log20...とあるサメ型ロボットとの決着について(記録者:フルチューン・MALIA)

 YUKIユキさんが通信で宣言した直後、シャールク・ジャバダのオービットがエネルギー切れを起こして本体に戻りました。

 つまり、チャージが終わるまでの数秒、わたしたちはオービットを気にしなくてすむということ。

《……畳み掛ける》

 ってHARUTOハルトさんが実際に発音したときには、わたしも彼も、既に全速前進しているわけですが。

 沈黙をおく独特のしゃべりかたが、自分たちの行動においついていません。

 まあ、実害はないのですが。

 そして。

《あの方式のパルスシールドをダウンさせるには、君達の最大火力を短時間、且つ、一点に集中させる必要がある》

 KANONカノンさんがいいました。

 わたしはオービット“スクール”を自機のそばに呼び寄せ、レーザーサイズを出力オン。

 アルバスはウイングをショットガンに変身させると同時に、オービット“フロック”も全基射出。

 円環全体に蒼い光を漏らしはじめた、マルチプル・レーザーキャノン。発射まで、猶予がないようです。

 射程圏内。

 アルバスのウイングショットガンから、途方もない重さの衝撃がほとばしり、マルチプル・レーザーキャノン……の手前のパルスシールドに激突。一粒スラッグ弾です。

 同時に彼の全オービットと、わたしの全オービットがキレイに整列、スラッグ弾の弾けた一点へレーザーをつぎ込みます。

 そして。

 急降下するわたしが、縦一文字にムーンライトの光刃を突きこみました。

 ついにパルスシールドが破綻して、ムーンライトとオービットのレーザーがマルチプル・レーザーキャノンそのものに着弾。

 さらに、アルバスがビームマシンガンをありったけ、オーバーヒートするまで撃ち込みました。

 キャノン全体を循環していたエネルギーが飽和、

《キャノンが自壊する、退避しろ!》

 KANONカノンさんが叫ぶよりも一瞬速く、わたしもアルバスも、オービットたちも全速力でその場を離れました。

 シャールク・ジャバダが、マルチプル・レーザーキャノンを切りはなして捨てました。

 蒼い、膨大な光の輪が、音なき音を放射して虚空に爆散しました。

 シャールク・ジャバダは、パルスシールドのゆらぎを身にまといながら、飽和する蒼光の中から生還を見せました。

 シャールク・ジャバダは、最初とは比べものにならない、自体がミサイルにでもなったかのような機動力で海へと一目散に飛んでいきました。

 エネルギー切れとはいっても、あくまでレーザーを撃つのに回す分がなくなったという意味であって、まだまだ飛ぶことはできるみたいです。

 わたしとHARUTOハルトさんのアルバスも、すぐさま後を追います。

 現実ならこれ以上戦う理由もないのですが、これはゲームですからボスを倒しきって【クリア】しないと、ですね。

 しかし、実弾が尽きてマルチプル・レーザーも壊れて。オービットが半分以上残っているとはいえ、武器は心もとなくないのでしょうか?

 多分、次にはちあわせた時、おのずと答えは見せられるのでしょうけれど。

 

 海がモーセの十戒よろしくえぐり割られては、荒れ狂っています。

 あぁ、泳いでますね……。背ビレを水面から出して。

 そして機体正面、それこそ口にあたる部分がパカッとひらいていて、上下で無数のコアドリルみたいなものがすごい速さで駆動しています。

 あそこに巻き込まれればSBスペアボディの機体はたちまち、丸められたティッシュみたいにコンパクトにされるでしょうね。

 ようやく、彼(彼女?)のサメ型ロボットらしい姿を見た気がします。

 接敵する前からこれ見よがしにお口を開けているのが引っかかりますが。

 ……にしても、どうしてサメなんでしょうね? 今さらですけど。

 食糧枯渇より昔の時代から、クリエイターが自作品にサメを無理やりにでも出演させたくなるという病が存在するときいたこともありますが、このゲームもそうなのでしょうか。

 さて。

《……もうワンセットだ。敵機に接近する》

 HARUTOハルトさんが無情に告げます。

 まあ、そうですよねぇ。

 パルスシールドは、しれっとパリっと張りなおされてしまってますし。

 サメが泳ぐ海に飛びこむとか、言葉にするだけでイヤすぎますが、意を決して、いきます。

 実際、海に入るというよりは、その上空から攻めるつもりなのですが、

《避けろMALIAマリア

 KANONカノンさんの端的な言葉。

 それを耳にすると同時、わたしはシャールク・ジャバダのがひらいて、またなにかの射出口が出てきたのを理解。

 とにかく、なにが飛び出してもいいように、大げさなまでに後退しました。

 サメが大きく前身をひねり、横薙ぎにそれを発射。

 真っ白な奔流。水圧カッターでしょうか。はじっこがアルバスの機体をかすめて、どうにか姿勢制御とサブブースタで回避しようとしたのですが、腕を刃物でやられたように切断されました。

