第三十一話 ハロー、ニューワールド



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紀京side

 

 裁判所のセットをアマテラスが懐にしまって、真っ黒な社をバックに立ち並ぶ。

 さすがにみんな疲れたから椅子に座ってます。なう。



『ようやく未来の話が出来るな……見てる人たちも疲れただろうけど、あと少しだ。

 今後についての話をしていこう。

まずは、この先のみんなの生活について。

ゲームをやってきた人達はわかってると思うけど、この世界では既にルールが沢山ある。

 そのルールは今後も適用になる。

 新しく加わるのは、自分の命が本物だと言うこと、神様という存在が人間と同じ世界に加わるということ」


 アマテラスがホワイトボードを例のごとく懐から取り出す。

ほんとにそれ、どうなってるの??


 呆然としてると、清白がきれいな字で、【神界】【現世】【黄泉の国】

と書いて、それぞれ神のみ、人と神、死者の国と追加していく。うむ、これは任せよう。


『世界は3つに分かれる。神界、現世、黄泉の国。

 神界は俺たちの本社しか今は無いが、神の数が増えれば街ができるかもしれないな。

基本的に神界に出入りできるのは神のみになる。

 現世は今俺たちがいる世界のことだ。

人と神が共存してる。

 黄泉の国は死者の国だが仕事をしている神が少ないから、社員募集して生きたまま通勤できるように整備する予定だ。

 そして、俺たちが運営として会社を立ち上げ、現世の人たちの手助けをし、生活を助力していく。まずはそのメンバーを紹介していこう』


 清白はこれから説明することも順に書いてってくれてる。有能だなぁ。

 さて、みんな一列に並んだな。まずは神様たちからだ。



『みんなから見て左から、アマテラス。元は天照大神で、何百万年も昔から日本を守ってきてくれた神だ。今後はゲームマスターとしてゲーム内を実質的に動かす役割をする。

 アップデートも落ち着いたらしていくから楽しみにしておいてくれ』




『はーい、アマテラスでっす!運営メールの送り先は私です!ラブレター待ってます☆ギャル友募集中だょ!』


 アマテラスが顔面ドアップで映し出される。光を収めてるからいいけど、ギャル友募集するのか。


『アマテラスの横にいるのがツクヨミ。月読命だ。俺にそっくりだけど血縁じゃないぞ』


『ツクヨミだ。紀京と間違えないでくれよ。私の方がイケメンだ。

 アマテラスが兄上、サクヤが私の妻。史実とは異なるからな。サクヤは私の妻だから。私は現世の中でほとんど生活する予定でいる。見かけたら気軽に話してくれ』


 ツクヨミは言いたいことそれなのか。何言ってんだ。サクヤが怒って脇腹を抓ってる。

 画面の向こうからくすくすと笑い声が聞こえる。

ん、みんなちょっと元気出てきたかな?


『ツクヨミの横にいるのがサクヤ。木花咲耶姫だ。役割はアマテラス、ツクヨミと同じ。三人は専務だ。現世にちょいちょい来てくれる。可愛いからってちょっかい出すと…ツクヨミがアレだから気をつけてくれ』


