第十二話 寂しさを消し去る魔法

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 清白side



「てなわけで、要するにダンジョンと言うよりは試練って事だ。嫁をもらおうって奴が単独で潜るのはそういう意味がある」

 エンの説明を受けて、死神の館出口で待っている巫女が青ざめる。




「嘘でしょ!?ボクの記録を見るの?い、いつから?!」


「ゲームを始めてから今までの記録全てだ。システムが全部記録していやがるからなぁ。俺は嫁のヨダレ垂らした寝顔みて、爆笑してきた記憶しかねぇ」


「ふっ。獄炎らしいですね。

 相手がどんな人かを理解した上で結婚しろと教えをくれる、ありがたい場所な訳ですよ。

 悪い所もいい所も愛せるなら、最後に死神から指輪を受け取って出て来ます」


「僕の過去を見て、愛せなければ、指輪は貰えないってこと?」

「ん、そうなる。なんだよ、不安か?」


「だってボク、ボク…どうしよう…紀京がガッカリしたら…」


 エンが不思議そうに尋ねると、巫女が蹲って頭を抱え出した。

 バカだな。そんな事あるか。


 


「巫女、ありえないだろ。紀京だぞ?

 あいつは優しいように見えて線引きがきっちりしてる。誰にでも優しいが、一線の中に入れる人数は少ない。

 線引きの中で最深部に居るのは巫女だ。

一度決めたことは絶対曲げないし、見捨てない。スッゲー頑固なんだぞ。

 あいつ、ぽやぽやしてる癖に回復師を最初から貫き通してるんだ。そこは本気で尊敬してる。そんな奴がガッカリするわけがない」




 巫女は焚き火の前で膝を抱えて額を膝に押し付け、小さい体がさらに小さくなった。

 やわらかそうな髪の毛が全身を包んで、夜の闇に溶ける。


「回復師って、大変なんだよねぇ?精神的な負担が凄いって聞いた」


 ポソポソ呟いてる。

 よっぽど不安なんだな。まだ出会ってから二人の時間では二日だしなぁ。

 二日の割には大分仲がいいから、俺も獄炎も殺氷も手出ししたのかと疑ったがそうでも無いし。

紀京がこんな風になるのははじめて見たが、ニコニコしてても絶対にこの先はダメ、って言う一線を越えるまでここにいる奴らがどれだけ苦労したか。

 何から何まで教えてやりたい。

たった2日でそれを飛び越えて、紀京の中に飛び込んだ巫女は…本当に運命の人なのかもな。




「めずらしく知ってるな?回復師ってのは神力を使うだけじゃなく、心を使う。

 紀京の回復術が優しいって言ってただろ?あれは正しくそのまま、あいつの心だ。

神力をバカみたいに使うし、精神的な負担がある。

 マイナス感情と常に戦う、自分の治癒はして貰えない、回復師の法術スキルのランクアップの度に人の心の汚さや、極悪非道な人間の所業を山ほど見せられるからな。

 それこそドMの職業って言われてる。

身体的じゃなく、精神力を試される。まるで坊さんにでもなるのかってくらいにな。

 戦って敵を倒してスッキリすることもない。

 回復師のマスターレベルはこのゲームでは10人も存在しないし。

 初期からやって長期間貫き通しているのは、紀京だけだ」



「そうッスね。俺も回復師のマスターレベルであんなふうに動ける人は初めてだったッス。

 みんなスキルランクアップの弊害で心を病むか、使用する度にすり減らされる精神の辛さで辞めるか、資金が尽きて辞めるか。

 最終的には人を恨んで憎しみを撒き散らしてしまう事が一番多いッス。

 紀京氏はどれにもならなかった。

