log39...証人喚問とチーム解散(記録者:YUKI)

 どういうわけか、アタシら……HARUTOハルトのチーム全員、運営AIの呼び出しがかかり、このVR宇宙空間に立っている。

 重力も空気もある。足下は一面、蒼い地球だけがあった。

 あと、アタシらのアバター。

 これまで、鍛練や強化人間化など、オルタナティブ・コンバットで加算された“補正”が消えて、限りなく現実世界のものに近い外見に戻っているね。

 もっとも、アタシもHARUTOハルトKANONカノンも、派手に着飾ったりしてなかったし、別段ゲーム内と大差ないようだけど。

 MALIAマリアは、さすがに目に見えて違う。強化が無効になったので寝たきり状態でなくなり、久々に自由な姿になっているね。

 で。

 見慣れないナリのヤツが二人ばかり。

 一人は、これまた黒髪を長く伸ばした女。なんてか、ちんちくりんな背格好と反比例して、いかにも気の強そうな顔をしてる。

 MALIAマリアHARUTOハルトとのやり取りを見るに、アイツが九頭龍くずりゅうMARK ⅡのINAイナって娘らしい。

 で、もう一人。

 ほっそりとした、猫背気味の、サラサラした黒髪を不精に伸ばした……身なりと陰気な態度に無頓着な事に目をつむれば結構カッコいいじゃん。

 オタク系イケメンってか、ヒキコモリでありながらのイケメンっての?

「なんでおれまで……」

 ってボソボソぼやく、この声――おいまさか。

 ゲームで蓄えに蓄えた贅肉がさっぱり消え去った……TERUテル本来の姿がコレだった。

 ま、初見は面食らったものの、VRゲームでの生活態度によって、現実の身体とアバターの外見が解離するのも、それなりにある話だわね。

 で、まあ。

《本日はご足労頂き、誠にありがとうございます》

 運営AI、そして、ブラフマー財団CEOスジャータを演じていたあの声が、アナウンスした。

 いや、ご足労もなにも、アンタが半ば一方的にここにワープさせたんだろ。

 なんだかなぁ。

 コイツ、やっぱりAIにしちゃ、天然入ってる気がする。

 

 で? アタシらに運営から尋問されるいわれなんて無いハズだがね。

 ブラフマー財団を攻撃したコトを言ってるんなら、アタシらの行動全て、ゲームのルールからは逸脱していない。

 他ならぬ、スジャータ自身のお墨付きもある。

 そのスジャータは、声だけで姿を見せない。

 アルダーナーリーに乗せてた身体アバターくらいはあったろうが、どういう意図から透明人間に徹しているのやら。

 ただ、アタシらの頭上で、数多の映像ログが流れていた。

 アタシらが提出させられた(まあワンタッチ操作だが)プレイログが、これまでオルタナティブ・コンバットでやってきたコトをリプレイしている。

 正確には……恐らくHARUTOハルトがこのゲームにやってきた時期からのログだね。

 それより以前、アタシやTERUテルの、昔の映像は一切無い。

 アタシらに関係ないINAイナも含まれているコトも鑑みると、スジャータ的にはHARUTOハルトがキーマンなんだろうね。

 しっかし、これだけの数のリプレイ映像がゴチャゴチャしていると、アタシら人間からすると何がなんだか、だが、VRMMO世界ひとつ支配するスパコンサマであれば、流し見て完全把握余裕なのだろう。

《テストパイロット・HARUTOハルトにお訊きしたい事があります》

「……構わない」

《先の“マヌ襲撃祭り”までが、貴方の狙いだったのでしょうか?》

「……答えは否だ」

 あれま。

 もしそうなら、ますます笑かしてくれる男だと思っていたが。

 いや、アレを狙ってたわけでもないのにマヌに二機、三機で特攻カマしてたってコトだから、それはそれでむしろ笑い話ではあるか。

「……自分としても、まさかあそこまで、事が大きくなるとは予想外だった」

 まあ、KANONカノン嬢の名演説があそこまでの効力を発揮した上、プレイヤー総出でアタシのアウトレット・モールを模倣し出すってのは、流石に予想しろってのがムチャではある。

「……だが」

 彼は、こうも言った。

「……これが“人間”だ」

《と、仰有いますと?》

「……此方こちらとしては、最初の二機で勝つ積もりだったが、負けた。

 YUKIユキの参戦で、今度こそ勝てると思ったが、やはり負けた。

 “スジャータ”。君は自分の想定を超えて強かった。

 自分は、君の想定を超えられなかった」

 威張って言うにはカッコ悪いけどね。

「……そして、“人間”そのものが、君の想定を超えて強かった。

 個々が好き勝手に振る舞い、無秩序な種でありながら……時に思いがけず結び付く。バラバラでありながら一様に同じベクトルに力が集まり、運営AIでも想定不能な“イレギュラー”を引き起こす。

