1-14.2人目の「魔王」

聖十字軍セントール本部への突撃。

『聖女』を退け、左のドアを開けたら、室内のはずなのに断崖絶壁と渓谷が現れた。


とまどって戻ろうとすると、ドアは目の前で消えてしまった。


「はめられた……」


「どうしましょうか……」


顔を見合わせ、同時にため息。


「魔王様、魔法でドアは出せないのですか?」


「ドアは出せるけど……ただのドア。空間を繋げるような効果は……多分無理だと思う」


「超魔の才」の限界は10年前に確認済みだ。


「じゃあ……降りるんですか?」


「他に道がないしなあ……」


しかし、深い谷を降りるには、何らかの魔法が必要だ。


問題は、今着ている白いワンピースが魔法で作った物だということ。下手に強い魔法を使ったら、消えてしまうかもしれない。


ツノを隠すついでにこの服に着替えたんだ。ツノ隠しの麦わら帽子は風に飛ばされてしまったし、聖十字軍の奴らには私が魔王だってもうバレている。だからもうこの服に意味はないのだけど……


流石にハダカはねえ。


ドォォォォン……


「!?」


「今の音は……」


消えたドアの方を向いていた私達。背後からの爆発音に思わず振り向いた。


「よう」


男が、宙に浮いている。


筋骨隆々、上半身すっぱだかの男。しかしその肌は赤く、黒髪の上から私と同じような二本のツノを生やしている。だが、背中には私には無い巨大な翼を備えていた。


まるで、魔物と人間が掛け合わされたかのような、異形の姿。


「俺は、バラファム。爆災の魔王、バラファムだ。よろしくな?」


男が名乗った瞬間、強力な魔力が周囲に放たれた。

全身の毛が逆立ち、しつぶされそうなプレッシャー。


そうか。これが、魔王の魔力。でも……


………………

「な、この魔力……まさか貴様、魔王か!?」

(1-11)

………………


あのときの私は、こんな魔力を発していたのだろうか?


「私はマキナ。なにか用かしら?」


話し合いが出来る相手かはわからないが、魔王エミュのまま会話を試みる。

しかし。


「【聖光セイントレイ】!」


僧侶がいきなり私の後ろから飛び出し、魔法を唱えた。

杖から発される激しい光が、バラファムの体を槍のように貫く。


その瞬間、彼女の言っていたことを思いだした。


……………………

「【聖光】はただ眩しいだけの魔法ではありません。悪しきものの肉体に痛烈なダメージを与え、さらに対象に光の印を刻み、その位置を一定時間追跡するという高度な魔法です」

(1-10)

……………………


つまり、バラファムにダメージが入ったのは……


「え……!?」


僧侶が驚きの声をあげた。


「いってぇなあ……」


見ると、バラファムの肉体に空いた穴が勝手に塞がっていく。


「はあ……少しくらい話を聞けよ」


バラファムがそう言う間に、肉体は元通りになっていた。彼は僧侶の方に目をむけ、何か呟いた。


「【起爆イクスプロイド】」


そしてパチンと指を鳴らすと、何かが爆発したような音が辺りに響き渡る。


がらっ。


「あーー


次の瞬間。僧侶の立っていた地面が崩壊し、目の前から消えた。

手を伸ばす暇も無かった。


「お前……!」


「どうした?3人より2人のほうが話しやすいだろ?」


こいつの治癒能力は異常だ。全力の【壊す者ブレイカー】をぶつける。


ワンピースが無くなっても、もうしょうがない。魔力を集めながらバラファムを睨み付ける。バラファムはいやな笑みを浮かべていた。


「……そうか、まだ未完成か。俺以外に4人は妙だと思っていたが、なるほどな」


「何をごちゃごちゃと……」


「そうピリピリするなよ。俺が助けなきゃ、お前は地下で死んでたんだぜ?」


「何を言って……」


……………………

しびれを切らして大声を出した瞬間、見張りっぽい人がした。跡形もなく吹き飛んで、煙がもうもうと上がる。焦げ臭い臭いが鼻をつく。


(1-1)

……………………


……爆発?


「そうさ」

「あの時、お前を助けたのは、俺だよ」


バラファムは、そのまま腕を上に掲げた。

黒い魔法陣が上空に現れ、そこから大きな影が落ちてくる。


あれは……魔物だ。



その姿を、一度だけ見たことがある。



………………………………

『サイクロプス、救出に参りました』

………………………………



一つ目の巨人、サイクロプスだ。




…………………


次回、魔王覚醒。

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めんどくさがり魔導士、スローライフのため時間魔法を習得する〜未来に飛んだら魔王になっていたのですが、私のスローライフはどこですか?〜 麦茶ブラスター @character_dai1

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