紀京氏の身の回りにいるだけで、仲がいいだけで、ゲームの中のどんな人でも信用してもらえるッス。凄いんッスよマジで」




「紀京…優しいもんね。心の強さはボクには無いものだと思う。

 ボクの現状を聞いて、はじめて憎しみの色が見えた。ちょっとびっくりしたんだ。出会ってからずっと、紀京は綺麗な心だったのに」


 巫女の今を聞いた時は正直俺もハラハラした。あんな顔色見たこと無かったし…何をするか、言うか分からずに柄にもなく恐怖を感じたんだ。

 穏やかな奴がキレると怖いんだよな。




「私はあの時、彼の強さを目の当たりにしましたよ。私なら、巫女に強く当たっていたかもしれません。

 本当はリアルがどうでもいいなんて思っていないだろ、どうしてそんな強がるんだ、大丈夫なんて嘘を何故言うんだ、とね」


「殺氷はこう見えて激情家だからな。お子様とも言うが」


 ニヤリ、と笑うエンがコーヒーをすする。

 殺氷が拗ねたような顔になった。




「どうせ子供ですよ。彼の心の動きが見えたのは初めてでしたが、見事でした。」

「そうッスね。巫女が傷つけられたことに対しての怒り、傷つけた相手への激しい憎悪、何も出来なかった自分への怒り、絶望、悲しみが見えたッス。

 普段の紀京氏はあんなふうに感情を見せない。

 特にマイナス方向は絶対に。

 ヒーラーが不安がってたら、組んだ人たちも崩れるッスから。

 オイラたち盾職も、火力の人達も、ヒーラーの『普段通り』にどれだけ支えてもらっていることか。あの人がいるからこそ戦えるッス。」


「紀京は別格だろ。俺だって何度スカウトしたかわかんねーよ。毎回断られていたが。あいつ本当に頑固なんだよな。

 普通ヒーラーはギルドの中でも、そりゃ大事にされる。それを皇はこき使ってやがったからな。つぶれちまうと思ってた」

「たしかに、そうだったな。それも止められなかったんだ」




 俺はサブマスターとして、散々ダンジョンを連れ回されている紀京を見ていた。

 普通なら精神の回復を待たなければならないのに、ログイン時間が長い紀京をずっと連れ回して。


 あいつが病人で先の長くない奴だと知りながら、皇の『病気で老い先短いなら楽しませてあげたい』という言葉を信じて。

 紀京を浪費していたのと同じだ。

 つくづくサイテーだな、俺。




「その辺は何となく知っていますよ。皇が彼の為に、と言っていたのを。理由はまだ、本人に教えて貰えていませんがね。思えばその時には既に、皇にはあまり良くない傾向がありましたね」

「言い訳のしようも無いな」


「清白氏は恋に盲目なタイプッスから仕方ないッス。

 でも、紀京氏はマジで強いッス。

 あんなにどす黒いもの抱えながら、巫女の顔見た時。見ました?あの目」

「綺麗な目をしていましたね。あまりにもまっすぐな紀京な気持ちに、胸が締め付けられるようでした。」




「…………」

 巫女が口を閉じて、焚き火をじっと見つめて居る。

 ゆらゆらと揺れているのは巫女の瞳か、それとも炎か。


「巫女のことが本当に好きなんッスよ。あんなふうに自分を押えて、巫女のこと心配して。

 オイラ、涙が出てくるっス。

 なんなんッスかね。どうしたらあんな風に出来るんスか?

あの短時間であんな激しい感情を整理出来るものなんスか?

 目の前の巫女が好きだから、巫女の傷ついた心を見て、心は痛くないのかって、何をしてやれる?自分が治したいって。オイラ、胸がいっぱいになって、言葉にならなかったッス」