『サクヤと申します。ツクヨミの事は気にせず親しくしてくださいませ。

 私達は長である紀京に仕える者です。なにか文句があるなら私たちにまず言ってくださいましね。紀京に言ったら……うふふ。よろしくお願いしますわ』


 サクヤ…今の顔怖い。ツクヨミの顔も怖い。俺を巻き込まないで。




『……おほん。続いて、ここにはいないが日本古来の神々も全てこの世界にやって来ている。

 NPCだった神もすべて中身がいるからな。無碍に扱ったりしないようにして欲しい。

 あーあと日本を作った伊邪那美命、伊邪那岐命も名誉会長として運営を手伝う。

 イザナミは黄泉の国で生と死を管理する。

 イザナギは…クニツクリの経験者としてなんか色々手伝ってくれるらしい。

 黄泉の国で働く奴は覚悟しておいてくれ。アソコはバチボコのブラック企業だ』


『おい。私たちだけ適当なのはなんだ。

 私がイザナミだよ。黄泉の国を統べている。大いなる母を敬うように。

 黄泉の国では社員募集中だ。

 通勤は電車を作る。映画館や高層ビルが立ち並ぶ都会だよ。給料も沢山あげるからねぇ。ヒトが来るのを楽しみに待っているよ』


『イザナギだ。扱いが酷いが一応元はいちばん偉かったんだぞ。神界からあまり出ないが、たまに降臨するから優しくしてください。メンタルゼリーなので』


 ふっ。立場的に偉い人だからって特別扱いはしないぞ。俺たちは平等だ。ふん。




『さて、どんどん行くぞ。俺たちの紹介をしよう。ダンジョンに野良で潜っていることも多かったから、知ってる人も多いと思う。清白だ。

運営の中では副社長になる』


『おう。清白だ。初心者は知らんだろうが他の奴らはゲーム内なら殆ど知ってるからな。情報屋は後でお礼参りに行ってやる。せいぜい神に祈っとけ。俺も神だがな』


「清白、脅すなよ」

「うるせぇ。おかげで死にかけたんだ。ボコボコにしてやる」


 ……死にかけた?

 俺それ知らないんだけど。


「清白?死にかけたって何だ?」

「あっ、やべ…そ、それより先に進めろ。山ほど運営にメッセージきてるぞ。終わったら仕事の山だからな」

「…ふぅん」


 目を細めてじっと見つめると目を逸らされる。俺の知らないところで大怪我でもしたのかな…後で説教だ。





『俺の横にいるのが、俺と同じく社長の巫女。俺の妻だ。…俺の、妻だ。優しくしてくれ』


『紀京なんで二回も言うのぉ?ツクヨミと同じことして…。んふふ。

 ええと……紀京の妻で副社長の巫女です。ゲーム内では色々あったけど、これからはみんなと仲良く過ごせたらいいなぁ、と思ってる。沢山お話してね。』


 ニコニコしてる。可愛い!!!

 変なあだ名も消えるといいけど。

片手を握って見つめ合う。俺の奥さんは本当に可愛いな。


「紀京。慎め」

「くっ……」



『はぁ…さて、最後に俺の自己紹介だな。清白程じゃないがお店もやってたし、知ってる人もまぁまぁいると思うが、俺が社長になる。ヒーラーの紀京だ。

 俺と巫女、清白が北原天満宮の報酬である裁定者称号を所持している。

 そのため神への橋渡しとしての役割、そしてこの世界の秩序を守っていく手伝いをする。一応俺と、清白、巫女は神様になった。

 その秩序を担う役割として、新たに神の任命を行う。

 今、現在人間として生きている皆にも神になれるシステムを用意している。

 スキルをカンストまで上げて、ここ北原天満宮の社を入口として神界に来れる人は等しくその資格を持つ。まずは初めての神様任命をするぞ』


 ちょいちょい、と手招きして三人を呼び寄せる。神様になって貰うのを見て欲しいからな。


 

 アマテラスと巫女が俺の左右にたつ。

三人が片膝をついて、頭を垂れる。

アマテラスから巫女が勾玉を受け取り、更に俺に渡してくる。

 なんだろな?この作業。

 よく分からんけど。

最後に誓約の言葉に言霊を乗せて口に出す。



『獄炎。自警団の長たるあなたを神として迎える。

 自警団の名を改め、警察として組織を成長させ、現世、黄泉の国を主としてあまねく命を導いてくれ。秩序の神としての資格を与える』


『はい。謹んで…承ります』


 獄炎さんに真っ赤に燃える火のような勾玉をかける。

 首にかけた瞬間、全身から赤い炎が立ち上がり、その炎が染み込んでいく。

 獄炎さんの瞳に赤く炎が点った。


 おぉ、これは凄いな。神様になるとこうなるのか。アレ?俺も清白も地味なままなんだけど。



 

