第十三話 スパダリとは?



━━━━━━


「ステータス!わぁ!妻!!ついてるねぇ!んふふ」

「俺もついてるよ。巫女の夫 紀京って」

「どこどこ?」

「ほら。夫婦ならステータスいつでも見られるんだ。称号もある」


 ステータスの名前欄に夫婦の表記がついた。コレ、いいな。


「ほぁ、そうなの?これ皆には見えないの?」

「そうだな。前もやったろ?開示しないと見えないな。称号つければ見えるけど、称号が確定するのは数日かかるんだ」


結婚だけしてすぐ離婚する人がいたから仕様変更されたんだよな。結婚を利用するの良くないよ!




「ボクの、見せたい。スズも海も見たいよね?ねっ?」

 風呂上がりの巫女がニコニコしながらげんなりしてる二人に問いかける。

  

 俺のステータスは公開できない!

 体力、神力共に倍以上に増えてる。レベルも上がっているからもう、ボス並になった。こういうの良くないよなぁー。システムどうにかならんのか。




「見たくねぇ」

「オイラは見たいッスけど、他のも見えちゃうッスよ」

「美海さんには見せといた方がいいんじゃないか?あと、紀京の件も。そろそろ伝えた方が…」

「そうだな、その方がいいか」


 慣れない板の間で座布団引いて、座り直す。

「畳が恋しいね」

「ほんとにな」

「それについては、誠に申し訳ない」

「仕方ないッスよねぇ」




 現在ギルドの社に荷物を転送完了して、お風呂だけ自宅で済ませてきたところ。


 獄炎さんと殺氷さんと別れたあと、美海さんを無理やり引っ張って帰宅したら店の前が黒山の人だかりで。


「あっ来たぞー!」

「俺覚えてますよね?!」

「私と一緒にダンジョン潜ったことあるでしょ!!」

「北原天満宮クリアしたんだろ!?パーティー組んでくれ!」

「ドロップ何!?レア装備か!?クレクレ!!」



 

 とわちゃわちゃ揉まれて。

 最終的には建物の中に入ろうとした俺達に刃が向けられて、美海さんが盾スキルで弾くまでの事態になった。

 結界張ってても店の外でガンガンワーワー凄くてさ。

 巫女の力の恩恵にあやかろうとか、野次馬的な目的だろうけどタチが悪い。


 大騒ぎになって近隣にも迷惑かけるから、別れたばかりの獄炎さんと殺氷さんに自警団を連れて店に来てもらい、人を散らしてギルドの社まで移動してきた。




 荷物はさすがに転移を繰り返して運ぶしかなかったけど、社はキッチンもないからなぁ。泣いてた巫女に色んなもの食べさせてあげたかった。

 でも、ここなら誰も入れないし安全だ。建物も周りにないから、うるさくしても大丈夫だしな。


「もう見張りいいんじゃないか?あの二人にも話すよ。ここまで来たらさ」

「紀京がいいならそうするか」

 清白と美海さんが頷き、外で見張ってくれてる二人を呼ぶ。




「おう!邪魔するぜ。俺んちのギルドにも人が来ててな。外にいるうちに対策も指示してきたぜ」

「お邪魔します。うちのギルドの社も結界補強の指示を飛ばしました」

「マジで申し訳ない」 


 しょぼくれる清白。獄炎さんがポンポン、と頭に手を乗せる。




「誰もお前のせいと思ってねぇ。ネット配信までは同じ時間の流れだったが、今更押し寄せたってのはやっぱ時間がねじくれてんな?」

「ログアウトが出来ないので画面切り替えもできませんし。リアルの様子は不明ですが、平日の夜にしてはログインしてる人が多いですね?」


 たしかに。フレンドリストが全員緑だ。珍しいこともあるもんだ。




「今日、全部わかるよ。さて、じゃあ一旦海とエン、ヒョウに全部話そうかぁ」

「巫女、俺が説明する。途中でバトンタッチな」 


 清白の説明わかりやすいもんな、うん。


 清白が美海さん、獄炎さん、殺氷さんにリアルの俺の病状、おそらく先が長くないことを伝える。

 三人とも薄暗い顔になってしまう。

 ごめんな…嫌な話聞かせて。


 次に巫女のスキルを全員に開示して、説明してくれる。

 カンストのレベル表記を見て美海さんが目をむいてる。みんなあの顔してたなぁ。たった二日前いや、もう日がすぎたから三日前か。桃の件は……内緒だっ。



 説明を聴きながら、繋いだままの手を見つめる。爪小さいな。手が小さいとそうなるのか?

