02.チートと代償

 なんか、眠くなってきた……



 授業開始を告げる鐘の音が、魔法学院中に響き渡る。程なくして、属性魔法研究入門の先生が教室に入ってきた。


「えー、おはよう。今日もボーナスがてら軽い復習から行こうか」


 私は机に突っ伏して、寝たふりをする。授業を真面目な姿勢で聞くのがめんどくさいからだ。怒られたことはないし、点数は魔法実技でいくらでも稼げる。


「この世界の人々は皆、固有の属性を持った魔力を得て生まれてくる。魔力属性は多岐に渡るが、大半の人間は炎・水・雷・風・土の五属性の内、どれかを得る。この五属性のことを……」


 そこで先生は言葉を切った。おそらく、この間に周りのクラスメートはこぞって挙手をしているだろう。追加点のために……


「さて……はいルーク早かった」


「はい、基礎属性と言います」


「よし、ルークに加点1。我々は自らに宿る基礎属性を、神のお告げによって知る……」


 こんな感じの、早押しクイズみたいなノリで授業は進んで行く。他の科目も似たような感じ。魔法学院はわかりやすく実力主義なのだ。


 授業を聞き流しながらうつらうつらしていると、ひじを誰かにトントンされ、寝ぼけ眼で顔をあげた。トントンしたのは、隣の席の子だった。


「マキナ、世にも珍しい【五属性持ちフルカラー】のお前ならできるだろう。さっきの手順通り、混合魔法を実践してみてくれないか」


 先生が言う。クラス中が私を見ている。

 どうして。今まで当てられた事なんて一度も無いのに。


 私は、手順通りじゃ魔法、使えないのに……


 ※


『ワンチャン!』


 はっ。


 シロたんの大きな鳴き声で目が覚め、水の底から慌てて顔を出す。お風呂に入っているうちに、寝てしまったらしい。嫌な夢だった、気がする。


「あ、ありがとうシロたん。一緒にお風呂、入る?」


『ワンワンウォ~』


 私が目覚めたのを確認すると、シロたんはそのままころころと転がっていった。シロたんが来てくれなければ溺れ死んでいた。

 そしてシロたんはお風呂が大変嫌いである。とても賢い魔物だなあ。


 お風呂の浴槽は部屋に備え付けられていて、毎日決まった時間にお湯が湧き上がるようになってる。塔の中に満ちた魔力を使っているらしい。

 円形の浴槽は一人前にしては大分大きく、入るだけで疲労や肩こり、魔力の回復などができる。まあ、メインは魔力回復で、疲労や肩こりは十分には取れない。


 丁度良い温度の湯に体を沈めながら、修行について考える。大賢者が提示した合格ラインは、五属性を極めること。


 私の体内の魔力には、属性がない。

 この世界の普通の人間は体内にある属性をそのまま使うか、イメージと詠唱で別の属性に変えるかして魔法を使うので、属性がない私は魔法が使えないことになる。


 ただ、転生特典の「超魔の才」マジックマスターが私にはあった。これのお陰で属性が無くても非常に高度な魔法を使うことが出来るのだけど、1つ問題がある。


 普通の手順で詠唱をしても、魔法が発動しないのだ。


「飛ぶヤツ」とか、そういうざっくりした詠唱で魔法が使えるのに、正式な詠唱をすると必ず不発になる。チートなのか不便なのかよくわからない。


 お告げの際に再開した神様が言うには、「転生手続きをしっかりやらず私に丸投げしたからだ」とのことだ。


 色々めんどくさかったんだもん……


 しかも神様もこの肉体がなんなのか知らないという。「自分で手続きをしたことがないので、ランダム機能というものに任せたらそうなった。私は悪くない」とのこと。


 要するに、今の私の体は普通の人間ではないということだ。


 属性がない問題については、神様がお告げの時に「マキナの属性は炎・水・雷・風・土である」と忖度してくれたので、無事に【神童、百年に一度の奇跡、凄まじい天才、魔法そのもの】などとと散々に持てはやされた。

 

 その結果私は、田舎の村から王都の魔法学院に入学できた。おかげさまでハチャメチャに苦労した。


 そして今、属性なしを上手くごまかし続けた結果、大賢者の弟子になってしまった。


 今更属性無しだとバレたら、ずっと五属性持ちで通してきた私はどうなる?


 【クソガキ、百年に一度の詐欺師、凄まじい悪人、ゴミそのもの】などと散々に罵声を浴びせられ、田舎に帰って引きこもることに……


 または、属性無しで魔法が使えるなんて他に類を見ない話だ。私の扱いは天才から異常存在となり、どっかで研究されることに……


 もしくは、五属性持ちが嘘になり、神様のお告げが嘘というのはあり得ないので、お告げを受けた村は邪教の僕と扱われて燃やされ……


 それとも……いや、もういいや。とにかく、このことがバレたらスローライフと対局の位置に放り込まれてしまうのは間違いない。


 もっと早く打ち明ければ、こんなめんどくさいことには……


 過ぎたことを後悔してもしょうがない。


「ああ、流石にあがろう……」


 頭がくらくらする。少しのぼせてしまったみたいだ。

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