第15話 レストランでのマナーと食べ方


 ガーネットはタキシードを着こなし、堂々と演説を始める。


「まず初めに紹介しますのは、どんな傷でも癒してしまう。紅のポーション。これの効能は凄まじいです。例えばこんな場面があるでしょう——」


 実演として、骨が折れた剣士を用意した。


「魔物に襲われてから、このさまです。私は、剣が振るえなくなってしまいました。神のご慈悲を」


 剣士にポーションを振りまく。すると彼は次の瞬間から活気に満ち溢れ、剣を振るうことができる様になる。


「すごい、本当に、本当にもう一度剣が握れるなんて!」


 周りの観客も次第に興味を示す。ガーネットはこう続けた。


「あなたの身に、いつ危険が訪れるのか分かりません。もしや、魔物に襲われなんてでもしたら……最後。でも大丈夫です。これさえあれば、元どおり。さあ、一家に一つポーションを!」


「買うぞ!」「俺も買う!」「買いますわ!」


 変に売り付けるのではなく、人々の恐怖心を煽る。魔物に襲われたら、どうする? そんな煽り文句を添えて、ポーションは価値を上げた。


 値段が跳ね上がり、全て売り切れた。


 その次々にも、いろいろな品物を売り捌き、僕の100万マニーの十倍近くは稼いでいる。これで、一般的な商人会による競りは終わった。


 閉幕と同時にガーネットと誰かが話しかけている。


「素晴らしい演説と商品だった。私の名前は、マッテオ。今日この酒場で、ブドウ酒、分量は3分の2、ヒタヒタを頼んでくれ。それでは、いい返事を」


「分かりました。ご案内ありがとうございます。それでは」


 今回のターゲットである、マッテオ・コルチトーレ。闇のブローカーだ。この街は、表向きは歓楽都市だが、裏では闇商人や闇ギルドなどが根強く張っている。


 ガーネットは僕に合図を送って来た。彼が釣れたので、僕は他の八戒メンバーと共に会場を出た。


 今回、旅に同行しているのは、ガーネット、スレッタ、ルビーとオフィーリアだ。


 ガーネットは交渉役、スレッタは幻惑魔法での誘導役、ルビーは目が誰よりも優れているので監視役。オフィーリアは、ペット役?

___________________________________






「皆、ご苦労様だった。夜まで少し時間があるし食事でもしようか」


「ニャー(いいですね! レイ様)」


 他の3人も喜んで快諾してくれて、一番高級なレストランへ足を運んだ。ここでは、正装としてドレスやタキシードの着用が義務だ。仕方なく、全員で着替え、オフィーリアも姿を戻した。


 念のため、スレッタに幻覚魔法をかけてもらい、一般の人からは僕の顔が太ったおじさんに見える様になっている。見た目が子供すぎると、入れてもらえない可能性がある。


「うまぁ!! ルビーちゃん、こんなに美味しい料理食べたの初めて!」


 ルビーはフォークとナイフの使い方がイマイチ分からず、ナイフで料理を串刺しにして食べている。綺麗に盛り付けられた野菜が、ペースト状になっている。


「ルビー。違うよ、こうやって食べるの」


 スレッタは効率性を考えているのか、吸い込むようにして皿ごとぺろりと平げた。あれで味がわかるのだろうか……僕には理解できない。


「違うよ、二人とも。ほら、ご主人様あーん」


「あぁ……ありがとう。ガーネット」


 ガーネットに顎を掴まれ、気がついたらスプーンで料理を頬張っていた。全く末恐ろしい。だが上手い。料理とガーネットの技術が100点だ。


「くぅぅぅぅっ! 違う違う、レイ様にはこうやって食べさせるの。レイ様、こっちを向いてくださいませ」


「こっ、こうか」

 

 オフィーリアの方を向くと、彼女が顔を急に近づけて来た。それを、他の3人が阻止した。


「なっ、なんで! いいじゃない、このぐらい! 口移しよ口移し! いつもレイ様の血を貰ってるもん!」


「ダメ! ルビーがやる!」


「スレッタも興味ある。やってみたい」


「全く……御主人様には相応しくないですよ。あなたの口移しなんて、私が本物を」


 これ以上騒がれたら、店を出なくてはならない。


「あそこの席……騒がしいったらありゃしない」

「てか、あのおじさん羨ましい限りだ。4人の女の子達を膝の上に乗せて、天国か?」

「あぁ……女の子のレベルも高い。特にあのエルフの少女。あれは育つぞ」



 まずいな……男性客からの視線を集めている。ここで騒ぎは起こしたくない。



「お、落ち着け。お前達。せっかくの食事の席だ。仲良く行こう。仲良く……」


 すると、僕らのテーブルに見知った顔が近づいて歩いて来た。


「なぜ、この様な高級レストランにエルフが居るんだ。虫唾が走る」


 しまった。


 はしゃぎすぎたせいで、スレッタの顔を隠していた布が外れていた。


主人あるじ様。こいつ……」


 殺していい? と顔で訴えかけて来たスレッタ。ダメだ。こいつは、なのだから。


「これは、これはデニール王子とお見受けします。大変、失礼いたしました。こちらのエルフは売りに出すため、今宵は至福の時を与えております。

 今夜、最高の恐怖に落とし至らすためでございます。その時に溢れ出る、生への執着……それこそ美徳。最高のスパイスです」


 デニールは「ほほう」と気持ちの悪い笑みを浮かべながら、納得してくれた。


「クフフッ。そういうことか。お前も悪い商人だな。まあいい、好きにしろ。今晩は、俺の育て上げて来たも沢山売りに出る。トレードと行こうではないか」


「ハハッ! ありがたき幸せ」


 トレードなんてことは死んでもお断りだがな。怒りをぐっと堪えて、目一杯のお辞儀をした。


 なんとかその場を凌ぎ切ったが、スレッタには悪い思いをさせてしまったな。高級店を出てからお詫びとして、彼女の好きな翡翠色の髪飾りを買ってあげた。



 その後は、真夜中になり酒場へと向かった。ガーネットはバーテンダーに酒の注文をして、店の奥の隠し通路に案内された。皆が、仮面を身につけ——闇市場へと身を乗り出した。

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