 やられたのが、弾切れのチェーンガンを持つほうの腕だったのが、不幸中の幸いでしょうか。パルスシールドダウンの要となるショットガンウイングも無事です。

 なるほど、最初からお口を開けていた理由がわかりました。

 水圧カッターに必要な海水を、あそこから飲んでいたわけですね。

 そして。

 シャールク・ジャバダのオービットが充電を終えたようで、再び飛び立ち、わたしたちを狙い撃ちます。

《私はこの“ボス戦”のコンセプトが大体解ったのだが、二人は?》

 KANONカノンさんが不意に聞いてきました。

「わたしも、なんとなく」

《……右に同じく》

 というわけで、わたしたちは、これまた大げさなほどに散開しました。

 水のブレード。

 その材料は、目の前に無尽蔵にあります。

 しかも、さっきまでのマルチプル・レーザーキャノンとちがって、連射もききます。

 威力こそレーザーキャノンの足元にはおよばないとはいっても、かすっただけでアルバスの腕が飛んだのですから、直撃すれば同じです。

 光速と音速の差も、カタログスペック上は大きいのですが、こんな近距離戦では、これも同じことです。

 加えて、敵オービットの復帰。

 やっぱり、一番強い武器を落としても、白旗を、あげてはくれませんでした。

 水とオービットの波状攻撃を、わたしたちはひたすら耐えるしかありません。

 耐えて、耐えて。

 そして。

 ギリギリの動作で逃げ回っているうち、シャールク・ジャバダから迸る水圧カッターの“質”が、かわったように見えました。

 ためしに、基地の適当な鉄塔を巻き込むように誘導して、回避してみます。

 鉄塔は、確かに破壊されました。

 けれど。

 破壊の“質”が、さっきアルバスの腕を斬った時とは違い……切断というよりは、ただ単に潰されたような倒壊のしかたです。

 やはりですね。

《SBの装甲を斬り飛ばすだけの切断力を水圧カッターで実現するなら、水を加圧するだけでは足りないだろう》

 KANONカノンさんの解説をバックに、わたしたちは再び機体同士を集結させました。

《如何にVRのファンタジー物理演算と言えど、そこまでの切断力を実現するとなると、研磨剤の様な物は必要だろう。

 ……結局、この武装も“リソース”を消費すると言う事》

 まあ、切断力がなくなったといっても「ものすごい量の超音速放水」として見ると、充分に危険ですが、かなり気が楽にはなりました。

《……このシャールク・ジャバダ戦のとは、敵機の武装を剥奪し、止めを刺す持久戦と言う事だ》

 そうですね。

 これは“ゲーム”ですから【クリア】できないといけません。

 ちゃんと観察すれば、正規の攻略法が必ず見つかる、やさしい世界ですね。

 敵オービットが、そろってエネルギーダウン。

 一応、均等にエネルギーがなくなるよう、ここまでがんばって誘導・回避しました。

「たたみかけます」

 今度はわたしがムーンライトを振りかぶって切り込みます。

 狙うは……水圧カッターのある“おでこ”です。

 武器が内蔵されてるのがわかってますから、なんとなく、装甲が弱そうじゃないですか。

 大きく口をあけて迫るサメに飛びこむとか、ほんとに怖すぎるんですが。

 レーザーの刃がパルスシールドに切り込みを入れて、わたしとアルバスのオービットがまた一斉に撃ち込んで傷口をえぐり、

 アルバスが、巨大スラッグ弾を発射。

 衝撃が、今度こそサメの機体に吹き込まれ――とても硬そうな衝撃波と爆轟を放射して、完全に崩壊しました。

 主砲を撃ち込んだ時の姿勢のまま、空中で爆発の光陰に照らされるアルバス・サタンの(ほどよく汚れたり壊れている)姿が、映画のワンシーンのように絵になっていると思いました。

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