 ピンク色が桃の花弁みたいだ。花びらが指先に宿ってる。


「なぁに?」


 視線に気づいた巫女が腕に寄り添ってきた。ホワホワの気持ちが体を包み込む。幸せだなぁ……。




「爪の色が桃の花びらみたいだなって」

「紀京そういうの好きだねぇ?

 ボクの手も爪も小さいよねぇ。このサイズだと刀持ちにくいんだぁ。だから背を伸ばしてたんだけど…紀京にとんとんしてもらうには小さい方がいいなぁ」


「そうだな、すっぽり収まるからくっつけるしな?」

「んふふ。ねーえ?紀京の髪の毛綺麗だねぇ」

「んー。俺見た目はリアルと一緒なんだ。ほとんど白髪だけど斑だったから、一色になってて良かったよ。目も殆ど見えなかったけどここでは見えるしなぁ」


「そうなの??そっか。僕はちょっと違うかも。髪の毛真っ直ぐだから。見たらびっくりするかもねぇ」

「そうなのか。見てみたかったな」

「見たい?」

「そりゃ見たいさ」

 ふぅん、と呟いて頬を赤らめる巫女。あぁーかわいい!


 思わず抱きしめて、頬ずりしてしまう。

「えへへぇ……」

「かわいい…うぅ……」




「おいそこ!真面目な話してんだからやめろっ!バカタレ!慎めっ!」

「このくだりをこれから先何度見ることになるッスかねぇ。幸せそうな顔してまぁ」

「はぁ。暗くなるよりゃいいか」

「眼福ですねぇ」


 ニコニコしてる三人をよそに、にがーい顔になる清白。

 す、すまんて。




「とりあえずだいたいの事情は掴めたッス。問題はここから先ッスよね?

 巫女のリアル的な役割から推測して、日本ヤバくないっすか?

 ログアウト出来なくなっている事、巫女が仕事に関しては心配しなくていいと言った事。そして、まだその先が伝えられないと言ったこと。

 獄炎氏や殺氷氏の推測は、日本の要である巫女の命が危ういことでオイラと同じ結論になったはずです。

 紀京氏にも命の危険がありつつも、それを重要視していない。……巫女、どこまでなら話せるッスか?」




 美海さんも頭脳明晰!理解が早いし、みんな頭の回転早いな。

 ぽやっとしてる俺からするとびっくりなんだが。


「推測の結果に関しては、事実の部分は話せるよ。ボクの跡を継ぐ者は生まれていないから、今まで溜まりに溜まったモノが暴走し始めてる。

 日本が最後にどうなるか、ボクにも分からない。平安時代から続く守りがなくなるから。

 跡継ぎが弱い力になっているのに、ずっと昔から溜まってきた力がどんどん増えていたから、抑えるの結構大変だったんだよねぇ。

 そもそも、ボクの跡継ぎが生まれるかどうかも分からなかった。


 いつか、本来なら遠い未来でこうなる運命ではあったんだけどそれがボクによって引き起こされるだけのことだよ。

 リアルを生きてきた皆には残酷だけど。

 そして、ここから先はそれが始まる前、ボクの体が人としての生を終えた瞬間にわかるよぉ。もうすぐだからね。

心の準備をさせてあげられないのが申し訳ないけれど、もう動き出してしまったから……」



 

「巫女…」

「紀京、そばにいてね。お庭に行こう。月明かりの下でボクを守って欲しい」

「うん……」


 なんとも言えない顔で、巫女に続いて庭に出る。真っ黒な夜空に星がない。満月の真ん丸な月が、真っ赤に染まっている。


「す、すごい色ッスね」

「月が出たばかりの時や、大気に塵や水蒸気がある場合、青い光が散乱されて赤く見える時もあるそうですが血濡れのような紅さですね」

 

「怖いんだが」

「おふっ。もう、優しくして。俺にくっつく人はなぜ突撃して来るんだ」


 清白が反対からくっついてくる。そういえばホラー苦手だったな。


「これは皆既月食が起こる時の色だよ。赤い月、って言うんだ。月が地球に隠れる時間、陰の力が強くなり、不幸な出来事が起こると言われていたりするけど。

 陰は必ず陽になる。ふたつは隣合わせで同じもの。

 真っ赤な月が、真っ黒になって、そして白く色を変えて……生まれ変わるんだよぉ」


 全員でハッとする。生まれ、変わる…。


 