「俺は今でも泣きそうだよ」


紀京の深い部分に触れたことなんかなかったと思い知ったんだ。

 巫女だけが触れる場所。

 紀京のあたたかい最深部。

 巫女が羨ましかった。




「……うっ…ぐすっ……紀京……紀京ぁ……」

「わわわ!!おいっ!美海!泣かしたな!」


「獄炎氏!オイラだけじゃないッス!」

「も、もうすぐ帰ってくるぞ!な?」


「帰ってこなかったら、どうしよう。ボク指輪貰える?紀京じゃなくてボク自身が信じられない。怖いよぉ…」




 ポロポロと涙をこぼす巫女にみんなで慌ててる。困ったな、巫女がこんなふうになるとは。


「巫女…ダンジョン周回二回目の時、紀京氏泣いてたッス」

「へ?紀京が泣いたの?どうして?」

「巫女が瘴気を吸って咳き込んで、回復が巫女に集中したッスよね?それで、巫女が笑ったでしょ?」


「うん…紀京が痛いの治してくれたから」

「それ見て泣いたんス。紀京氏が戦闘中泣いてるの、いや、紀京氏がそもそも泣くのなんて始めてみたッス。理由はわかんないッスけど。巫女のこと思って泣いたんスよ。

 指輪を持って、必ず帰ってくるっスから。ね、清白氏」


 ああ、そういうことか。それなら俺がわかるから引き継ごう。




「紀京は巫女とくっつく気がなかったって言ってただろ。それだよ。

 あいつ、そうできないって思う理由があるだろ?巫女のこと残して何かあった時の事を考えてたんだ。

 一人残した巫女が悲しむんじゃないかって思ってたんだろ。普通に結婚するって、すぐに方針変えてたのはよく分からん」


「あれはウケたな。だが、あの場で断るのは男じゃねえだろ。好きな女にあんな風に言われて、断れるわけがねぇ。最高のプロポーズだったぜ、巫女。自信持てよ」


「……うん……」

 涙を拭いた巫女がダンジョンの出口を見つめてる。

 もう、大丈夫そうだ。




 時間的には最低あと十分は出てこないはずだ。

 そういう仕組みだからな。

 いいよなぁ、こう言うの。リアルで恋人だったマスターとはここまでの感情じゃなかった。

 比べるものじゃないと分かっていたって、心底羨ましい。




 ガシャーン!と何かが割れる音。

 これ、ダンジョン結界が壊れた音じゃないか?

 まさか……。


 額に汗をうかべた紀京が、出口から飛び出してくる。

 バカヤロー。結界壊して血だらけじゃねーか。お前ほんとにキャラ変わったな。


「巫女!!」

「紀京っ!血が!怪我し……っ」


「おわー、熱烈ッスね!!」

「紀京キャラ変わりすぎじゃね?」

「恋は人を変えるんだぜ」

「そのようですね」




 巫女を強引に引き寄せて、血だらけでキスしてる。全く珍しいこともあるもんだ。



本当に、おめでとう。

心から二人の幸せを祈ってる。


俺の小さなつぶやきが、闇夜の星に溶けて行った。




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 紀京side


「巫女、ごめん」

「ううん。いいの」


 死神の館から飛び出してしまった俺は若干冷静になって、いきなりチューしてしまったことを反省しています。なう。


 焚き火の周りで皆待っていたらしく、清白が呆れた目をしてるが他はみんなニヤニヤしてる。

 くっ。だって、あんなの見せられたらじっとしてられるか!!


 


 巫女がこのゲームを始めてからの記録を全部見てきた。

 最初から法術が強かった巫女。色んな人に騙されたり、酷い目に合わされたりして泣いたり、いい人に出会ったと思ったらあまりの強さに距離置かれて寂しい思いしたり。宿屋の強襲は本当に酷かった。

しつこくしつこく付きまとわれて、結局最近は野宿してたし。クソっ!


 どんどん強くなっていくうちに、コソッと傷を治したり、コソッと倒してあげたり。

色んな人を助けているのに誰も気づいてくれないし、誰も巫女のそばに居てくれなかった。

 強くたって刀なんか握ったことない巫女が回復薬を作り出すまでは、神力のマックスを知らずに使い切ったあとボコボコにされて。

その後対策として刀を持って、マメができて、つぶれて、血だらけになって1人で戦う姿をみてきた。

 思わず回復術かけたけど、映像の中の巫女には届かなくて。


 寂しいな、って呟いた巫女を見て俺がどんな気持ちになったか分かるだろ?

 死神から指輪を剥ぎ取って、制限時間にキレて結界壊して出てきてしまった。

……はぁ。やっちまった。




「紀京、とんとんして欲しいな」

「…うん。座るか」

 焚き火の近くでため息をついてる、清白の横に座る。ポケットに突っ込んだ指輪がチャリ、と音を立てた。


「おっふ!巫女っ!ちょい待っ」

 あぐらをかいて座った瞬間に抱きついて膝の上に丸まってる。あれ?巫女泣いてるのか?


