第三十話 罪を負う者とその救い


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 獄炎side



『初めにこれは裁判にして裁判に非ず。

 罪人の行なった行為を広く伝え、現世の新しいクニツクリの基礎を見てもらう目的である。

 罪状を立証し、収監を確定するための作業と心得よ。よって裁きの雷は落ちないッピ……落ちないです。すみません。

 結構キツめの内容なので、苦手な人はミュートにしてください。』


 紀京と清白が揃って頭を抱える。

 アマテラスは大丈夫か?

 うっかりギャル語を挟んだアマテラスを、紀京にそっくりなツクヨミが睨んでいる。


『一応告訴手続きはしているので、内容を読み上げておく。


 一、紀京は転生中に被告に殺害され、既に黄泉の国へ渡った。

 皇が複数回刀で刺し、肺に達した刺創は外傷性気胸を起こし、下腹部からさらに下に向かって刃が穿通性外傷として肝臓に達したため、出血多量になった。複数臓器が不全となり血管が破裂。明らかな殺意があったことが分かる。

 その後、転生中の特異タイムアウト前に巫女が特殊な反魂を行ったため、こうして現世に戻った』




 あれは、本当に酷いもんだった。人を殺すにはこうしろという見本市見てぇな……肺が潰れ、腹腔を突き破って肝臓にまで達した刃。

オーバーキルもいいところだ。


 巫女の薬が回り切る前に、証拠として必要だからきちんと腹の中を見たんだ。

戻るって信じていたからな。

 薬の効果が遅かったのは、アマテラスの見解では転生中だったから人と神様の狭間の命が傷つき黄泉の国に行くはめになったと言うことらしい。

 本当は、戻らない可能性も多分にあった。

巫女と紀京はなんでもない顔をしているが、本当に危なかったんだ。



 紀京の傷は、普通ならすぐに意識がなくなってもおかしくはなかった。

 それでも巫女に触れて…口を開いて喋って…清白が教えたバースデーソングを聞いてから黄泉の国に旅立った。


 紀京の忍耐強さがどんだけ凄いものなのか、俺と殺氷は背筋が寒くなったもんだ。

 あの傷の激痛がどれだけのものかは、仕事柄で知ってる俺たち以外は正確に把握出来ねぇな。

警察官だって知ってる奴なんか少ない。経験したら死んじまうからな。




『また、その妻である巫女にも出会い頭に切りつけ、傷害事件を起こして居るため先程の裁判で自らが訴えた


 < 被告人の行った行為は平穏なゲームの世界での治安秩序を乱すものであり、被告人は再犯の蓋然性も高く極めて危険な人物である>


これをそのまま適応できる事実だと言うことが分かる。


 二、美海の暴行事件についての詐称

何の罪もない美海に対して、被告は偽証し、美海を貶め、精神的苦痛を負わせた。

 人心を惑わし扇動し、裁判の判決が出ていないにも関わらず私刑で美海を亡き者にしようとしていた。


 以上二つの点についてはこれから証拠動画を流す。

 紀京の殺人、巫女を切り付ける記録、犯罪組織とのつながり、民衆を惑わせている様子などの記録だ。


 最後に……。

三、清白に対しての詐欺行為。

 美人局を生業とし、複数人をたぶらかした上で金銭を奪い取り、その人生を奪れた者は多い。その罪を本人に認めてもらいたい。

 また、ギルド内での共同資金の窃盗についても説明責任があり、本来ならば皇が返済すべき金銭を清白が代わって返済している。その件に関しても確認したいとのことだ。

 


 前述の件に関しては処罰は未定である。

以上、原告側からの証拠を放映するぞ。

 放映しながら、説明も同時に行う。


 読む紙ってコレ?あっ、そっちじゃなくてこっちから?あれ?あっ、マイク切り忘れた』




 紀京と代わり、裁判長の席に座ったアマテラスは光量を上げて白い光に包まれ、その顔姿が分からないほどに光を放っている。


 真横で瞳の中に光を走らせ続け、体に回路図を浮かべた巫女が座っていた。

衛生と繋げて清白が騙されたリアルの証拠を流す為だ。


 こんな裁判、見たことねぇな。

 いや、裁判ではないか。

ちょいちょいアマテラスがボロを出すのが気になって仕方ない。

 元々偉いですまされる程度の神様じゃない事位、このゲームをしていれば分かる。

偉い喋り方忘れたのか?

