第5話 王を冠する狼


 授業を終え、自室に戻る。


 その日の夜から、早速オフィーリアとの修行を開始した。僕が以前放った、『黒き星ゼロ・アトミック』の魔力が残っており、その魔力に引き寄せられてこの前よりも魔物が沢山居た。


「ゴーレムに、ガーゴイル……それにゴブリンの群れまで」


「心配するな、リア。君は強い。その強さを使えていないだけだ]


「はい。レイ様」


 オフィーリアに僕の剣を渡し、実戦を見守ることにした。


 相手はゴブリンが10匹程度だ。身体能力を強化せずとも、ヴァンパイアならば、基礎体力だけで倒せるはず。


「せいっ!」


 彼女はゴブリンの頭上に勢いよく、剣を振り下ろした……が、棍棒で防がれ、剣を弾き返された。


「あれ?」

「ギャハハッ!」


 棍棒で殴られそうになり、オフィーリアは後ろへと大きくジャンプした。一体どうしたんだ……僕の知っているヴァンパイアならば、今ので相手の頭蓋を砕いているはず。


「はいッ! せいっ!」


 その後も攻撃を仕掛けているが、一向に数が減らない。むしろ、防御に回されている。ヴァンパイアの力はそんなものではないはず……思い出せ。ディアブロは何故、あれほど強かったのか……。




***



「ゼロ。お前、やはり強いな。どうだ、ヴァンパイアの一族に興味はないか? 魔王ヴァレンタイン様に仕えれば未来永劫、不老と力を手に入れる事ができるぞ?」


「止めておきます。僕の中で、陛下はあの方のみです」


「そうか……それは残念だな。そうだ! ヴァンパイアの強さの秘訣を教えてやろうか?」


「強さの秘訣? それは、興味ありますね」


「それはな、愛する人、尊敬してる人に——外見ルックスを褒められる事だ!」


***



 思い出した——これだ、これしかない。


「リアッ!」


「はいっ! なっ、なんですか?!」


「君は……この世の誰より、美しい。僕が今まで見て来た、女性の中で一番だ! 誰の手にも届かない、高嶺の花だ。それ故に、君は強い!」


「レッ、レイ様……。はい!」


 これでいいのか? こんな事で、リアの能力が上がるとは迷信に近いんだけども……。


 ところが、次の瞬間からゴブリンに苦戦してた彼女とは一変——速攻でゴブリンの群れを倒していた。


「動きがまるで違う……」


 剣だけでなく、魔法や地形を利用しながら上手に戦っている。縦に連なる岩の壁を、無尽に駆け抜け、相手を切り裂いていく。これが、吸血鬼の力。


 オフィーリアの目の前に、4~5m級のゴーレムが現れたが、彼女は一瞬の内にゴーレムを塵にしてしまった。


「リア。さすがだな、今日はこの辺にしておくかい?」


「はぁ、はぁ。いいえ。レイ様のためならば、まだ戦えます」


 心構えはいいが、体力は消耗している。一旦引いて、明日戻ってこよう。そう考えた時だった、一際目立つ魔力を感知した。


「——なんだ、この魔力?!」


「レイ様。どうしたんですか? あそこ、何か隠れてます」


 リアの指差した方向に眼をやると、確かにそれは存在していた。魔王様の領土でも珍しい種族、王の名を冠する狼種の頂点———クラウンウルフだ。


 体毛が白く、全長は5mほど。鋭い牙に、爪を持っており、鋭い眼つきをしている。頭部には、一角の巨大なツノが生えている。


「あれは、骨が折れるかも知れない……」


 突如、僕の脳内に何者かの声が聞こえて来た。


(人の仔よ。我は影に生き、影の王を探す使者。そなたの、魔力を辿って遙かこの地までやって来た)


 クラウンウルフだったのか……太く重厚な声だ。


「狼種の頂点にす者よ。僕は貴方と争うつもりはありません。ここはどうか、穏便に」


(ならぬ。我の寿命はもうすぐに尽きよう。我の最後の子を任せられる王の器が必要なのだ。お主のような魔力の持ち主を)


 クラウンウルフは最強の狼種だが、契約を交わした者には従順だ。


 陛下の膝下にも、狼がいつも寝ていたからなぁ……。僕の魔力を辿って来たと言うことは、半分は認めているってことか。


「分かった。その勝負を受けて立とう。その代わり、僕が勝ったら貴方の御子息は好き勝手に使わせてもらう」


(構わん。では、行くぞ)


 ——行くぞの合図と共に、遙か向こう側の岩陰にいた狼が一瞬で、目の前に現れた。いざ、こうして見上げると威圧が凄いな。


「レイ様っ!」


「僕は大丈夫だ。リアは、自分の敵に集中しろ」


「しかし……分かりました。くっ、アンタらごとき雑魚にかまっている暇はないのに!」


 彼女は戦力差に納得したのか——ガーゴイルの群れへと向かっていった。それよりも、この狼とどう戦えばいいのか。


「——?!」


 考え事をしていたら、尻尾の一撃であばらを突かれ、数メートル先の大岩に激突した。パラパラと岩が崩れ落ちる。


「速いな……うっかりしていたら、本当に死んでしまう。『黒装こくそう』」


 『黒装』を発動し、黒い影の鎧を身に纏い、身体能力を大幅に強化した。創生そうせいした槍に魔力を込めて、槍先まで、黒いオーラを纏わせる。


(来いっ!)


 一太刀目、右側から大きく放った回転突きは、爪により弾かれて、ミシミシと地面がひび割れる。間髪入れずに、二撃、三撃と槍による攻撃を重ねていくが、相手も応戦するよう、爪や牙で身を固める。


「ワオオオーン!」

 

 クラウンウルフが雄叫びを上げると、どこからか雷鳴が鳴り響いいて、ジグザグの雷が僕を狙って来た。


「雷まで操れるのか」


 岩場を巡りながら、反撃のチャンスを伺っていると、今度は尻尾から種を飛ばして来る。剣よりも鋭い長針が僕の頬と脇腹をかする。


「『千本槍サウザント・ランス!』」


 数には、数で対抗する。闇のランスが長針を弾き飛ばし、地面に落ちながら、ザクザクッと長針がその場に刺さる。


「なかなかの魔法をお持ちの様だ。さすがは、狼種の頂点」


(油断していて、いいのか?)


 僕は言葉の意味が分からなかったが、次の瞬間——雷が地面に落ち、長針それぞれが、雷を連動させ、辺り一面が雷の海になった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る