第32話 レイの帰還


 仮面を手に取り、それを自分の顔に装着する。……断片的だった記憶のピースが全て、一つの線で繋がった。


 そうだ、僕は……僕は暗黒騎士ゼロだ。


 現在いまは、レイノルド・ゴッドウィン。暗黒仮面として、デニールを殺害した——革命軍の主だ。


「クククッ。ハハハッ! なんていう無様! 無様なんだ、僕は! スカーレイに負け、何年寝ていた! 一体どれほどの時間を無駄にしたんだお前は!」


 自分自身に心底腹が立ち、頭がおかしくなるぐらい狂的《

きょうてき》に笑った。そうか、革命軍は弾圧されて、昔よりも生活が貧しくなったのか。


 八戒は一体どうしている……オフィーリアにべセル、他のみんなは今無事なのか? こうしては居られない、今すぐにでも最新の情報が欲しい。


「レイノルド様……お調子が優れないようでしたので、お迎えに参りました。体調は如何でしょう」


 僕の部屋の扉がノックされ、侍女が迎えに来たらしい。


「そうか。侍女がわざわざ、貴族の血を持たない僕の部屋まで様子を見に来るのか。名前は何という」


「私は侍女ではありません。私の名は……オフィーリア。現在は偵察警備軍にて、軍を率いる少佐の階位にあります」


「そうか……入れ」


 ドアを開き、軍服を来た女剣士を招き入れた。


「久々だね、リア。遅くなって、申し訳——」


「レイ様!! よくぞ、よくぞご無事で。あぁ……我が主人。お怪我は、記憶は戻られたのですか?」


 オフィーリアは僕に飛びついてきた。彼女は僕の胸に顔を埋めて、しばらく離してくれそうにない。


「リア。僕は一旦、祭典に戻るよ。体調不良で、寝込むと兄妹に言ってくる。今日は、夜道を散歩しよう」


 オフィーリアはコクリと頷いて、部屋を後にした。


 その後、祭典に戻った。だが直ぐに体調不良を訴え、部屋へと戻る。途中で、ルーカスに殴られたが、僕は『黒装』を使用したために、彼が拳を痛めた。


「それでは行こうか、リア」

「はい。レイ様」


 オフィーリアとは城下町で待ち合わせをした。二人で、城外へと出て夜の歩道を散歩しながら話を聞いた。


「それで、これがこうでして……私は不味い血を飲みながら、飢えを凌いできたんです」


「うん。わかった。リアの血の話はもう聞いたから……本題に移ろう」


 オフィーリアの話を聞く限りではこうだ。


 僕はスカーレイの投影結界魔法を喰らって、1年近く眠り込んでいたらしい。毎晩のように、交代でオフィーリアと八戒の皆んなが看病しにきてくれた。


 シン・革命軍は解散。残存勢力は一斉され、首を撥ねられた。ここまでが、帝国の話し。実際には、八戒のメンバーを中心に、組織は水面下で動いている。

 

 それにデニールに仕えていた修道女たちは、暗黒仮面を崇拝し、その教えを説いてる邪教まで設立された。


 頭が利くガーネットは貿易を発展させて、表向きでは商人として活躍し、裏では闇商人として売買し、資金調達をしている。


 ……全員が僕の帰りを待っている。


「最後にべセルですが……彼女だけは、行方が掴めず。神霊と戦闘後に姿を消しています」


「……べセル。そうか、君たちも大変だったね。ご苦労だった」


「レイ様。今後ですが、如何致しましょう」


「もちろん、べセルを探し出すよ。近々帝国は東の大陸に船を出すと思うから、大陸間の移動も自由になると思う」


「分かりました。それでは私は引き続き、軍に残り状況をお知らせします」


「頼んだ。君にしか出来ないことだ、リア」


「はっ。レイ様の仰せのままに」


 べセルを探し終えた後に、商団を組織し、魔族側に戦力強化のための武器を売り捌く。いざ、戦争が起きたときの備えとする。


 その玄関口である魔族との交易都市リバーテイルを僕の手中に収める。時間との勝負だ。

____________________________________


 



 次の日から僕は父親に懇願こんがんした。謁見の間で父は、納得のいかない顔をしている。


「レイノルド。お前には剣の才があると聞いている。私としては、近辺の警護団に属し、領地を統治する術を学んで欲しいと思うがな」


「しかし、父上。剣ならば、アーサー兄様が。統治ならば、メルシー姉様がいらっしゃいます。あのお二人に比べたら私など、天と地の差があります故」


 僕は片膝を立てながら、天に祈る表情でルーランド王に、ある事を頼んでいる。


「そ、そうです。ルーランド陛下。レイノルド王子は、魔法に優れております。きっと将来は有望な魔法使いとなるに違いありません! どうか、お言葉を聞き入れてもらえないでしょうか」


 僕の魔法の先生に付き添いで来てもらっている。


「しかしなぁ……」


 ルーランド王はこう見えて、実に知慮深い。ただのアホではなく、民の前では、きちんとした王なのだ。正直に言うと、彼のような者が一度取り決めた約束事を破るとは考えにくい。


「いいではないですか。王よ。たまには息子にも冒険をさせてやりましょう」


 一人の大臣が口を開いた。ゴッドウィン家に代々仕えてきた上級貴族、フレーザー家だ。


「我が息子、ウィリアムも通っております。歳は彼と同い年ですので、仕えさせましょうか?」


 ”そんな事はいい” と王は手を振った。


「分かった、レイノルド。お前の留学を認めよう。ただし、兄たちとは違い私からの援助は無しだ。それでも行くのか?」


「はい。ありがたきお言葉。光栄に思います、父上。このレイノルド・ゴッドウィン。父上の名に恥じない様、誠心誠意を持って勉学に励みます」


「よろしい。下がれ」




 こうして僕は、大陸一の名門と呼ばれるグランデリア魔法大学に留学が決まった。目標はべセルを見つける魔法と、勢力の拡大。


 そして、新たな魔力の習得だ。

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