「ど、どした?そんなに嫌だったのか?ごめんな」

「ちが……ちがう」



 胸元に抱きついて泣き出してしまうもんだから…ど、どうしたらいいの?

 背中をとんとんしながら清白に目で聞く。

 ねぇ、巫女になんかした?



「なんもしてねぇ。そんな目で見るな。

 回復薬飲めよホラ。全く、死神の館で出口壊すとか聞いたことないぞ」

「ありがとう。あ、俺血だらけだったのか。びっくりしちゃったか?巫女、もう大丈夫だぞ?」


 清白がくれた回復薬を飲んで、ハンカチで血を拭き取る。

 巫女の返答なし。胸元がじわじわ涙を吸ってる。

 なあ、これ、なんかしたよな??




「してねぇ!てかいちいち目で喋るな!

 うるさい顔しやがって。ダンジョンの中で紀京が巫女の過去を見るんだって話して、不安になってたんだよ。指輪貰ってきたんだろ?」

「あぁ、そういう事か!うん。死神さんから奪ってきた」

「奪うなよ。死神に同情するわ」


 ……だって話が長いんだもん。




「ひっく……紀京、指輪して」

「お?おう」


 巫女がしゃくりあげながら手を差し出してくるので、とりあえず握る。

 左の薬指だよな?

 指輪を取りだして見ると、シルバーの輪っかがふたつ。

 これどっちがどっちなの??サイズデカイな。




「おう、先輩が教えてやらぁ。誓いの言葉を言いながら指にはめれば、指にぴったり縮むんだ」

「紀京、声に出さなくてもいいんですよ。獄炎は悪趣味なこと言うのやめなさい」

「チェッ」


「囁きでもいいんスよ。見届ける人はチュー見りゃいいんッスから」

「指輪交換の後だけどな」

「マジ?俺先走った?」


「「「「うん」」」」




 くっ!人前で二度もするなんて!!

「紀京、ひっく……早くちょうだい」

「ごめんごめん」

 巫女の手をまじまじと眺める。




 沢山あったマメがあんなふうにして出来たのを知って、前よりもっとこの手が愛おしい。

 このキズ、あの人を庇った時にできたやつか。

 こっちも、あっちも。

 全部巫女が人のために負った傷だ。

 巫女は尊い人なんだ。



《巫女、一つだけ聞きたい》

 囁きに切替える。黙り込んだ俺たちを見て、神妙な顔になる皆さん。

やりづらいが仕方ない。


《なぁに?》

《俺、病気で死んだら巫女を残すかもしれない。一人にするかもしれない。

だから、告白しないって、結婚しないって一度は決めたんだ。数時間後にひっくり返ったが。》


《んふふ。そうだったんだ。海が泣いたって言ってた。その時?》



《あっ、バレてたのか。そうだよ。俺が死んだら寂しい思いさせるだろ?リアルの巫女を救えもしなかった。だから巫女のことが好きだって分かった時に、伝えちゃいけないなって思ったんだ。でも、上手くいかなかった》

《……うん》


《巫女、俺が死んだら…どうする?》

《薄々気づいてると思うけど、もうすぐ紀京の体はその時がくる。

 でも、ここでは紀京が心配しなくても大丈夫。もう少しでわかるから未来と言うには近いけど、未来予知は言葉にしてしまうと神様からの修正がかかる。預言の本が分かりにくいのはそういう理由があるんだよねぇ。

 未来を変えないために、ボクはまだ口にできない。ボクを信じて紀京がしたいようにして欲しいな。

 ボクだってもうすぐそうなる。お互いおそろいだし、覚悟を決めてよ。

 例え、紀京がいなくなるって言われてもボクは紀京から指輪が欲しい。一緒にいたい》


 巫女の瞳からぽろ、と雫が零れて頬に伝う。ごめん、俺が泣かしてたんだな。

 雫を親指で拭うと、微笑みが浮かぶ。



 

《巫女とずっと一緒にいる。体が死んでも魂は巫女のそばにいる。俺と結婚してくれるか?》

《うん……》


 ふ、と微笑み合い、指輪をはめる。

 しゅるしゅると輪っかが縮み、巫女の指にピッタリサイズになる。

お、石が付いた。透明な石?染色前の巫女みたいだな。 

心も体も真っ白で、透き通ってる…すごくきれいだ。


 巫女に指輪を渡して俺の指にも嵌めてもらう。回された手が背中から離れて、お姫様抱っこになった。


《ボクも体が死んでも、紀京のそばにいる。ずっと一緒だよ。紀京》

《うん》


 指にハマった指輪が縮み、同じように透明の石が着いた。お揃いだ!黒でも良かったんだけど!元々は巫女は白いもんな。




あとはキスなんですが。

 正直な話、やり方がわからん。

 さっき出てきた時は勢いでやったし。どうやったっけ??


