第2話

□□□


「にゃ!!」

 

大毒蜘蛛ラージポイズンスパイダー】は爆死した!!


「にゃ!!」

 

【大毒蜘蛛】は老死した!


「にゃ!!」


【大毒蜘蛛】の群れは風化した!


「にゃ!!」


【大毒蜘蛛"女王"】は亜空間へと消し飛んだ!



□□□


 メアリーちゃんと運命の出会いを果たしてから三日目の昼、先ほど倒した【大毒蜘蛛】の肉とかメアリーちゃんが採ってくれた野草とかを食べています。


 ちなみに毒はメアリーちゃんの魔術で分解済み。


「いや、ホントにすごいね~~、パールは!」

「にゃふふっ……」


 ふふっ、また誉められてしまった!


 あぁっ!!もっと撫でて!!


 そうそう、そこ!あごの下がきもちぃぃ!


「本当に強いですね、パール殿は。【ケット・シー】の強さはここまでだったとは……最強種などと言われるのも納得です」


 感心したように頷くシマエナガ、のような鳥ことノーブル。


 彼曰く、私の種族は【ケット・シー】という世界有数の化け物なのだとか。


 ケット・シーといえばファンタジーでよく登場する二足歩行のファンタジー猫だが、私は四足歩行だ。一応、魔法の補助ありなら二足歩行、というか空中散歩もできたけど。まぁ、とにかく【ケット・シー】らしい。


 ちなみに魔法のことについて詳しく教えてくれたのもノーブルである。


 彼の知識で心では理解していたパワー(魔力)の使い方を言葉で理解できた。


 曰く、魔力は世界の根幹たるエネルギーで、魔法は魔力を使用することで発動する。

 

 魔法は魔力の体外放出、性質変化、そして形状変化の段階に分けられる。


 体外放出はただ魔力を身体の外に出すだけ。ただ、制御をミスると暴発したりする。


 性質変化は魔力の性質を変化させる。その性質は五大属性である火、水、雷、風、土と陽陰の二属性そして多種多様な特殊属性、と分けられている。


 形状変化は性質を変化させた魔力の形を変える。


 以上によって魔法が発動する。


 私が一番最初に使った雷弾を例にあげると、魔力を放出、雷へと性質変化、そして弾の形へ形状変化、といった感じ。


 ちなみにこの魔法に術式を加えて特殊な効果や威力増大などをさせたものを魔術と呼ぶらしい。


 私は術式がどんなものなのかを学んでいないので全く使用できないけど、魔法はお手のもの。今では五大属性に加えて特殊属性もほぼ自在に操って、燃やせるしビリビリできるし亜空間に飛ばせるし、なんなら時間も飛ばすことができる。


 ただ、陽陰属性は才能が無いのか全く使えなかった。バフもデバフも使えない。


 ただの鳥であるノーブルが何でそんなこと知っているんだ?とか最初は思っていたのだが、彼の種族【貴族鳥インペリアルバード】はあらゆる知識を力として蓄える、という能力があるらしく、蓄えた知識が多ければ多いほど寿命が伸びるのだそうだ。


 メアリーちゃんが、エルフであるメアリーちゃんが十代の子供だったときに従魔になったそうだから、メアリーちゃんが現在高校生くらいの見た目をしていることから最低でも百五十年は生きているみたいだ。(エルフは普通の人間、こっちでいうヒューマンの一年の成長が十年かけて行われるのだそうで)


 ノーブルはただのシマエナガじゃなかったようである。


「にゃふん」

「いえいえ、パール殿の才能故ですよ。私は知識をお伝えしたのみです」

「そうそう!パールが凄いんだよ!!」

「にゃふっ!」


 謙遜したけど、やっぱり誉められると嬉しいわ。


 あぁっ!!もっと撫でて!!メアリーちゃぁん!!


「それに魔物を退治してくれたおかげで普段は取れない薬草とか採取できたし魔物の素材もいっぱい取れたしね。これが街でどれくらいの価値があるかは分かんないけどとりあえずは宿代とご飯代くらいにはなったんじゃない?」

「にゃ~~!」


 ああ、そう、そう。大量の素材。


 ここまでの道中、三日目に突入しているけど、その間に数え切れないほど【大毒蜘蛛】に遭遇しては倒し遭遇しては倒しを繰り返している。


 その【大毒蜘蛛】の外殻素材は、毎度私の魔法で大半が消し飛ぶが、それでも残った部分もちりも積もれば山となるというわけで、メアリーちゃんの持っていた見た目のわりに容量がおかしい不思議バックにも溢れんばかりとなっている。


 まぁ、見た目自体は強そうな【大毒蜘蛛】である。私としては街の買い取りで大量の素材を出して「そんな!あの【大毒蜘蛛】を倒すなんて!」と驚かれるパターンだと予想している。


 だけど謙虚に「ご飯代くらいかな?」と本気で思っているメアリーちゃんが可愛い。


「それに、もうそろそろ街に着くんじゃない?大分歩いてきたよね?」

「……もう二、三日といったところでしょうか」

「……にゃ」

「ようやく半分かぁ……もうちょっと頑張らないとね!」


 ふんすか!と気合いを入れるメアリーちゃん。


 はぁ、今日もメアリーちゃんが可愛い。見てるだけで疲れが吹き飛ぶわ。

 

 

□□□


「にゃにゃ」


 【大毒蜘蛛】を引き裂いた!