 ツクヨミにべしべし叩かれながら書類を整えて読み始めた。




 それぞれの手元モニターに、巫女が切りつけられた時の画像、紀京が刺される時の動画が流れる。


 巫女の顔をハラハラしながら紀京が見つめているが、目線に気づいた巫女が僅かに微笑みを返す。

 ほっとした様子で紀京が椅子に背中を納め、直ぐに鋭い目付きに戻る。




 紀京の少し伸びた前髪が双眸の上にかかり、その間から見える眼差しは冷え冷えとしている。


 こんなもの早く終わって欲しい。紀京は、こんな表情でいる奴じゃない。

 男としてはカッコイイじゃねぇかと思うが、本人はこの顔をすること自体が珍しいやつなんだ。こんな顔させやがって。

厳しい顔を見た美海が紀京の肩を叩く。


「紀京氏、あの身代わりスキルを使うなら盾スキルを同時展開した方がいいッスね」


「ん…?あぁ、なるほどな。そうすりゃ刺されなかったのか。すまん。先に話すべきだった」


「擽ってでも吐かせるべきだったとは思ったな。黙ってやがって。バカタレ」

「清白氏が一番泣いてたッスもんね」


「ふん。そりゃそうだ。俺は紀京だいしゅき過激派だからな」

「なんスかそれ!オイラも入りたいッス」


「いやいやいやら何言ってんだよ。変な組織作るなって。美海さん、盾スキル後で教えてくれるか?」


「勿論ッス。マスターするまで身代わりは封印ッスからね」

「う、うーん」


「美海さんの言う通りだ。紀京、禁止。分かったな」

「わ、分かったよ」





 随分素直になった清白。前々から紀京に懐いていたが、最近はそれを隠さなくなった。

 闇の三貴士ギルドの面々は紀京の事件を終えたあと、見えないもので繋がっている。

 美海が声をかけて紀京の怖い顔をなくしてやったんだな。いい仕事してんじゃねえか。


 ……羨ましい。

 俺もそこに入れて欲しい。


 紀京が書類を眺めながら、俺の目線に気づく。

さらに緩む瞳の色。

皆、この目が好きなんだ。紀京の優しい灰色があたたかさをたたえている。


「獄炎さん、ご家族の画像貰えたか?」


「いや、オレ自身…まだ整理がついてねぇ。見たってもう会えねぇだろ?それなのに女々しいような気がしてな」


「うーん、女々しくはないだろ?俺だって離れていた時は巫女の事しか考えてなかった。

イザナミが持ってた巫女の写真欲しかったし。

 殺氷さんもそうだけど、離れた人を思うのは悪いことじゃないだろ。それだけ大切だったんだ。

 今すぐじゃなくても良いじゃないか。後で話聞かせてくれよ」


 ぽんぽん、と肩を叩かれて、泣きそうな心持ちになる。

 紀京はこの前二十歳を迎えたばかりのガキンチョのはずだ。

この落ち着きようは、なんなんだ?