 ……と言うのは結果論だが。

 少なくとも、人間の“意地”には予測不可能なポテンシャルがある。

 自分はそれを、君に示したかった。

 目的は、達せられた」

 そして、多分。

 他ならぬ、運営AIの駆るアルダーナーリーの戦い振りも、ヤツらに火を点けたんだと、アタシは思ってるよ。

 何だかんだ「めっちゃ強いヤツ」って憧れの的になるしね。

《成る程。参考にさせて頂きます》

「……若干の誤算は。

 君はどうも、自分がこれまで見て来た運営AIと、何処かが違う」

《お褒めの言葉として解釈させて頂きます》

「……より良いの為に、多少なりとも人間のモデルケースとなれたのであれば、幸いだ」

《かしこまりました。今回頂いた全てのログを、今後のゲーム運営にフィードバックさせて頂く所存です。必ずや。

 ご協力、ありがとうございました》

 ……とまあ、尋問は割合和やかなままに終わったね。

 

 それから何日か。

 アタシらが“身辺整理”を終えようとしていた頃に、戦争に決着がついた。

 反物質機体を最も擁した天権ティエンクァン公司の勝利だ。

 そして同日、運営から告知がされる。

 

 戦争終了をもって、オルタナティブ・コンバットのサービスそのものも終了する、と。

 

 一応、当初の約束は果たされる。

 戦勝国の待遇について、だ。

 クエスト生成や公式イベントなどの能動的な運営が終了するだけで、世界そのものは消されない。

 あとは、生活基盤を担っていたNPCが、機械的にそれを維持し続けるのだろう。

 SBスペアボディが戦う理由を失った世界で、一生VR生活を約束される。

 これも、新手の社会実験かねぇ。

 その立場に立たされたプレイヤーが選ぶのは、安寧なのか、次なる闘争なのか。それらの割合がどれだけなのか、うんぬん。

「……次回作のオープンも予告されていた事を考えると、アウトレット・モールまみれの情勢をリセットする意図もあるのだろうな」

 と、リーダーが言う。

 それもそうか。

 アウトレット・モールまみれになっちまった今の状態は、オルタナティブ・コンバットが意図していた趣旨から逸脱してしまっている。

 ゲームが、元々期待していた“稼ぎ方”ができなくなる。

 メーカーとしても、面白くないハズだ。

 元のオーソドックスな人型ロボットものに戻して、修正したいというのも、まあわかる。

「だが、目先のデータを消そうとも、人々の記憶に“アウトレット・モール”とマヌ襲撃祭りがある限り、いずれ再燃する」

 と、KANONカノン嬢。

 そのミームがアタシの黒歴史で出来ていることを思うと、やっぱり頭が痛いねぇ。

 

 さて。

 ひとまずお別れの時間だ。

 HARUTOハルトMALIAマリアは、また別のゲームに旅立つんだってさ。

 アタシは……まあ、脱け殻になったこのオルタナティブ・コンバットの世界で、しばらくバカンスでもしようと思ってる。

 長年、このゲームで頑張ってきた。

 長期休暇みたいなもんだね。

 TERUテルのヤツは、結局、だんまりなまま去って行ったよ。

 何か、色んな意味で勿体ないヤツだったね。

 あるいは、アタシが一言でもそれを伝えてやれば、何か違ったのか。

 ま、アタシ自身がそんな甘ちゃんじゃない。いい大人なら自分で気付くコトだ。

 しかしまあ。

 MALIAマリアの言ってたコトは的を射ていた。

 HARUTOハルトって男は、誰のコトもしない。

 こんなTERUテルと言う名の、どーしようもないヤツのコトさえも。

 ただまあ、MALIAマリアMALIAマリアで、ヤツに感謝すらしていたコトを思えば人のコト言えない気はするけどね。

 ボケ殺しもいいトコだったね。あれはあれで、居心地悪かったんじゃない?

 あとは、

「次に行くゲーム、私も同行させては貰えないか」

 KANONカノンの問いに、

「無論だ。これからも宜しく頼む」

 いつもの、あの“溜め”るクセもなく、即答。

 誰のコトもしない、ねぇ。

「それじゃ。さよならは言わないよ。またいつか、会おう」

 これにて、チームは解散。

 って、何でリーダーでもないアタシが言ってるんだか。

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