「にゃにゃ」

 

 【大毒蜘蛛】の群れを水没させた!


「にゃにゃ!!」


 【ゴブリン】の群れを鏖殺した!メアリーちゃんにイヤらしい視線向けてんじゃねぇよ、ドブが!!


「にゃ……っ!?」


 【ヒューマン】を殺しかけた!!



□□□


「着いたよ、ここがポポルの街だ」

「着いたぁ!!」

「にゃにゃにゃ!!!」

「道案内していただき誠にありがとうございます」

「いやいや、これも冒険者としての仕事だよ」


 着いた!!


 ようやく!!


 あそこから更に三日かけて、途中、水浴びしたい!っていったメアリーちゃんを水魔法でグチョグチョのビショビショにしちゃったり、その水も滴るえっちぃメアリーちゃんに興奮して猫なのにまさかの鼻血が出たり、抱き枕にされた私が丁度首が絞められて死にかけたり、ノーブルが【ヒューマン】の女冒険者に追い回されたり、それを兜を被っていたもんだから女性だと分からず間違って殺しかけたりと色々あったけども!


 ようやく着いた!!


 もう夕方じゃん。お腹減った!!


「ホントにありがとうございます。ノミノさんがいなかったらもっと迷子になってた気がします」

「ははは、まぁ、こっちも悪いことしちまったしね。そんなに感謝されると困っちまうよ」


 ぺこっ、とお辞儀して感謝するメアリーちゃん。そして感謝になれていない感じで少し居心地悪そうに苦笑いする女冒険者のノミノさん。


 悪いことをしたっていうと私の方が悪いことしたんだけど……


 このノミノさんはさっき言ったノーブルを追っかけて私に殺されかけた【ヒューマン】の女冒険者の人である。


 見た目とか雰囲気はなんというかおばさんのナース長を肉体改造させた感じ?なんとなく熟練な感じ。


 まぁ、とにかくその件のお詫びとして街まで案内してくれたのである。


 ……ところでメアリーちゃんがきちんと礼儀正しい。えらい!!すごい!!可愛い!!


「それじゃ、私はここらでお暇させてもらおうかな。まっ、何か困ったら気軽に訪ねてきな。」

「はい!ありがとうございます!」

「にゃ!」

「あっ、そうだ。メアリーは冒険者になりたいんだろ?冒険者組合はこの門から入って三番目の角で右に行けば着くよ。宿とか武器屋とかは受付で紹介してもらえるからね。……そんじゃ、またね!」

「はいっ!何から何までありがとうございました!」


 メアリーちゃんの感謝の言葉に振り返らず手を振っただけで応え、そのまま去っていくノミノさん。


 おぉ……なんか良い演出。


 キャラ的には普通に良い人だったな、あの人。……私の趣味には合わないけど。



□□□


 ノミノさんが去ってから少し後、メアリーちゃんはぽえぇ~~っと街の防壁を見上げている。


「……それにしてもすごいねぇ、街って。こんなにでっかい壁で丸々、街を囲ってるんでしょ?こんなの村じゃ見たことないよ」

「これぐらいの高さの木なら幾らでもあったのでは?」

「いや、そうだけどさ!あれとは別!だってあれは自然の恵みな訳じゃん!これは人がたくさん集まって頑張って作ったからすごいの!」

「にゃにゃっ!!」


 そうだぞ!メアリーちゃんの言うことが絶対!メアリーちゃんの言うことが正義である!!それにこの防壁を作った人の努力に考えが至るメアリーちゃんのなんと素晴らしい優しさか!!


 それが分からんとは、恥を知れ!!恥を!!


「……そこまで怒るとは」

「?」

「いえ、何でもありません」

「…………」


 ふっ、鳥ごとき私の殺気で一発よ。先輩とはいえメアリーちゃんに可愛がられるためなら容赦はせん。一言でも私の変態性をメアリーちゃんに告げようものなら焼き鳥になると知れ。


「……?まぁ、とりあえず街に入ろっか」

「そうですね」

「にゃー」


 まぁ、焼き鳥は置いといて。


 実際にこの、ポポルの街?は中々でかい。


 防壁は石造りの絶壁で天高くそびえ立っている。長さも中々のもので猫の目をもってしても、円形に囲んでいるらしいこの壁が視界の限り垂直な面にしか見えないほどである。


 門の方も立派で、木造の扉をかんぬきで閉めるようなちゃちなものではなく、巨大な檻のような鉄格子を必要に応じて上げ下げするタイプみたいだ。


 それに出入りは疎らだが何度か荷馬車が通っているのから交易もそれなりに盛んなようだ。


 ……これは期待できる。

 

 絶対可愛い子がいる。


 これだけ栄えてるなら絶対可愛い子がいるに違いない。


 今日は絶対、宿に泊まったらそのまま散歩して可愛い子を眺めに行こう。


 うん、そうしよう。


 あ、あと温泉があれば絶対入る。


 別にイヤらしい目的ではないけどね?


