第41話 ヒロイン視点

……本当に何なのよ。


泣きそうになるのを堪えてラケットを振るう。


どうして、あんなことを言ってくれるの?


私がずっと、誰かに言って欲しかった言葉を……そのままでいいって。


それでも、友達でいてくれるって。


「おい、もう時間だってよ」


「わ、わかったわ。私、ちょっとお花摘んでくる!」


「お、おう」


私はトイレに駆け込み、部屋に閉じこもる。

そして、テッシュで涙を拭く。


「ぐすっ……なんなのよ、偉そうに……貴方は学校で地味だし関わらないでくれって言ってたじゃない……何かできるのよ……」


私が今まで、どんな思いでやってきたか知らないくせに。

お母さんが死んで家では居場所なくて、学校では見た目から完璧を求められ、自分の好きには生きれなくて。

お父さんは再婚して、本音で話せる友達もいなくて……いつも独りぼっち。


「それでも、我慢してやってきたのに……あんなに好き勝手に言って」


なのに……腹がたつはずなのに。

どうして、私は泣いているのだろう?

どうして、胸の奥が熱くなっているのだろう?


「どうして……こんなに嬉しいのよ……!」


私は溢れ出る涙を必死に抑えることしかできなかった。







……目が真っ赤だわ。


ようやく泣き止み、鏡の前で確認してみると酷い有様だった。


どうしよう、このまま帰ったら泣いてたのがバレちゃう。


「それに時間が経ったから絶対に変な勘違いもされる。かと言って、このまま帰るのは失礼すぎるわよね」


そんなことを考えていると、逢沢君からラインが届く。

遅いから心配しているのかなと思い、恐る恐る開けてみると……そこには『清水、俺腹痛いから帰るわ』と書いてあった。


「……ふふ、何よこれ」


そんなの、あからさまに嘘だってわかる。

逢沢君がお腹痛かろうが、様子が変な女の子を放っておいて帰るわけはないもの。

私はすぐに『あら、勝ち逃げってわけね。それじゃ、次回に持ち越しかしら』と思ってもないことを書く。

すると、『そういうことにしとくわ。んじゃ、またなー』と返事が来る。


「きっと、私に気を使ってくれたんだろうなぁ」


どうして、逢沢君は私の欲しい言葉をくれるのかな?

どうして、それを感じ取ってくれるのかな?


「変わるのは怖いし、変える気は無いけど……おかげで、少し気が楽になった気がする」


まだ、この先どうするかはわからない。


でも、いざって時に助けれくれるって人がいるだけで……こんなにも心強いんだ。


私は両手で顔を叩いて、顔を洗ってから家に帰るのでした。


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