄様は知らなくても良いことです。あなたは、私に敗北し、無様な姿を晒したという事実だけあれば良い」


「口を慎めよっ!! くそレイノルドがぁっ!」


「まだモノを分かってない様ですね。今のあなたが、誰に従い、うやまうべきかを。闇魔法『質量負荷ダウナー』」


 デニールの身体に高重の負荷をかける。へばりつき、声を出すこともままならないだろう。


「アアアっ!? す、すみません。命だべば。おた#$すけ」


「レイノルド様だ。そうすれば、助けてあげますよ。デニール」


「レイ……ノルド様ぁ」


 僕は魔法を解き、デニールを一時的に解放した。


「はぁはぁ。さすがに命までは取らんだろう。レイノルド……レイノルド様。何が欲しい。お前が欲しいモノならば、全てやろう」


 デニールは安堵と安心を得て、僕に交渉を仕掛けてきた。


「そうか。ならば——命を差し出せ」


「はっ?」


 僕はデニールの眼球を突き刺し、そのまま壁に押し付けた。


「ぐあああああっ。なぜ、なぜぇ! 兄弟だぞ。俺たちは、レイノルド!」


「だからですよ。兄様。兄弟とは、争い、血を流すものだ」


「くっ、狂っている。レイノルド……たっ助けて、助けてください」


 デニールが僕に命乞いをして来た。前まで、僕を虐めてきた王子の顔からは、遠くかけ離れた——命の危険を感じ取っている顔だ。


「あぁ、お兄様! その表情おかお。それはまさに、僕が求めてきた至上の恐怖そのものですよ!」


「嫌だ、嫌だぁ。死にたくない、死にたくないぃぃ!」


「獲物を餌で釣り上げ、安堵と幸福を与え、蓄えさせる。そうすることで、最後の時を迎えるときに——最高の恐怖が浮かび上がる。兄様の十八番おはこでしょう」


「……お願いだ。何でもする。あなた様の奴隷になっても良い。だから、命だけは、命だけは」


「そうですか……ならば、僕は許しましょう。何せ、貴方を僕よりも憎んでいる人が居るんですから。スレッタ……来て良いよ」


 スレッタが待ち構えていたように、憎悪の表情で現れた。


「主人様。コイツ——壊しながら、殺しちゃうね」


 僕は「問題なし」と言い、ニコニコとスレッタに笑顔を返した。


「さようなら、デニール。あなたの領地と築き上げてきたものは全てこの僕、レイノルド・ゴッドウィンが利用させていただきます。

 これ以上に光栄なことはないでしょう。貴方が今まで、大金と時間をつぎ込んで、作り上げた全て——無駄だったのだから!」


「そんな……嘘だ、嘘だあああああああっ!」


 あぁ……何とも滑稽な事だ。スレッタの幻覚魔法で精神を破壊され、誰にも看取られず、死んでいくのだから。笑いが止まらない。




 数日後、デニールが戻らないとの事で、町外れの教会に衛兵が派遣された。地下神殿が発見され、神官達と思わしき蒸発した肉体が見つかる。


「うううっ。何だこの異臭」

「みっ、見ろ! それに、この老人は誰だ? 王子の衣服を纏っているぞ」


 第二王子デニール、何らかの精神的ストレスで老人のような姿となり発見、死亡が確認された。

___________________________________


 


「デニールは殺した。これからは、君たちの好きなように生きろ。ここに残っている家財は好きに持っていけ。我の名は、暗黒仮面。虐げられる者達の味方だ」


 修道女たちに、最後にそう言い残し、僕はその場を後にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る