「なんか狡くないか?俺もこんなの欲しい」

「だよな?」


「紀京は元々派手だろ。清白は知らねぇな。動きが派手なんだからいいんじゃねぇのか?」

「見た目が地味で悪かったな」


獄炎さんがにやりと笑って、清白がジト目で見てる。ワイルドイケメンはますますイケメンになったな。


「もうっ!早くしてください!待たされてるんですがっ!」

「そッスねー。もう疲れたッス」

「わ、わかったよ」




『殺氷。あなたも警察として獄炎を支え、秩序のために尽力してくれ。先を見通す眼で世界を見つめ、優しい心で人を助けて欲しい。真実の神の資格を与える』


「短くないですか」

「ほら、もういいからっ!」

「ヒョウ……諦めてぇ」

『謹んで承りますぅー』


 口がとんがってるし。もう。

殺氷さんに氷のような、青いプリズムをまとった勾玉を首にかける。

ふわふわと大きな雪の結晶が舞散り、光を弾きながら体に染み込んでいく。

 随分可愛いエフェクトだな。ガチガチの氷が出るかと思ったのに。性格に寄るのか?


 獄炎さんと同じく瞳の中に雪の結晶のキラキラが写り込む。わー、宝石みたいだ。

いいなー。かっこいいなー。


 


『最後に、美海。あなたは困難に立ち向かい、人を守ることに尽力してきた。

 今回の事件でも粘り強く戦い、耐え続けてくれた。

 その精神力を活かして、命を守る術を伝え、黄泉の国で更生施設の責任者として尽力してくれ。守りの神の資格を与える』


『謹んで承りますッス!』


 美海さんの勾玉は黄色く透明な石の中にキラキラと金糸が混ざっている。

首に下げると、頭上からキラキラと光の粒が降り注ぎ、美海さんに染み込んでいく。

 瞳の中に金色の光が輝き、瞳全体が黄色く染る。


 美海さんも綺麗だな。

夕方の海のように黄金に輝く瞳がキラキラしてる。

 よし、これで任命はおしまいだ。


 

『これから三人は会社の中核社員としてみんなを支えていく。

仲良くしてやってくれな。

 神様任命システムは、本人からの申し出があればいつでも退職できるし、変属可能だ。

 俺が言った言葉に固執せず、正しい心に従い、自由に動いてくれ』


三人がこくりと頷いた。


 もうないよな?大丈夫だよな?

巫女を見つめる。

 にこっと微笑んだ巫女はようやくいつも通りだ。ピカピカして髪の毛フワフワも可愛かったけど、やっぱりいつもの方がいいな。


 ホワイトボード前で佇む清白を眺める。

疲労が顔に浮かんでるな。

 目線にに気づいて、なんだよ。と聞いてくる。

……うん。大丈夫そうだ。


『はー……長かったな。みんなお疲れ様。放送はここまでだが、いつでも運営にメッセージくれていいからな。ツクヨミ、頼む』



 

 ツクヨミがボス部屋の社にサッと手を振りかざす。

ボス部屋の社の下から白い光が現れた。

 とんでもない光量の光が社を白く染めながら上に上がっていき、ボス部屋内が四角く整った部屋になる。

壁も真っ白、社も真っ白。

道真と鬼までまで真っ白だ。


真っ白に染った道真が門の前に立つ。

うむ。カッコイイ。




『神域への入口に変更完了だ。

皆がスキルをカンストして、神様になるのを目指すのもいいと思う。

 だが、神になるというのはいい事ばかりじゃない。

 疲れても、生きるのに飽きても死ねないし、必ず人の役に立つ役割を担うから楽はできない。神様やめたら寿命でポックリだからな。

 逆に言えばみんなの役に立てて、神様をやっているうちはいつまでも死なない。

神になるのはそれなりの覚悟を持って欲しい。

 別に神にならなくてもいい。のんびりゆっくり暮らすのもいい。俺の友達の釣り人みたいにな。』


 しばらく会ってないアイツ。

画面の向こうでニヤリ、と笑う気配がした。

 俺も釣られてほほえむ。

 なかなか釣り人の腕が上がったな。





『最後に社長から、ワールドのみんなに一言メッセージ』

「えっ!?清白!?そんなの予定になかっただろ!」

「締めの一言は必要だろ」

「くっ……」

「紀京、頑張ってぇ!」

「よし、やるぞ」

「……やれやれ」


んむ。巫女に言われたらやる気も出るってもんだ。

こういう時はなんにも考えずに、脳みそにしゃべらせるのが一番いい。

体の力を抜いて、ふにゃりと笑う。





『俺も社長なんて肩書きだが、俺たちを含め、神も、人も……ここに存在する命はみんな平等で、かけがえのないものだ。

 皆は自分のことを大切にして、自分の好きな人を大切にして、人を傷つけることなく生きて欲しい。

 俺は人を傷つける人に対しては容赦出来ない。それだけは肝に銘じてくれ。

 皆で協力して、手を取り合って幸せな未来を紡いでいこう。

…いつか、俺たちが必要なくなる世界ができて欲しい。そう、願っているよ。

 では、また現世で会おう。ノシ』


「はいOK!!おつかれッピ!!!」

 アマテラスの声に、みんなしてグダーっと座り込む。

 ま、マジで疲れた。気絶しそう。



 

