第29話 神霊 vs 八戒 <オフィーリア視点>


 ルビーの攻撃を食らって動きが止まった! と思ったら、頭を急にポリポリと掻き出した。ハゲのくせに……。


 このハゲ……今まで出会ってきた誰よりも邪悪な存在。レイ様の首元にその刃は届き得る。絶対にここで、抹殺する。


「みんな、一旦私が指揮を取る。なんたって私は、大隊長ですから!!」


「ルビーは楽しい方につくよー」「仕方ない。さっさと命令しろ」


「ルビーは遠距離からあいつの木属性の魔法を打ち抜いて、べセルは……接近戦任せた」


  目の前にいる二人に命令を出した。


 合図と共に、散り散りになりフォーメーションを形成した。このハゲは体術が桁外れていて、べセルと互角がそれ以上だ。それに加えて、変な木属性の魔法を使う。


 近づいたら、攻撃を受け流され、中遠距離だと魔法が飛んでくる。さっきから、防御一戦を強いられている。それに加えて、一番厄介なのが変な黒い木の魔法! 


 木の枝に体を貫かれた、弓兵の死体は起き上がって合体し、黒い人型の木人形となって襲ってくる。こいつらが、意外と強い。


 彼はまた、大きな欠伸をしながら、空中に大樹を作り出した。


 大木から木の枝を弾丸のようにして飛ばしてくる。そして、枝の一本一本は鉄よりも鋭く硬い硬質となって、弾丸の雨が降り注いだ。


「『血の壁ブラッディ・ウォール!』」


 受け切れない……私は魔法の持続を破棄して、避ける事に専念した。とてもじゃないけど、一人で戦っていたら死んでいる。


「『黄金宮の弓アルテミス・レプリカ』ルビーちゃん、射ぬいちゃうよ」


 ルビーが金色の矢を駆使して、遠距離で敵を錯乱している。地上に降りてきたところを、べセルが雷の爪と脚で追い打ち。それでも、相手の状態は変わらず。ずっと眠そうに、欠伸をしている。


「魔力が回復してきた。そろそろ魔法を打ち込めそうね」


 後は私がマーキングした場所にあいつを誘導出来れば……。


「ふああああっ。後、何分かな?」


 男は初めて口を開いた。妙に気怠そうな口調で、時間を確認しているみたいだ。


「喋ったぁ?! 絶対に喋らないと思ってたのに」


 ハゲが喋ったのは意外だけど、彼は今マーキング地点にいる。今こそ、好機。この機会を見逃せないわ!


「『潜血円転アンドレイ』! 血の円転に呑まれるがいいわ」


「ぐわあああああっ」


 彼に魔法を喰らわせる事に成功した。これで、確実に勝った。無限に湧き出る血の刃。そう簡単には、逃げられない。


「なーんちゃって」


「はっ?」


「無限に湧き出る血の刃か。面白いね。俺がいた頃とは、構築する層や回路、理論が違っている。やはり未知のものを体験するのは、面白い。もっと、もっと痛めつけてぇーーーーー!」


 なんかコイツ……あれか。攻撃を受けたい変態なのかな。


「ならそのまま、血の刃に沈みなさい」

「『蒼雷の槍べセルシュート』」

「『黄金宮の弓アルテミス・レプリカ』モード、スコーピオン」


 全員で、一斉に攻撃を仕掛ける。それぞれの魔力をフルに使用して、最後まで攻撃の手を休めなかった。


「ぐあああああっ。いい、いい。いいいいいいいいっ」


「これで、おしまいだわ!」


 確実に苦しんでいる。さすがに、この攻撃を喰らったら死ぬでしょ。


「もうおしまい?」


「「「——はっ?」」」


 傷こそ付いているものの、彼は致命傷には至ってない。それどころか、ピンピンしている。私の魔力は尽きた。他の2人とも、疲弊している。


「これでおしまいなのか。そうか、じゃあ古代の魔法を見せてあげよう」


「古代の魔法?」


「魔法とは本来、この世の万物に干渉し、現象を強制的に引き起こす力だ。開門ゲータ。『次元砲ディメンション・レイ』」


 彼は右手と左手を合わせた後に、両手を離し、その空間にひずみを作った。その歪みを再び閉じた。






「あうっ……嘘でしょ」


 私の胴体に大きな風穴が開いた。


「リアちゃん!」


 何これ……次元が違いすぎる。どうやったら、こんな化け物と戦えるの。


「君、ヴァンパイアの血族だろ。血を飲めば復活する。2日程度は回復に専念した方がいいね。うん、うん。おっと——」


「殺す。みんな、逃げて」


 最後にべセルが蒼白い光となって、奴に攻撃しているのが見えた。


「べーちゃん、無理はだめだよ! ルビーがリアちゃん助けるからっ——」


「……べセル」


 ごめんなさい、レイ様。私は貴方様のお役に最後まで、立てなかった愚か者です。どうか、お許し下さい。


「うんうん。いい拳だ。僕は残り時間が少ない——場所を変えよう」

___________________________________








〜???〜


「ここなら、安心だ。誰も来ない。僕は後1分無いぐらいかな」


「フーー、フーー……。雷よ。私に従え」


「クラウンウルフね。いいよ、種の頂点である者同士、殺し合おうか」

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