「ようこそ、ポポルの街へ。……エルフの方ですか?とりあえず身分証はお持ちでしょうか。無ければ通行料として銀貨十枚をいただくことになっているのですが……」

「えっ?」

「ん?」

「お、お金?」

「はい、銀貨十枚」

「…………」


 守衛の前でしどろもどろに目がすごい泳ぎ出したメアリーちゃん。


 あれ?もしかして……

 

「にゃ……?」

「…………」

「ちょっ!二人ともそんな目で見ないでよ!だっ、だってしょうがないじゃん!!いきなり村から逃げてきたんだから!お金なんて持ってる訳ないじゃん!」


 やっぱりお金持ってないじゃん。


 まさかのここまで来ておいて私の野望が頓挫するの?


 わ、わたしの天国が……ちくしょぉ……でも、ぷんすか逆ギレするメアリーちゃん最高。許してしまう。


 最悪の場合でも、一生街に入れなかったとしてもメアリーちゃんと一緒ならどうあがいても最高にしかならないし。


「ぶ、物々交換とかは……」

「い、いや流石にそれは……一応規則で決められているので……」

「そ、そこをなんとか!」

「い、いやー、ちょっとそれは……」


 なんとか街に入ろうとするメアリーちゃんに対してしっかり守衛としての仕事を果たしている。


 こういう人のおかげで街は平和を保てるんだろうけど……でもなぁ、今じゃない。今まじめにされたら困るんだよ。


 …………暗殺するか?


 いや、いっそのこと大魔法で城壁破壊からの騒ぎに紛れて街のなかに侵入したほうがいいか?


 ……うん、そうしよう。


 よし。そうと決まったらメアリーちゃんの見えないところで破壊してこないと…………?


「どうかした?」

「あっ、えっ!?あ、その……!」


 突然現れた、というか思考にふけって気づかなかっただけだけど、とにかく突然出てきた女性が守衛に……っっ!!


 うぇぇえぇぁ!!!


 なっ!!


 超絶美人!!!


「えぇと、この方が身分証も通行料分のお金も持っていないとおっしゃっていて……それで」

「……これでいい?」


 クール系の無表情美人!


 きらめくようなブロンズカラーの長髪と無表情のお顔に滴る返り血!!


 冷静そうなのに暴虐さが垣間見えるギャップ萌え!!


 あとメアリーちゃんとはまた違ったモデル体型。なんというか、パリにいそうな感じ?高身長でスラッとしている。


 メアリーちゃんの「えっちくてかわいい!」に対してこの人は「うっ、美しぃっ!!」って感じ。


 それに相乗するように着ている白銀の鎧と腰に帯びた青紫色の剣がこの人の凛々しさやら美しさやらを引き立てている。


「あっ、はい、十分です!……って、あっ、ちょっと!?お釣りは大丈夫ですか!?……あぁ、行ってしまった」

「あ、あの?さっきの人は?」


 やべぇよ。


 見た目だけじゃない中身もマジのクールタイプじゃん。


 お金払って去っていったよ!!


 しかも適当に払ったせいで銀貨二十枚払っちゃってるよ!!


 しかも間違った分お釣り貰わないって!?やばいよ、ハードボイルドなのかドジなのか分かんないよ!いや、これは馬鹿にしてるわけじゃないけどね!!


「知らないのか、あんた!?国内じゃ知らないやつはいない方が珍しいほどの冒険者だぞ!!?」

「あぁ、えっと、ごめんなさい?」

「あの人の名前はノエル・グレイブ。"氷魔剣"の二つ名を持っているAランク冒険者だよ!」

「Aランク!?」

「そう!!国内のAランク冒険者九人のうちの一人!特にあの人はすげぇ美人ってんで、めちゃくちゃ人気があんだよ!!いやぁ、初めて休日出勤に感謝しちまったよ……!」


 守衛の人も興奮で地の口調になってしまっている。


 わかる。わかるぞ、君。

 

 あの素っ気ない感じも良かったよね。うん。


「ノエルさん、か……」


 うん、うん、いいよ、ね……!?


 ちょ、ちょっ、ちょっと!!?メアリーちゃん!?


 な、何その表情!!


 なんかぽ~~っと顔を赤らめる感じ!!

 

 「あの人、かっこよかった……」みたいな、その感じ!!!


 も、もしかして!!!


 もしかするのでは!!?


「にゃにゃにゃん!!!?」


 百合るのか?


 百合っちゃうのかぁ!!?


 えぁ、えっとぉ、わたくしも衝撃で頭が回らないですがぁ……今後の展開に乞うご期待ください!!


 現場からは以上です!!!

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