 大の字になって寝っ転がると、巫女が胸に頭を乗せて寄り添ってくる。


「巫女?どした?」

「紀京、必要なくなるってどういう意味?」


 頭をグリグリしてくる巫女が不安そうな顔してる。あ、勘違いさせたか。


 


「巫女、違うよ。変な意味じゃないからな。俺たちはあくまで世界が軌道に乗るまでの役割だろ?

 それが終われば社長引退して旅行でも行こう。

あまりに力を持つ神様ってのは、回り始めた世界の足枷になることもあるんじゃないかと思うんだ。

 頼りすぎたり、信じすぎたり。祀り上げられるのは俺地雷だし」


「そういう意味なんだね。またどっか行っちゃうのかと思った。」

「どこにも行かないよ。ずーっと巫女と一緒だ。巫女に飽きられるまでな」


 巫女の柔らかい頬を撫でる。

 あの時の恐怖が、まだ巫女の心にある。

 俺が巫女に負わせた深い心の傷だ。


 俺、おかしいのかな。その事実がむしろ愛おしい。あんなに傷つけたくなかったのに。

 皇のこと言えないな。俺も充分ヤンデレだ。

傷つけたぶんも一生俺がそばにいて、治すからな。ごめん。


 巫女と離れるなんて、考えることすら出来ない。愛って思いが通じてもどんどん育って行くんだな。


 巫女とお揃いの瞳の目線が交わる。

巫女の瞳に俺が映るのが、心の底から幸せだ。




「じゃあ、本当にずっと一緒だね、紀京。ボクが紀京の事飽きるなんてないもん」

「うぅ……巫女ぉ」

「んふふ……」


 寝っ転がったまま巫女を抱きしめる。

 背中をとんとんして、巫女の頭に顔を埋める。

 ふわふわ桃の香りに包まれて、疲れが解けていく。


「俺も一緒だからな。置いていくなよ」

 背中から清白が頭をグリグリ押し付けてくる。

 

「いてて!優しくしてっ!清白もお疲れ様。じゃあ…旅行どこ行くか考えておいてくれよな」

「おう」


 あれっ?このパターンだとみんなひっついてくるかと思ったのに来ないな?


 起き上がって両手で巫女と清白を抱える。

みんな俯いて、涙を拭ってる。

……どした?



 

「紀京…が、戻ってきたって…実感して……ぐすっ」

「うっ…う……戻らないんじゃ…ないかって…こわかったんです」

「オイラも信じてたけど…それでも、怖かった…紀京氏…オイラたちも連れてってください」


「おおう?新しいパターンだな。ごめんな、怖い思いさせて。

 もう神様だし、簡単には死なないぞ?

だからそんなにしんぱ……ごふっ!優しくしてっ!!!」


 体中に突進してきた皆であはは、と笑い合う。

 優しい笑い声に穏やかな空気。

 これから大変だろうなぁ。それでも、仲間たちと一緒なら、何度でも立ち上がれる。

新しいワールドエンドをめざして……歩いていこう。


「紀京…だいすき」

「…俺もだよ、巫女」


 腕に抱いた巫女を引き寄せて唇を重ねる。

ずっとこれから先も巫女と一緒だ。


「「「「カーッ!!!至近距離!!」」」」

みんながゴロゴロしながら離れていく。



 

「んふふ……」

「お決まりのパターンだろ?エンディングには相応しいと思うんだが」


「フッ。いいぞ。今のうちにイチャついとけ。死ぬほど忙しくなる前にな!!」


 たしかに。その通りだ。



 巫女を抱きしめて、もう一度キスを落とした……。



 

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