log28...ユニーク・スキルの習得を開示、リーダーに沙汰を仰ぐ(記録者:KANON)

 HARUTOハルトMALIAマリアYUKIユキ、ついでのTERUテル

 全員集めての緊急ブリーフィング。

 誠に勝手ながら、私個人の都合による召集だ。

「単刀直入に言おう。私は先日、あるユニーク・スキルを付与された」

 この一言だけで、話の主旨が分かる。

 それが“常識”になってしまって居るのが、現代のVRMMO社会と言うものだ。

 ユニーク・スキルの付与は、どのゲームにいても決して他人事では無い。

 チームの誰も、主旨が分かって身構えはしたものの、大きな驚きを見せた者は居なかった。

「重要な問題は、具体的にどの様なスキルであるか、と言う事だが――」

 反物質の

 それが、私が今回、このゲームの運営AIから与えられた、私固有の技能ユニーク・スキルだ。

 反物質とは、ある物質に対して質量とスピンが全く同一であり、同時に素粒子の性質が相反するもの。

 乱暴に要約すると100パーセントのエネルギー効率を持つ物質である。

 参考までに、核融合により得られるエネルギーの効率が0.1パーセントである。

 反物質には、この世のほぼあらゆる物質に対して“対消滅”を起こし、エネルギーとなる性質がある。

 それは“空気”も例外では無い。通常、生まれたとしても現世に留まり続ける事も難しい、ある意味で儚い存在だ。

 現実世界に於いても反物質は、理論上は確立して居るが、先述の性質から保存が現実的では無いとされている。

 その「現実的では無い無理」を、VR世界であるのを良い事に無理矢理クリアしたのが、私の得たスキルだと言う事。

 ただし、流石にこのスキルで生じるエネルギー量にはゲームシステムで大幅な制御が掛けられ、現実準拠の威力を出せる訳では無い様だ。

 まあ、当然と言えば当然だろう。

 だが。

 それを差し引いても。

 この世界ゲームに、反物質と言う要素が持ち込まれた事実。

 物理演算が加減されていようと、私一人にだけ許されていようと、SBスペアボディと言う兵器の在り方を根底から変えてしまうものである事は確かだった。

 結論。

 私は、その反物質を自由にパーツ開発に反映させられる様になった。

 ……何時いつに無く、膨大な肉声を発したと思う。

 チーム各位の反応は、外見上、変わらず。

「……一つ、訊きたい」

 HARUTOハルトが、静かに口を開いた。

「……君がその事実を秘匿して居たのは、どの程度の期間だ」

「二ヶ月と、13日間」

 私は即答した。

 誤魔化しても仕方が無い。

「……そうか」

 彼は、一見して無感動に言って、

 

「……気に食わないな」

 

 私の告白を、冷然と、斬り捨てた。

 この期に及んで、胸部の最奥に、鋭い幻痛を覚えた。

 本当に、半端で身勝手だ、私は、

 

「……運営AIの傲慢さが、気に食わない」

 

 ぇ……?

 彼は今、何と?

「……ユニーク・スキルの付与は、人の人生を狂わせる。

 そんなケースを、相当数見て来た。

 自分が見て来たケースに限定しても、付与される理由は様々だった。

 ゲームバランスの調整、何らかの実験……大半は、それの意図する所さえも開示されなかった。

 人間は、オンリーワンの特権を与えれば、手放しで喜ぶ猿だとでも言わんばかりのその所業」


「――人工物風情が、神を気取っているのか。

 虫酸が走る」

 

 彼の、

 こんな感情的な姿を目の当たりにしたのは、

 これが、

 初めてではないだろうか。

 肉眼で見えるのは、いつもの、淡々とした面差しなのに。

 語気にも、感情の振れ幅が殆ど見られないのに、

 それでも私は。

 そうだ、目だ。

 その、鋭い眼差しが、

「……KANONカノン

 いつもと変わり無い、フラットで、

 けれど、奥底で何かが燃えているのを感じさせる抑揚で、彼は、私の事を呼んだ。

「……そのスキルで、アルバス・サタンMARK Ⅱを作ってくれ」

 

「君が思い悩まされた二ヶ月と13日の報いを、“奴”に与えてやる為にだ」

 

「……恐らく、奴らは君にそのスキルを使わせたがって居る。

 何らかの社会実験であるのは、火を見るより明らかだ。

 我々は、言うなればモルモットだ。

 それに乗れば、奴らの思う壺だろう。

 だが、それをも凌駕するのが“人間”だと思い知らせてやろう」

 

 私は。

 意図せず。

 ふっと、口許を緩めてしまっていた。

「MARK Ⅱと言う表現は面白く無いな。

 アルバス・サタンver2.3くらいに、魔改造してやろう」

 そして。

「アーテル・セラフもver2.3だ」

「おれは要らん」

 TERUテルが、この期に及んで無粋な事を言う。

「心配するな。元よりその積もりは無い」

 すげなく言うと、奴は舌打ちだけ一つ。

「アタシのほうはまあ…………そうだね。

 ちょっとしたマイナーチェンジだけ、お願いしようか」

 彼女にしては、何やら意味深な沈黙を挟んだものだが、

「お安い御用だ」

 

 かくして。

 反物質と言う、禁断の箱を開ける運びとなった。

 なって、しまった。

 この、弱小チームの中から。

「……目標は当然」

 HARUTOハルトが、これも淡々と、

「……ブラフマー財団。

 このゲームで唯一“ヒト”の意思が無い、運営AIの意思代行勢力だ」

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