第二章 グランデリア魔法大学編

第31話 制圧王

〜帝国歴1793年 帝都〜


 

 幾つかの歳月を得て、僕は12歳になった。この日は、帝国内でも一番の盛り上がりを見せていた。


「制圧王アーサー様、万歳! アーサー様、万歳!!」


 この時、兄であるアーサーは20歳。帝国の中でも最強と名高い『聖帝騎士団せいていきしだん』を率いている。彼らは、東にあるダルメキア大国を鎮圧させ、帝国の領土を東まで拡大させたのだ。


 長きに渡る東の大国を鎮圧させ、ルーランド帝国はかつて見たことのない海を渡った東の大陸へと進出を果たせる事となる。


「アーサー様、素敵」「なんて言う、美形で美しい方なのかしら。剣や魔法だけでなく、ルックスもいいなんて」


 制圧王アーサーの凱旋パレードは、長蛇の列を成し、全ての民が城下町に集まっていた。彼は女性からの人気も高く、求婚が絶えることはなかった。


「アーサー! ぶっ殺してやる!!」

「キャー! 革命軍よ!」


 みすぼらしい外見の男が、アーサーに襲いかかった。彼は衛兵に取り押さえられ、拘束された。シン・革命軍と言われる残党が少なからず、帝国内部には残っているらしい。


「どうしたんだよ、レイノルド。ボッーとして」


「……いいえ、特に」


 隣のルーカスが喋りかけて来た。


 僕ら王族は中央の広場に設置された歓迎用の席から、アーサーの凱旋を見守っていた。


 メルシーは王の座に就こうと、あらゆる手段を使っていると言う噂だ。


 ジェレミーとルーカスは去年より、魔法大学へと編入した。今日は、凱旋があるため、一時帰国している。テレシーは通信機をピコピコしているか、寝ている。


 ヒューイお兄様は、約1年前の帝国史に残る最悪の事件『革命戦争』によって命を落としたらしい。エレイン姉様は破門され、辺境へと旅に。


 スカーレイ姉様もその戦争でした。遺灰は王室に保管されている。


 ヒューイ兄様と違うのは、彼女の遺体が本人か分からないぐらいに焼却されて黒ずみだった事。近場に彼女の私物があり、数日後も姿が見えなかったらしい。


 その事から——事実上、革命軍に暗殺された扱いになっている。


 革命戦争後から今まで、僕は眠っていたらしく——前後の記憶があやふやである。ついたあだ名は、眠り王子。そんな僕だが、王子としての務めを果たし、帝国の栄光と繁栄を望んでいる。


「いいか。レイノルド。僕が新しく覚えた魔法で一から、君を教育してあげよう。ジェレミーと共に僕の部屋へ来い」


「分かりました。ルーカス兄様」

___________________________________





 その日の夜は、城で盛大な舞踏会が開かれた。自室へと戻り、着替えを済ませることにした。城へ戻る途中、金髪の煌びやかな髪色をした、女性兵士と出会い、彼女が部屋まで付き添ってくれた。


「レイノルド王子。それでは、私はここまでです」


「……どうもありがとう。僕の部屋が訓練兵の休憩所跡地だなんて、もっといい部屋を用意してくれてもいいのに」


「……以前のレイノルド様は、その部屋を随分気に入っておられました。長い間、眠りについてらっしゃいましたが」


「僕がこんな薄暗い部屋を? 王子としての品に欠けるよ。以前の僕はどんな子供だったのかなぁ……何も思い出せないんだ」


「左様ですか。それは……お気の毒です」


 彼女は最後、顔を伏せるようにして軍帽を深く被り、部屋を出て行った。


 部屋はなんだかよく分からない薬剤と、貴族たちの名前がついている書類、壁には地図と共に、マークがしてある。


「変な部屋……さてと、着替えないと」


 僕はタンスを開き、中から舞踏会用の正装を手にとった。タンスの奥に何か、銀色に光る物が落ちている。


「なんだこれ。仮面……だよね」


 仮面に触れた瞬間。




 稲妻が落ちたように、断片的な記憶が走馬灯のように入り込んできた。


「うわああああっ!」


 咄嗟の出来事に、仮面を床に投げつけた。


「はぁ……はぁ。何だ今のは」


 気持ち悪くなり、吐いた。


「この仮面の人が……デニール兄様を殺した? それだけじゃない、幾つもの事件に絡んでる。なんだこれ、どうしてこんな忌み物が僕の部屋にあるんだ」


 さっさと着替えて、部屋を後にし大広間へ行く事にした。


 天井を見渡すと豪華なシャンデリアや、装飾があるだけで星のアートが見られた。その瞬間に、僕は吐き気をもよおした。近くにいた、使用人に天井の話をした。


「ねぇねぇ、昔から天井って星のアートって描かれてたの? ほら、星座とか。他にも、宇宙とかさ」

「ここ最近ですが……それが、どうか致しましたか?」

「そっか。まあいいや。ありがとう」


 さっさと、王子王女の席に着いた。それから程なくして、父上の演説が始まった。


「皆の者。我ら帝国の帝都では、これまでにも悲しい事件が多くあった。その代償として、我は息子と娘を失い、民を震え上がらせてしまった。まずは、追悼を」


 皆で目を閉じ、手を合わせた。すると、デニール兄様の苦しんでる顔が、鮮明に浮かんでくる。まるで、が彼の最後を看取ったかのようだ。


(そうだ。苦しめ。苦しめ、苦しめよレイノルド!)


 なんだ……これ。なんで僕は——苦しまないといけないんだ?


「——である。それを祝し、乾杯しようではないか。ルーランド帝国に繁栄と栄光を!」


「「繁栄と栄光を!!」」


 気がついたら、演説が終わり、皆で乾杯の合図をしていた。


 僕らの席には豪華なご馳走が並んだ。前にもこんな光景を見た事がある。その時はテーブルがデカくて、椅子も10席だったっけ。


 今はたったの6つだ。


「レイノルド……さっき、僕はお前に何て言った? あとで僕の所に来いと言ったよな? 聞いてるのか、おい」


 何だろうこの感じ、僕の記憶が薄らと蘇ってくる。あの仮面……仮面が欲しい。僕は何者なんだ。


「レイノルド!!」


 隣に居たルーカスに頬を叩かれていた。


「痛っ……」


「お前が俺の言うことを聞かないから、いけないんですよーーーー? わかったか、レイノルド。この僕、ルーカスの言うことは絶対なんだ」


「……まれ。黙れっ」


「ハァ? なんて言った! このルーカスに楯突こうってのか!」


 ルーカス兄さんの腕を振り払った。威力が強すぎて、彼はその衝撃から床に尻餅を着いてしまう。


「あ、ごめん。ごめんなさい……そんなつもりじゃ」


「チッ。お前、僕が城に帰ってきた暁には奴隷の様に、コキ使ってやるからな」


「はい。わかりました。ルーカス兄様」


 トイレに行くフリをして、自室へと戻った。途中で誰かの視線が気になったが、今はそんなの関係ない。僕は自分が何者なのか、真実が知りたい。




 部屋に着いて、床に落ちている仮面を拾った。

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