※機密ログ※(記録者:TERU)

 やれやれ敗けた敗けた。

 何がって、サイファー攻略戦だよ。

 あの後の顛末を教えてやろう。

 アンドセーフティは落としたものの、結局、戦争そのものには敗けた。

 いや、コロッセオ全一に勝ったからって、それが何? 自己満?

 “戦闘”に勝っても、“戦争”に勝たなきゃ意味ないよ? このゲーム。

 アンドセーフティ、別にボスでも大将でも何でも無いし?

 ヤツらが無傷で生きてたって、他の大多数が撃退されてりゃ、何の値打ちもない。

 そして。

 自分の身体なら自分が筋トレすりゃ、鍛えられるけどさ。

 それで他人の身体が引き締まるわけじゃあない。

 あるいは自分が猛勉強したって、絶対に無能な他人を賢くする事なんて出来やしない。

 ヤツらが“キングレ”だ“キングレ”だって躍起になって、必死こいて戦った事はまっっったくのムダだったわけだ。

 おれが言った通りだったろう。今回の宇宙遠征は何の実りもなかった。

 ま、おれとしてはチームだの所属勢力だのがどうなろうと、本当にどうでもいい。

 今回、禍蛇カダが全壊しちまって、修理に結構な金が飛んで行ったが……まあ、暇潰しの宇宙旅行と人間観察の必要経費と思えば、それ程痛くもない。

 禍蛇カダのアセンブルにこれ以上金をかけるつもりもないし、そうなるとSBスペアボディ乗りってのは金が余る。

 それに。

 の方が順調なら、全てオッケーだ。

 おれは、ひとつ仮想端末ウインドウを展開した。

 報酬の振り込みを確認してんだよ。

 よしよし、今回は相当色がついてる。

 そうだよなぁ。

 最近のおれの働きは、一つのターニングポイントとなったわけだし。

 

 おれ達のお陰でタールベルク社をぶっ潰せたようなもんだからな。

 

 おれは“パストル”という、プレイヤー有志による闇組織のエージェント(笑)ってとこかな。

 主な仕事は、潰したい勢力に上辺だけ鞍替えして、コロッセオや戦争で適度にわざと負ける事。

 たかだかプレイヤーの一人二人が利敵行為を働いたとしても嫌がらせ程度にしかならないように出来ているこの世界だが……それなりの頭数を集めて、計算してスパイをばらまけば、時に勢力図を揺るがす事もある。

 コロッセオで運悪く負けが続いたばかりに、大事な主戦場に不利なフィードバックが連続したりな。

 被撃墜時、当たりどころが半端に悪いと、アバターが即死出来ずに苦しむ事もあるが……何度もやってりゃすぐ慣れる。

 注射みたいなもんだ。過剰に痛がって泣きわめくのはガキのうちまでってな。

 おれレベルになると、死ぬ事くらい、なんて事は無い。

 きっと、現実の身体が死んで、本当にこの世を去る時が来たとしてもな。

 

 次世代型頭部パーツ。定形外の腕部パーツ。天権ティエンクァンの特殊ジェネレータにブースタ。

 禍蛇の機体構成を見れば、おれの勤続年数に対して羽振りが良すぎるって誰かしら気づいても良さそうなもんだが、故タールベルク(笑)並びに、現チンケな・ソフトウェア社ってのは、おれが想定していたよりも更に下の下のマヌケ揃いだったらしい。

 そんな白痴の羊どもをクレバーにコントロールし、祖国(爆笑)を勝たせるのが、おれの使命(核爆笑)ってわけ。

 まさしく、自由を謳歌しているつもりで、その実羊飼いパストルにコントロールされてるなんて思いもつかない、哀れな子羊ちゃんども。

 それがHARUTOハルトだのKANONカノンだの、キング(失笑)LEだの、その他大勢、お寒いヤツらの真実ってね。

 戦勝後、額面上の待遇は下等市民のそれだろうが、パストルから稼いだ金があれば同じ事だ。

 

 いやー、属してる人間としてこう言うのも問題だろうが、パストル程度のしょっぱい暗躍なんて、運営AIにはとっくにバレてるだろうよ。

 それでも、おれにも、誰にも一切のお咎めはない。

 ってことは、暗黙の公認なんだよ。パストルのような組織の活動も。

 悪人ロールプレイも、プレイスタイルのうちってね。

 今日日、ゲームってのは遊びでは無い。

 言うなれば第二の世界、第二の社会だ。

 お行儀良くルールに従うヤツしかいないような、お花畑の世界など存在しないってこった。

 大体、このゲームに限らず、敵勢力相手なら何の疑問も無くPKヒトゴロシをしてるようなヤツらが、都合の良い所にだけ盲目になってんなよ。

 だからおれ達「真実をわかってる側」は、この哀れな家畜どもから賢く搾取させてもらってるわけだ。

 

 さて、明るい未来に向けて、チマチマコツコツ、励むとしよう。

 養分どものお陰で今日もメシがうまい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る