 赤い月がものすごい速さでかけていく。

 不安な気持ちが込み上げてきて、清白に掴まれながら巫女を引き寄せる。

 無意識に巫女の指に嵌った指輪を撫でる。……うぅ、ドキドキする……。


「紀京……大丈夫」

「……ん……」


 巫女の両手を握って、真っ黒な月を見上げた。

 月明かりが無くなっても仄暗い程度で、お互いの顔が見える。


 巫女の翠をじっと見つめて…何故かこの翠とはもう、会えないような気がしてくる。何故だろう?

 月の光が戻ってくる。ふんわりと白い光が…天使の梯子のように巫女に降り注ぐ。

 巫女が俺を見つめたまま、ほんのり微笑む。



 

 巫女の髪の毛が頭のてっぺんから、毛先から白くなっていく。

 真っ白な髪に戻ったそれが、ピシッと真っ直ぐに引き伸ばされて…な、長い!めちゃくちゃ長く伸びてどこまで行くんだ!?わさわさ伸びた髪が庭中を埋めつくしていく。


「わーわー、凄いッスね」

「おっ、こっち集めといてやろう」

「では私はあちらを」

 引っ付いた清白以外のみんなで髪の毛を集めてくれる。ありがたや。




「紀京……」

「うん?」

「びっくりしないでね?」

「ごめん、もうびっくりしてる」

「んふふ」


 微笑んだ巫女の瞳が、翠から灰色に染っていく。まつ毛も眉毛も白くなって肌もより白く……。

 巫女はアルビノなのか?

 アルビノって赤とかグレーとか色々あるんだけどさ。目の色。

まさかおそろいだなんて。


 まっくろくろすけじゃなくて、まっしろしろすけだな?

 あっ!指輪の石はこの色か。

 俺とおそろい。うわぁ、うわぁぁ……。


 ぱちぱちと瞬いた巫女が、月をみあげる。

 真っ白な月がまん丸になって、明るく空を照らし始めた。天使の梯子がすうっと闇夜に解けていく。




「ねっ」

「いやさすがにわかった。巫女が超絶美少女なのも理解した。目の色がお揃いとか飛び上がって踊り出しそうなくらい嬉しい!!」


「そ、そぉ?怖くない?」

「何でだ?かわいいし、とっても綺麗だ。この世でいちばんの美人さんだ」

「ほにゃ。そ、そう」

「かわいいなぁ。キレイだなぁ。キスしてもいいか?」


 


「ッカーーー!!!」

 清白が倒れ込んでじたばたしだした。


「アーッ!クソっ!至近距離でやられた!!!クソっ!!あ゛ーーー砂吐きそう!!いや、砂糖か???」

「調味料としてはこの前のが美味しそうでしたけど!粗塩胡椒一味がいいッス。古傷にはカラシの方が効果ありそうッスね?」


「ヴァーーー!!!」




 清白がのたうち回るのを見て、巫女がコロコロと笑う。たしかに面白い。

 美海さんのツッコミも面白すぎる。


「なぁ、声もちょっと変わったな」

「すごぉ!よく分かったねぇ。元々こんな声だよぉ」

「声もかわいいなぁ。前も可愛かったけど、前より少し高くなったな。髪の毛は言ってた通りストレートなんだな。

 柔らかいのは変わらないな。顔のつくりは一緒だし、骨格は顎が前よりちょっと細いな。ホクロも同じだけど、まつ毛が伸びて、前よりもう少しだけ肌が白い。唇が赤いのはそのせいなのかな?  

 皮膚が薄く感じる。部屋の中で暮らしてたからかな?ん?ほっぺ赤くなってきたぞ?どした?」

「…………」


「ごふぅ…」


「紀京、やめてやれ。清白が瀕死だし、巫女が受け止めきれてねぇぞ」

「えっ??なんかごめん??」

 

 清白…大丈夫か?ぐったりしてるけど。巫女が真っ赤に染まってしまった。



 


「紀京氏、スパダリだったんスね」

「巫女の顔見すぎだろお前」

「見習わないとなりませんねぇ。私の奥殿は毎日どこか違うと思わない?!と言いますが、難しいものです」


「好きなんだから分かって当然なのでは?」

「「「……」」」


 あ、あれ。皆沈黙してしまった。







 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る