「キスしよ?紀京」

「やり方がわからんのです。さっきは何も考えてなかった」

「ボクも聞きそびれたぁ」


 うーん、口がくっつけばいいんだ。要は。

 巫女の顔をじっと観察してみる。

 そのままの姿勢だと鼻がぶつかる。勢いよくすると歯がぶつかりそうで怖い。

 巫女の顎をそうっと持ち上げて、首を傾げるようにして唇に触れる。わー、心臓が破裂しそう。巫女の唇、柔らかっ……。

 なんで目を閉じてるのかわからんが。本能か?

 そっと触れて離れると、巫女が真っ赤な顔して目をそらす。おお、照れてる。


 


「ホントに知らないのか?紀京」

「うますぎッス」

「明らかにプロの犯行だなそりゃ」

「えっ?あらぬ疑いをかけられてる?」

「まさか初恋とか言いませんよね?」

「そうですけど……ごふっ」


 ドスッと音を立てて巫女が抱きついてくる。おお?とんとん所望?

 背中を撫でながらとんとん、と叩く。


「ボクも初めてなんだぁ」




「「「「はぁー……」」」」

 重たいため息がそこかしこで聞こえるんだが。えっ?だ、ダメなの?

 俺はうれしいけど?


「常識を覆すのが好きッスね君たちは」

「全くだな。初恋は結ばれないんじゃねーのかよ」

「羨ましいですねぇ」


 なるほど?本でそういえば見たことあるな。初恋は実らない、結ばれない。俺達には関係ないなぁ。




「自分たちには関係ないって顔ッスね!とりあえずおめでとうございますッス!お祝いは式の時に渡します」

「はぁー。若人の恋路はたまんねえな!おめっとさん」

「私も久しぶりにドキドキしました。おめでとうございます」

「俺の古傷はカラシを塗られた。おめでとう」


「ありがとうございますって素直に言い難い」

「んふ……ありがとう」

 恥ずかしいなぁ。こういうの。

 巫女も顔がまだ赤いや。可愛いな。俺の嫁さん。




「なぁ、お前たち初恋なんだよな?」

「獄炎さん?そうみたいですけど。どしたんですか?」

「お前ら、キスの先って知ってんのか?」


「「キスの先って?」」

 お、初めて巫女とハモった。いいなー、夫婦っぽいや。


「どう思う?」

「いや、事情を知ってる俺から言わせてもらうとあれは多分マジだ」

「マジなんて事あるんっスか?!」

「さっきのキスを見たでしょう。知らずにやってあれなら、勝手に気づきますよ。放っておきましょう」




 なんかみんな忙しそうだな?キスの先ってなんだろう。元マスターが言っていたセクハラとは違うよな?怖いな。

 巫女の泣いた跡が腫れてる。ちょいちょいと回復術をかける。


「えへへ」

「痛くないか?帰ったら水分取ろうな」

「うん」


「俺は帰りたくない。地獄だ。美海さんも来ないか?」

「エッ!?新婚さんの寝床にお邪魔する訳には行かないッス」


「俺も邪魔はしたくない。美海さんとこ行こうかな」

「ギルド規約明日までに掲示しとかないと解散になっちゃうッスよ?」

「くっそぉぉー……」




 ごめんて。

 でも普通にしててもイチャイチャになっちゃうから!フフ。慎む予定は無い。

 さて、そろそろ帰るかー!

 巫女と立ち上がって、手を繋ぐ。


 胸のチクチクが無くなって、残ったのはほわほわした気持ちだけだ。


 これが幸せってことだな。

 巫女を見つめて、微笑みを交わした。


 

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