04.赤と青の三番弟子


「もしかして、【五属性持ち】フルカラーのマキナさんですか!?」


「へぇっ!?」


 後ろから話しかけられたせいで、めちゃくちゃ変な声が出た。


 このままでは、普段口数少ないクール系で通している私のイメージが!


「……そう。私が、マキナ・ティアレス。……何か用?」


 息を整え、自分でもウザいくらいに、間を開けた喋り方をする。


 これが世間から見たマキナ・ティアレスの姿だ。

こんなんでちゃんとクールに見えるらしくて、学院内にこっそりファンクラブもあったとかなんとか……


 声をかけた主は、ツインテールの女性だった。私より背が高くて見上げる形になる。赤と青が右と左で綺麗に分かれている、中々凄い髪の色をしている。

 そのうえ目も赤と青のオッドアイで、中々派手な印象を受ける。


「あ、すいません急に……えっと、私はフレア・スクレイルと申します。魔法学院を去年卒業して、今年から大賢者アグニの弟子としてこの塔で修行しています」


 その印象とは裏腹に、ツインテールの女性はとても丁寧に挨拶をした。やっぱり、弟子は私以外にもいたらしい。


 魔法学院を去年卒業。それなら、私よりぜんぜん年上だ。5歳上か6歳上くらいか。確かに私は「飛び級」で弟子になったので、本来はフレアくらいの年じゃないと弟子になれないみたいだ。


 年上だし、一瞬敬語を使おうかと思ったが、「マキナ」のイメージを損なうわけにはいかない。


一つ勘違いしないで欲しいのだけど、好きでこんなイメージを演じてるわけじゃない。めんどくさいし、素の方が絶対に楽だ。


それでもやらざるを得ないのは、「伝説の入学式」事件が広まりすぎたためで…


「なるほどね……それで、何か用」


「ちなみに私は、炎と水の【二属性持ち】ツートンです。それから学院で雷と、増幅系ブースト魔法を習得しました。あ、勿論まあ、マキナさんの前では自慢にもならないでしょうけど……」


 あれ、私の話聞いてない? フレアは顔を真っ赤にしてぺちゃくちゃと喋り続けている。


「あの……」


「魔力量に自信があってですね、まあ見ての通り、髪の色や目の色まで影響が出ちゃってるんですが……」


 おしゃべりがとどまる所を知らない。ちょっと大きな声を出してみるか……?


「あの!」


「……あ、はい」


 うわあ、急に落ち着くな。


「すいません、つい体に熱が入っちゃって……マキナさんの噂はよく聞いてたので、実際に会えてうれしくなっちゃいました。クールダウンしますね」


 そう言ってフレアは目を閉じた。文字通り、今のフレアの体からは炎属性由来の熱気が放たれている。だって湯気が立ってるもの。これだけの魔力を暴走せずに体に蓄えられるのは、かなりの実力者だ。学院で暴走したやつを何人か見てるから、そう実感する。


「ふう……お待たせしました」


 体から立ち上っていた湯気が消え、フレアが目を開ける。

 クールダウンとやらが完了したらしい。またマシンガントークをぶつけられても困るので、改めて私から話題を振った。


「それで……フレアはこんな夜に何をしているの?」


 初対面の、年上の人を呼び捨てにするのは内心気が引ける。でも、マキナはこういうキャラでやってきたのだからしょうがない。


「実は、こっそり魔法の練習をしていました。師匠アラームの後、師匠もしっかり寝るので」


 なるほど、塔の明かりが全部消えるのは、内部の魔力を管理している師匠が寝るからなのか。あれのことだからてっきり、寝ないで鍛錬してると思っていた。


 でもロウソクは付いてるんだよな。よくわからない。まあ、良いか。


「なので、深夜は練習し放題なんです」


 なんて意識が高いんだ。私なら絶対やらん。


「マキナさんも一緒に来ますか?良い場所知ってますよ」


「え……」


 なんだかめんどくさそうなことになってきた。でもまあ、サボりスポットを見つけるチャンスかもしれない。


「……じゃあ、i……


「はい!」


 行こうかな、の「I」の段階で私の腕を掴み、駆けだしたフレア。いつの間に詠唱したのか、彼女は増幅魔法で身体能力を大幅に高めていた。


 文字通り風のようなスピードで走るフレアに私の体は引っ張られたまま、急加速によるGをもろにうける。


 そして私は気を失った。

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