殺氷は泣き出してるし。

 あいつもまだ離婚した元嫁の事考えてんだろな。あとは、部下達のことも。

 入れ替わり立ち替わり差し入れしてくれたあいつらの事は、絶対に忘れない。

お互いリアルに未練を残してる。ゲームの中では嫁を持ちながら何もかもにまだ整理がつかねぇ。



 

 俺は炎華に子供が欲しいなんて言われて、返事出来ずにいる。

…それでも、紀京と話せば解決しちまいそうで、少し怖い。

 まだ前を向くのが怖いんだ。


 先程から驚かされてばかりだ。経験の差とでも言うべきか。

 俺も殺氷もそれなりに修羅場をくぐり抜けてきたはずなのに。

命のやり取り、死については俺たちより紀京の方が何枚も上だな。




『紀京、質問があるそうだな』


 アマテラスが紀京と美海の件で証拠を陳述し終わり、残るは清白との対決のみになったタイミングで目線を送ってくる。

 紀京が、静かに立ち上がる。


「はい。

 マスター…何故巫女を殺そうとした?

俺がマスターの立場ならって考えた。

日本がなくなって、転生で新キャラに固定されて。

 元のギルドも崩壊したし、引き金になったのはマスター自身だが、仲が良かった奴らが新しいギルドでワイワイやってて憎らしくなった。

 しかも、マスターの横領した借金を協力して返済して俺たちの仲良し度が上がってる。もう仲よくはなれない。

 マスターのヤンデレ具合からして清白と心中でもするかな。でも、そうしなかった。わからないんだよ。何が目的だ?」



 

 紀京の目は何の色も映していない。

こういう目をする時、紀京は相手の気持ちを探っている。

 自分の心をフラットにして相手の僅かなブレを感じ取るんだ。

瞳孔の収縮、体の動き、目線の動かし方、表情筋……目が忙しなく動いて情報を集めてる。


 俺が警察で習った最初の捜査基本だ。

 紀京はよく、自分の店に相談に来るやつに対してこれをやっていた。

 教えてもいねぇのに、こいつは自分でこれを会得したんだ。


 


 俺は紀京を観察する。

巫女を害そうとした人間に怒りをぶつけようとしているのか……それとも。

 何故、今更皇をマスターと呼ぶのか。

 何故マスターの犯罪心理を推理した?

 少し引っかかる。



 

「清白は社の中にいた。目の前にいたのが巫女だったからだお。まさか紀京がスキルを使って庇うとは思わなかった。

ウチはみんな居なくなればいいって思っただけ」


「そうかな?俺が刺されてる最中に清白が出てきたろ?ほんの少し待てば外に出て来るのは会話から理解していたはずだ。

 清白は足が早い。一番分かってるのはマスターのはずだ」


「なんでマスター呼びするの?ウチはもうマスターじゃない。

 ただただ巫女が憎かった。

 突然現れて、チートスキルでみんなの注目の的。ウチのスキルなんか必要ない。

 規格外の強さが羨ましくて、妬ましかった。

しかも可愛いし、ピュアだし、ウチが持っていないものを全部持ってた。

 時間が惜しいって言ってたお。さっさと収監でも処刑でもすればいい」


「俺にとっては、最初のマスターだ。俺がこの世界の全てを知らない頃に、手を差し伸べて…色んな事を教えてくれた。それは変わらないだろ?」


 紀京の声が変わった。なにかに気づいたのか?優しく、いたわる様な声だ。


 


「何言ってんの?紀京の大切な大切な巫女を傷つけて、殺そうとした犯人ですが?

 ウチは紀京も憎かった。アンタは文句も言わず休みを与えず連れ回すウチに、一度も弱音を言わなかった。

 偽善者じゃん。人助けでもしてるつもりだったの?エラソーに。」


「人助け…そうだな。それが俺の救いだった。

 確かに偽善者ではあるだろう。

 俺は、俺のために人を癒してた。

 俺が生きた証を残したいと思ったのも、それをしたいと思ったのも、ヒーラーとしての役割を教えてくれたのも…全部マスターだよ」


 囁くように伝える紀京の言葉に、皇が呻く。


 


「ウチは…犯罪者…だから…もっと痛めつけてよ。早く牢屋に入れて、閉じ込めて」


「チッ。聞くに耐えねぇな。お前相変わらずヤンデレだな?大騒ぎを起こしておいてそれか?

