第42話 叔父さんとの話

次の日の日曜、俺は叔父さんの家を訪ねていた。


とあることを相談するために。


だがその前に……遊んでやるとしますか。


「ワンッ!」


「おっ、アポロン。今日は遊んでやれるぞー」


「ワオンッ!」


部屋の中で嬉しそうにはしゃぐアポロンと追いかけっこをする。

最近は構ってやれてなかったので嬉しそうだ。


「アポロン、良かったな。優馬が遊んでくれて。最近は試験もあって来てなかったしな」


「ワンッ!」


「わわっ!? 飛びかかるなって……よしよし」


「ククーン……」


でかい図体をわしゃわしゃと撫で回してやると、気持ちよさそうに伏せをする。

相変わらず、可愛い犬だこと。

出会った頃は手のひらサイズだったのに、今では腰くらいの高さがあるけど。


「それで、急にどうした? 何か話しがあるんだろ?」


「実は……バイトを減らそうかと思って」


「ほう? テストの成績でも悪かったのか?」


「ううん、そういうわけじゃないよ。ただ、色々と経験したいっていうか……学生らしいことしたいと思った」


俺が叔父さんのバイトを手伝ったのは、時給や時間の都合が一番だ。

ただ、その他にも知り合いと絶対に会わなかったり、身内だから人付き合いとかを気にする必要がなかった。

それ自体はありがたいけど……そこまで遊ぶ時間が取れなくなるのは確かだ。


「そうか……」


「ごめんね、こっちから頼んだのに。親父の息子とはいえ、高校生を雇うのは面倒だったでしょ?」


すると、叔父さんが俺の頭をわしゃわしゃと撫でる。

それは小さい頃から、俺が悩んだり親父と喧嘩するたびにしてくれることだった。


「馬鹿言うな。俺は、お前のことを面倒だなんて思ったことは一度たりともない。兄貴と義姉さんとの約束とは関係なく、お前は俺の可愛い甥っ子なんだからよ」


「亮二叔父さん……」


「学生のうちにしたいことする……結構なことじゃねえか。むしろ、そう言うのを待っていたさ。うちのことは気にするな、お前はお前の好きなようにしろ。んで、空いてる時間があれば手伝ってくれたらいい」


「俺……叔父さんが、叔父さんで良かった」


「はっ、何を言ってんだか。子供は子供らしくしてるのが一番だよ」


「ワンッ!」


「ほら、アポロンも言ってるしな」


「うん、そうしてみるよ」


俺は少し泣きそうになるのを堪えて、バレないようにアポロンと追いかけっこを再開するのだった。






その後、遊び疲れたアポロンが昼寝を始めたので……リビングでお茶をする。


「んで、学生らしいことってなんだ? やっぱり、例の女の子か?」


「まあ、それもあるかな。俺なんかより、よっぽど辛いはずなのに頑張ってる奴で……なんか、それを見てたら自分が情けなくなってさ」


「ふむ……お前はお前で頑張ってると思うが。というか、もっと青春っぽい話かと思ったのに。好きとか付き合うとかないのか? それこそ、学生らしいだろうに」


「……その発想はなかった」


今言われて気づいた。

というか、相手は学校一の美少女だ……中身はともかく。

そもそも、好きとか付き合うとか良くわからん。

中学の時にも告白されたが、よくわからないから断ったし。


「おいおい、健全な男子とは思えんな。まあ、最近の子はそういう子が多いとは聞いていたが。おじさんが学生の頃は、女の子のことしか考えてなかったぞ。というか、今もだけどな」


「それはそれでどうかと思うけど? だから、未だに独り身なんじゃない?」


「ぐはっ……! ま、まだ38歳だからチャンスはあるはず……!」


「はっ、そうだといいね」


「生意気な奴めっ!」


「やめてってば」


テーブル越しに頭をぐしゃぐしゃにされる。

その時、目に髪が入ってチクチクした。


「そういや、その髪はどうするんだ? 学生らしくするなら、さっぱりするのもありだろう。せっかく、いい顔してんのに勿体ない」


「あぁー……どうしようかな。確かに、そろそろ切ってもいいかも。梅雨が来るし、夏はクソ暑いし」


「おっ、高校デビューってやつだな」


「それは恥ずかしいので勘弁してよ」


でも、もうアキラとの関係を隠すのもやめた。


それに清水の力になるには、このままだと不都合かもしれない。


俺の今の目的は、あいつの力になることなのだから。


そのために、色々と準備を進めている。


さて……ひとまず、体育祭が始まる前に髪を切るとしますか。





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