第17話 プロテスタ教


「よくぞ来てくれました。ガーネット商会の皆さん。さあさ、中へお入りください」


「ご招きいただき、光栄です。わたしの護衛も中へ同行して、よろしいでしょうか? 神父様」


「えぇ、構いませんとも。それでは、修道女にお茶を作らせますので、席についてお待ちください」


 僕らは教会の内部にある接待室に案内されて、円形のテーブルに座らされた。少し経つと、それっぽい使いの娘がお茶を人数分用意してくれた。


「それでは、大神官様と、助言士様を及びしますね。お茶をお飲みになり、お待ちください」


「「ありがとう」」


 皆で軽く会釈をすると、娘は部屋を出て行った。


 窓一つ無い部屋だ。壁は分厚く、空気が全体的に淀んでいる。それにこの茶は……毒か。


「皆、気づいていると思うが——このお茶は毒が……」


「おいしーーーい! めちゃくちゃからいけど、すんごく美味しいよこれ! ルビーはこういう刺激的な味が大好きっ」


 えっ? まさかとは思うが……ルビーは茶を飲み干した。それでは飽き足らず、お代わりが欲しいらしい。


「うーーん。個人的には、軍で煎れる茶の方が美味しいですね。せっかくの休暇なのに、こんなまずい茶を飲まないといけないなんて……。レイ様、お口に合わないようでしたら、私がレイ様の分も頂戴しますよ」


 オフィーリアも何の疑いもなく、茶を飲み干した。口では不味いと言っているが、表情かおに「美味しい」と出ている。


「オフィーリアにお茶の味が分かるの?」


「失礼ねスレッタ! 私だって、味の違いぐらいわかるわよ。そりゃもう、レイ様と他の人間の血の味なんて……グフフッ天と地の差があるんですから//」


 オフィーリアだけ、なんか違う想像をしている。目がハートになっているぞ。


「へぇ、このお茶。面白いですね。ふふふ、アジトに帰ったらこの茶葉から毒を抽出して//」


 ガーネットは更なる凶器を作り出そうと、ヨダレを垂らしている。


「全く……なぜこうも警戒心がないんだ。どれどれ」


 警戒していたが、皆がお茶を美味しそうに飲んでいるので僕も茶を飲んだ。ほのかな苦味と、独特の香り、毒が良いスパイスになっている。案外上手いな。


 皆が茶を飲み干すと、奥の部屋からカーテンの様な大ローブを身につけた男がやってきた。この教会の大神官だ。


「お待たせいたしました。茶は満足していただけましたかな——」


「はい、それはもう」


 ガーネットがニッコリと返事をすると、大神官は驚愕の表情を顔に浮かべた。


「はっ? 大型の魔物でも数滴で神経を破壊する強力な毒だぞ?!」


 声が漏れているぞ、大神官。冷や汗と動揺がすごいな。


「ん? 何か問題でも。大神官様」


「あーーいえいえ、これは失礼しました。今回の件ですが、助言士様から、実際に試してもらいたいと言うので、その実演をしていただければと——」


「了解しました。こちらとしては、全く問題ありませんよ。先日取り決めていた、代金のうち、一本分の代金をお願いします」


 ガーネットが交渉し、代金と引き換えに、被検体を使って血清の効果を検証することになった。


「キャッ! 助言士様! 私は、私はあなたに付き従ってきましたのに、一体なぜ!!」


「黙れ。メサイア神のご指示だ。従え、家畜が」


 デニールが修道女を連れ込み、僕らの目の前で彼女に乱暴した。至るところに傷があり、これが日常で起きている事だと理解した。


「それでは、彼女にこの、赤い宝石を飲ませますね」


 ガーネットは無理やり、彼女の口に砕いた血清を飲み込ませた。同時に、スレッタが王級の幻覚魔法『道化ノ仮面ファントム・ピエロ』を部屋全体に掛ける。


 魔法の発動により、突如——彼女の容態が急激に変化し、悪魔の様な翼と、角、赤い瞳を兼ね備えた魔族へ変身した。


「素晴らしい……なんて言う力だ」


 デニールと大神官は口を揃えてそう言った。


「えっ。私に一体何が起きてるのでしょうか」


 彼女は慌てふためいている。それはそうだろう、彼女の身には何一つ変化など起きていない。


 スレッタの幻覚魔法で、皆の目には修道女が悪魔の様に見えているのだから。


「今のあなたならば、魔法を思いきり使えるはずです。右手を伸ばし、壁の方にむけてください。念じるのです、闇の力を」


 ガーネットに言われたまま、修道女は壁に手を向けた。僕は即座に魔法を発動し、壁を撃ち抜く魔法を放った。バゴーーーーンと、壁を突き破り、空中へと闇の閃光が飛んでいく。


「何と言う禍々しく強大な力。確信したぞ!! これで、僕は——王になる。素晴らしい品に感謝を、ガーネット殿。これからも、交友を続けたいと考えております。今日は、盛大に祝いましょう!!」


「はい。それは大変光栄です。では、契約書にサインと手続きをお願いします」


 デニールは速攻で契約書を書き、サインをした。彼の保有する領地を担保とし、約束通り全ての血清を買い占めた。更には、研究費用や施設費、その他諸々の費用を買い占める。


 これで、コイツを始末する準備が付いた。どこにも、存在しない研究施設の持ち主はデニールになった。

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 交渉が終わり、その夜は教会内で豪華なご馳走が配られる。


 皆が宴会で楽しんでいる頃に、ルビーとオフィーリアは教会の地下に囚われていた魔族の奴隷を解放し、外へと逃した。


 宴会でも神官たちは、修道女を奴隷の様にこき扱い、逃げ出す魔族など眼中にない。


「おい、この修道女ばいた! 酒はまだか!!」


「はい。ただいま……」


「俺のところにも早く持ってこい! 神の御加護がなくなる前になぁ!!」


「分かりました。申し訳ありません」


 ——全く持って不快だ。今すぐにこの場で、全員殺してしまいたい。


 宴が終わり、神官たちは揃って魔族の血清フェイクを持ち出し、奥の部屋へと消えていった。


 今日が彼らの最後の日となるとも、知らずにだ。


 ガーネットは宴が終わると、すぐ様にこの場から退散し、残る僕とスレッタはデニールの魔力残滓ざんしを追った。

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