 優しくされて、オタオタしてんじゃねぇ」


 清白が座ったまま、足と手を組んで不機嫌そうな顔をしてる。

紀京がふ、と微笑んで巫女の元へ戻っていく。


 


 ふん、役割交代か?

 それにしても何が起きてんのかよく分からんな。

分かってんのは紀京と、もしかして清白もか?


「清白…なんなの。恨み言のひとつくらい言えば?騙されたダサい男の世迷言、最後に聞いてあげるよ」


「めんどくせぇ。悪いが俺はもうお前との過去は乗り越えてる。

 お前がわざわざ戻ってきて、タイミング悪く紀京を刺したが。巫女を刺して逆上した俺がお前を殺すことを狙ってたんだろ?

 最後に好きだったやつに刺されて死にたいってか?俺がそれでスッキリするとでも?

 盗聴器で聞いてたのは死に関しての情報だろ。ここで発表する前に社で話してたからな。

 俺もお前も隠密スキルを上げるのは得意だったし使い慣れてた。暗殺なんてお手のものだ。


 俺が大切なのは巫女も紀京も二人ともだからな。やるのはどっちでも良かったは良かったんだろうが。

 俺がお前を刺したところで罪滅ぼしになんかならねぇし、そんな下らない事はしない。

 殺されてその俺の記憶に残りたいって所もあるだろ。ホントにくだらねぇ。

巫女、一応リアルの美人局流してくれ。一気に行こう」

「了解。衛生の記録を流すよぉ」



 

 巫女が順天衛星の記録を流し始める。

皇のリアル、清白のリアルが晒されていく。

 なんか違和感が有るな。美人局ってのはやる側に金があるはずだが、皇自身の服は安物だし、本人がかなり痩せている。

 昔の画像ではふっくらしていた皇は、最後の方がガリガリになってる。



 

 最初は複数人と付き合いをしていた皇が、清白としか会わなくなって行った。


 病院に通い始めたあと、婚姻届を書いては破り捨てる記録が流される。

 清白との別れの後、振り向かない清白に向かって小さく手を振り、人の往来も気にせず泣崩れる。


 ホームレス見てぇに街を彷徨い、何度も自分の手首を切って、清白の写真を眺めては酒浸りになり…どんどん世捨て人になって行く。

……なんだよコレ……。


 青ざめていく皇。嘘だろ?お前そんな不器用だったか??


いや、そうだとして拗れすぎだろ。紀京や巫女、美海まで巻き込んで。

 いや、でも皇は巫女の強さを知っていて尚且つあの状況で、北原天満宮にも先陣切ってやって来たな。そんなに追い詰められてたのか…。


 


「見えてんだよ。隠密スキル以外上げてねぇの。俺も神様の仲間入りしたからな。紙装甲の装備で、さも殺してくださいと言わんばかりの様相だ」


「ちが、違う!ウチは、ウチは、たくさんの人を騙して、お金を、それだけを目的にしてた。

 たくさん贅沢して、美味しいものを食べて、ギルドの資金もRMTで現金に変えてやったからね!!」


「このガリガリの体でか。何食ってたんだ?こっちでも食生活は変わってないんだろ?神様の服を散々みて理解した。

 俺が貰ったこの着物だって、とんでもない代物なのは理解してる。地味な見た目だが仕立ては一流だし、絹生地のランクが高すぎる。

 お前がリアルで着ていた服、好きだと言って食べていた物。とてもじゃないが贅沢品じゃなかった。

 俺は紀京みたいに救いはしない。お前が勝手に反省して這い上がるのは空の上から見てやるが、じたばたしてるなら嘲笑って見捨てるぜ」


 皇が被告人席に座り、項垂れる。



「清白、もういいだろ。男としての責任は果たしたよ。

 自分を犠牲にして、皇を庇ってそんな言い方して、皇への憎しみを分けようとするのはやめてくれ」


 紀京が壇上から巫女の手を握りながら、眉を顰める。巫女も心配そうな顔してる。

 清白は口が悪いが、そのままの言葉じゃねぇ。

 皇へのヘイトを拡散して自分でも背負うつもりなんだ。

 皇の哀れな姿を流したのもそのためだ。


 


