間話2 運命(シンシア視点)

 私はカワラギ王国の第三王女として産まれた。そんな私は幼い頃から勉強漬けだった。筆記や魔法、礼儀作法など民を引っ張っていくために必要なものは全てやった。この国をよりよくしたい。そんな思いだけで同年代の人がやってることを犠牲にして大人たちが言うような"理想の王女"となっていた。私は周りが望むような人であり続けた。

 そんな私にも一人だけ友達がいた。それはサラというエルフ族の女の子で里の長の娘だった。彼女も私と同じで幼い頃から人の上に立つ存在として育てられていた。私たちは出会ってすぐに意気投合して一緒に遊ぶようになった。彼女といる時だけは年相応でいられた。

 それからしばらくして勇者が現れた。それと同時にサラが来なくなった。それでも私はサラとの待ち合わせ場所に通い続けた。今日は来てくれるかもしれない、また一緒に遊べるかもしれない、そんな希望だけを見つめていた。

 その日もいつも通りサラが来なくて渋々帰って来た。その時に王宮の門番が私に話しかけてきた。

 「…なぁ、もうシンシア様をたぶらかした亜人はもういないんだろ?どうしてまだどこかに行ってるんだ?」

 その言葉に悪気がないことは分かっていた。それでも私はその門番に詰め寄った。それはどういうことかと聞いたら、「えっ?だってアブネス国王がエルフを処罰したって…」と返ってきた。…私は自分のことを過信し過ぎていたのかもしれない。私たち王族には相手の本質が分かる力があった。けれど、同じ王族であるお父様には通じなかった。それでも、お父様はいい人だと無条件で信じてしまっていた。そして、気付いた時にはすでに手遅れだった。お父様のところへ向かった時、「…フハハ。さすがはエルフといったところか。まさか一人で勇者を召喚できるようになるなんて!国民の百人ほどは殺す予定だったのに。…いやはや、シンシアがエルフと仲良くなってくれてよかったな。小娘はシンシアの名前を出しただけで何も疑わずに着いてきたわ。…とくに騙されたと知った最後の表情なんて最高だったな。…今は別に困ってないけど、異世界のやつらは魔王を討伐しろと言っておけば勝手に行って勝手に死んでくれるからな。そして、新しい勇者を召喚する大義名分を得る。そのためには人を殺して魔力を得るしかない。そして、死ぬときは絶望の表情を浮かべる。…これだから殺しはやめられないな!」という独り言が聞こえてきた。それだけで、私は全てを察した。

 そこで私はサラの遺体を盗んだ。そしてそのままエルフの里へと向かった。許されるはずはないけどせめて謝りたかった。…サラが死んじゃったのは私のせいだったから。

 里の長は私のことを責めなかった。むしろ、サラの遺体を持ってきたことを感謝された。その顔には深い絶望があったけど、私にぶつけることはしなかった。自分の気持ちよりも事実を冷静に正しく判断していた。それはとても立派なことだと思った。

 …だけど、悲劇はそれで終わらなかった。お父様が騎士団を引き連れてエルフの里に攻めてきたのだ。その理由は囚われた私を解放することだった。そしてエルフたちは皆殺しにされた。それまでにかかった時間はたったの3時間くらいだった。騎士たちは全員対魔法の防具を身に着けていた。これは、とても数時間で集められるものではなかった。それに、私が王宮を出てからまだそんなに時間が経っていなかった。…もともと計画されていたんだ。だからあんな話を聞かせたんだ。…これも全部私のせいだ…。

 そこから私は魔法を使えなくなった。そして私の価値がなくなった。この世界で人の上に立つためには強さが必要だった。魔物や他国から守れるくらいの強さが…。私はそれ以外のことを全てやった。そして私は心を殺して、感情を隠し、人を信頼しなくなった。そして、運命の日がやってきた。

 その頃には私はお父様の操り人形になっていました。生きていくために私は自分自身の価値観を押さえつけて勇者召喚を受け入れました。その時には500人の国民が犠牲になってしまいました。そして、40人の勇者を呼び出しました。

 私は全く期待をしていませんでした。いつも通りにこの世界の説明をするだけでおしまい。下手に感情移入してもすぐに死んでしまう。それなら何もしない方がいいのです。

 そんな中一人だけ戦う力がない人がいました。この世界で生きていくためには強さが必要になります。私にできることはあまりないけどせめて何かしてあげたかったのです。…それに、これが終わったらきっと私は用済みになるからね。最後は自分の気持ちに正直になりたいな…。

 私が欲しいものを聞いたら彼…イツキさんは他の人の安全を願いました。今まで見てきた人たちは自分のことしか考えていませんでした。そんな中、他人のことを第一に考えるイツキさんは不思議な人でした。そして、サクラさんも一緒に出て行くことになりました。彼女にも同じことを聞いたら、私に付いてきてほしいみたいでした。私はその提案に乗ることにしました。この王宮からなるべく早く、遠くへ逃げ出したい一心でした。…私はあの頃から何も成長してません。結局は自分のためだったのです。

 そして、私はこの世界について説明することにしました。そのまま隷属の首輪についても話してしまいました。本当はここまで巻き込むつもりはなかったけど、気づいたら話していました。…きっと誰かに話したかったんでしょう。それを聞いてイツキさんたちは私のために怒ってくれました。そんなことは初めてだったから自分の気持ちがよく分からなかったです。

 私がはっきりとイツキさんのことが好きだと自覚したのはスライムの戦闘の時でしょうか?イツキさんは自分が傷つくことも厭わずにスライムたちに立ち向かっていきました。その姿は私が憧れた王子様のようで、しばらく見惚れてしまいました。私は政治の道具としての政略結婚しかないと思っていたので、自由な恋愛というものを幻想していました。その後彼は私の隷属の首輪を外してくれました。私は感情の制御ができなくなって、思いっきり泣いてしまいました。そして、彼のことが好きだとはっきりと自覚しました。もしかしたら、それより前に思っていたのかもしれません。その前にサクラさんに、一緒に彼を支えていこうと言われた時に少しも迷わずに同意することができました。最初は捨てられないためだと思っていたけど、多少は意識してたかもしれません。

 私はサクラさんから呼び捨てで呼んでほしいと言われました。私はサラのこともあって友達を作ることを避けていました。それでも、サクラさんとは対等でいたい、もっと二人と仲良くなりたい、そんな想いの方が強くなっていました。私はすぐにその提案を受け入れました。そして、なるべく友達のように振る舞いました。サラとの思い出はどうしても最後の辛い気持ちが一番強くなっちゃうけど、彼女と過ごしていた時間は幸せだったから…。

 自分の気持ちに気づいた私はイツキに告白することを決意しました。もう何もできないのはイヤだったんです。サラやエルフのことも私がなんとかできたかもしれない。そんな後悔ばかりが残っていました。告白するタイミングを伺っていると、二人きりになるチャンスが訪れました。そこで私は告白しました。

 結果は断られました。私は感じたことがないくらいの絶望を感じました。すでに告白して返事をもらっていると思っていたサクラまで一緒に断られ、もう二人といることはできないと思いました。その感情から自分の心を守るために一度心を閉じました。けど、話を聞いてみると、イツキさんは私たちのことを受け入れてくれるみたいでした。その時に今まで生きていた意味が分かった気がしました。私は彼…イツキに会うために辛い思いをしても耐えてきたんだって思えました。これから先はもう自分に正直に生きよう、それが死んでいった友達への償いになると信じて…。まだこの話をするのは勇気が出ないけど、いつか二人には話したいな…。そして、二人のおかげで前を向けたって、ありがとうって伝えたいな…。

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