「…マスターがしてるネックレス…お前が上げたやつだろ。初級の草原で、激弱モブのドロップ品で、ふざけながらマスターに渡した物だ。

 清白が覚えていないはずがない。

 衛星の動画だって、マスターの気持ちを知って、清白は心が動いたんだ。

 責任感が強い清白は、マスターを見捨てようとした自分を責めたかもしれないな。だからってそんなやり方はダメだろ」


 清白の眉にもシワが寄る。

清白も不器用だな。何やってんだよ。

 紀京が気づいたのはこれか。

 皇の首に下がっているネックレスは初心者が初めて出るフィールドで山ほどドロップするものだ。


お互い不器用で、拗れに拗れていやがる。

好きなら好きでいい物を、難しくしやがって。


 


「こ、これはたまたま簡易結界に入ってて…」

「転生時にキャラが変わってるから、郵便でわざわざ送らない限り今持ってないはずだ。

 なんのステータスアップもない、誰でも拾ってるネックレス…そんなの持ってる理由なんてひとつしかないだろ。

 俺は清白がこれ以上背負うのはいやだ。

好きなら、マスターがちゃんと話してくれよ」


 紀京が椅子に座って、巫女を抱きしめる。

 巫女が心配そうな顔して、紀京の頭にキスを落とし、頭を撫でる。

 いいよなぁ。相思相愛。あれがいちばん分かりやすくて安心する。




「今回の茶番劇を、俺は許すつもりは無い。沢山の人を騙して、美海さんの名誉も汚して、紀京は本当に死ぬところだったし、巫女だって苦しんだ。

 俺の大切な人達を苦しめたお前を今更好きだのなんだの、そんな風に思うことなんかできない。

 責任を分散するつもりじゃないが、分けるつもりではいた。でも、紀京が苦しむならしない。

 皇、お前の愚行は何のためにしていたのかくらいは言え。聞いてやる」


「清白はどっちの味方なの。マジイミフ。

なんだお。神って。転生って。

命は消えたら取り戻せないはずなのにさ。

 お金、必要だったんだ。それこそ、自分の命のために。

 ウチ、若い頃からそりゃー遊んでた。

なんか知らんけど手出ししやすい顔してたからモテモテだし。お手頃女子って感じ?

 だから、寂しさを満たすために男漁りして。最後はエイズになった」


 な、何も言えねぇ…。馬鹿なことしてるのはそうだが、皇にもなんかあったんだろうな。寂しさを紛らわせたい何かが。




「エイズってなんだっけ?巫女知ってるか?」

「免疫の病気じゃなかったかな?」

「男あさりするとなんでなるんだ?てか男あさりって何?あさりって貝だよな?」

「ボク、アサリのお味噌汁好きだよぉ。男のアサリが毒でもあるのかな?」

「……分かんない……」

「もぉっ!ピュアなふたりはあとでとと様が教えてあげるからっ!しーっ!」


 あの二人はほっとこう。ピュアすぎる。マジで知らねぇんだな。





「おっほん。えーと、はぁ、調子が狂うな。それの治療費か?」

「大半はそう。残りはその、やばい男に手を出してそっちからも」

「はぁーーーーーーー。」


 どデカいため息をつく清白。

 皇がますます俯く。




「知人が病気とかだったら良かったんだけどなぁ。救いようがねぇ。バカじゃあすまねえだろソレ。マジかよ……」


「…ハイ。リアルで死んだのは病気か、災害かは分かりません。ウチも最期の方は入院してる無菌室でゲームしてたし」



「紀京、もういいよ。収監してくれ」

「清白……」

「くだらない理由で人を巻き込んで、マジで救いようがない。俺達はこのバカにかかずらってる暇なんかないんだよ」


「…………清白」




 紀京は眉を下げて清白を見つめたまま、うんと言わない。

紀京は頑固だからな。納得しねぇとダメだろ。


「チッ、くそ。観衆の前で言いたくないんだよ。収監されたら、暇が出来たら会いに行ってやる。暇が出来たらだからな」

「す、清白……」


「期待するな。バカ。もし暇が出来たらだ。当分忙しいからな。俺はまだ許してない。会いに行っても文句しか言わねぇからな」

「…うん」


 ふん……まだ、か。

 美人局については追求しないって決めたんだな。それが情なのか、恋心なのかは分からんが。

 清白も優しいんだ。あんなこと聞いたらこれ以上追い詰めるのは無理だろう。


 またもやはぁ、とため息をついて、清白が紀京の元へ走っていく。

 耳を引っ張って、コソコソ耳打ちしてる。




「あ、なるほど。そういう意味か。ツンデレだな清白」

「声がでかい!!いいからはよやれ!」


 紀京が立ち上がり、苦笑いのアマテラスと交代する。


『んん……ええと、皇については神殺し、傷害事件、偽証罪、民衆を騙した詐欺行為があるので名無しと同じく収監する。

判決は最初から有罪だ。

 皇、やってしまった事はどんな理由があってもさすがにいいよとは言えない。ここの世界の決まりだからな。イザナミ、頼む』


 肩を竦めたイザナミが名無しの時と同じように皇を連れていく。


「ぶべらっ」

「バーカ。マジで反省しろ。近いうちに行く」

「うん…」


 すれ違いざまに清白が巫女の薬をぶっかける。

 もうちっと優しくしてやれよ。

傷だらけの皇が癒されていく。

 あれは清白が救いの手を差し伸べたようなもんだな…。



 なんとも言えない顔で兵隊たちが皇と共にイザナミの影に消えていく。

清白は、仲が良い奴にしかバカと言わん。

 これは時が解決するしかねぇか。厄介な相手に惚れちまったもんだ。どう転ぶかな。


「つまらない結末だねぇ」

「うっせ。あとで通行証よこせよな」

「ほう、それは面白そうだ。分かった」

 舌打ちして苦い顔で戻ってくる清白。




「清白氏…まだ好きなんッスね?」

「違う。申し訳ないがそういう展開はない。流石にな。……情はまだある。話くらいは聞いてやるよ。好意があるなら俺はそれを利用して紀京のために動く。

 あいつ、皇を救うことしか考えてないんだ」


「そうしろ。紀京がそれを望んでるしな」

「分かってるよ。あのお人好し」




 紀京も巫女もいい笑顔で微笑んでるな。

 この先、清白は苦しむだろう。仲間を傷つけ、自業自得で自分さえ苦しめた皇への情や、もしかしたら愛情で。

 自分のことさえ処理できねぇ俺は行く末を見守るしかねぇな。




『さぁ、大変なのはここまでだ。ここから先は、未来の話をしよう。

 難しい話ばかりで疲れただろうから、もう一度休憩だ。次回でこの世界のこれからを説明をする。お疲れ様』


 壇上の紀京を眺め、ため息を着く。

小さな画面にはCMが流れている。


「神様募集中!詳しくはwebで!」

 webってどこだよ。おもしれぇな。

 俺も、まずはこの神様ってやつをちゃんとやることから始めよう。


 こんなすげえヤツらにかこまれりゃ、嫌でも精進出来るってもんだ。

楽しみじゃねぇか。自分の未熟さに落ち込むよりゃマシだ。

 自分の心を奮い立たせ、またもや紀京に突進して行く仲間に倣い俺も走り出した。

 

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