第33話 放課後の約束

 次の日の昼、俺はとある光景を目にする。


 中庭のベンチで、悟と森川が仲良く昼食を食べていた。


 悟はいつも、他クラスに食べに行ってたはずだが……なるほど、いつの間に。


「あっ、優馬君……」


「よう、悟。ほうほう、これはこれは」


「こ、これは別に何でもないっていうか……」


「そうなんですか?」


「えっ? いや、そういうわけじゃ……」


 ふむふむ、何やら初々しい感じがする。

 スレた人たちを見てきたので、こういうのには癒されるな。


「森川さん、邪魔をして悪い」


「い、いえ、平気です」


 どうやら、相変わらず俺は苦手らしい。

 別に何かをしたわけでもないのだが。

 まあ、嫌われてる感じではないから良いか。


「じゃあな、悟」


「う、うん、また!」


 俺は二人に挨拶をして、何時ものように校舎裏に行く。

 すると、先に清水が待っていた。


「あら、遅かったわね」


「面白いものを見てな。悟と森川が仲良くベンチで食べてたよ」


「そういえば、私も見たわ。林間学校の後、仲良くなったみたいね」


「まあ、良いことだ。悟の良さをわかってくれる女の子っぽいし」


 気が弱く引っ込み思案だが、あいつは優しい。

 下手に突っ込まないし、相手の気持ちを考えることができる。

 それゆえに、色々と苦労はしそうだ。


「良い友達なのね」


「まあ、高校に入ってからは初めてのダチだな」


「良いわね……私は、そういう相手いないし」


 ひとまず屋根の上に登り、敷いた毛布の上に座る。


「ん? 俺は違うのか?」


「えっ?」


「一応、友達になったつもりなのだが?」


「……そ、そうだったんだ」


 まるで、鳩が豆鉄砲を食ったような表情を浮かべた。

 まるで、考えてなかったらしい。


「おい、何気に傷つくぞ?」


「ご、ごめんなさい……でも、利害関係の一致だと思ってたから」


「それもあるが、それで遊び行くほど暇じゃない」


「……そっか、そうなんだ」


 すると、清水は反対方向を向いて弁当を食べ始める。

 ちなみに、今日は俺のお弁当がなかった。

 朝、事前にラインが来たから知っているが……残念である。

 いや、別に毎日作ってきてくれるって言ってた訳ではないが。

 これも、こいつの狙いというやつか?


「おのれぇ……腹黒聖女めぇ」


「な、何よ? というか、そのあだ名やめなさいよ」


「聖女様とどっちが良い? なんなら、俺も聖女様って呼ぶか?」


 すると、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

 無駄に顔が良いからか、そんな感じでも絵になる。


「……腹黒聖女の方がマシだわ」


「ははっ!」


「もう、なんなのよ」


「いや、弁当がないから残念だと思ってな」


「……ふふ、仕方ないわね。確かにそういう決まりはしてなかったわ。それじゃ、二日に一回でいいかしら?」


「おっ、そいつは助かる。んじゃ、取引成立だ」


 一安心した俺は、パンを頬張る。


 ……いつもより味気ない気がしたのは気のせいではないだろう。






 ◇




 その日の放課後、地元の駅で待ち合わせをして合流する。


 この地元なら知り合いが少ないから、そうそうバレることはない。


 一応、保険はかけてあるし。


 ジェルで髪をあげておでこを出している。


 眼鏡もないし、これで高校の連中には誰かわからないはず。


「あら……髪型が」


「ああ、これなら一緒いるところを見られても平気だろ。無論、誰だって話にはなるが」


「ふふ、その時は彼氏さんって言おうかしら?」


「勘弁してくれ、俺は平穏な生活を送りたいんだ」


「もちろん冗談よ……むぅ」


 何やら不満そうな清水を連れて、駅近くのファミレスに入る。


「入るの何年振りかしら? 小学生以来?」


「本当に、どういう生活してたんだか」


「別に普通よ。お父さんが外食嫌いだったから」


「ああー、そうなると行かないか。うちも家で食べることが多かったし久々だな」


 そんな会話をしつつ、席に案内される。

 幸い、ソファー席なのでゆっくりとできそうだ。

 まずはタッチパネルを操作して、メニューを開く。

 そういや親父が生きてた頃は、まだタッチパネルじゃなかったな。

 ……そうか、お金節約のためにファミレスに来なくなったんだ。


「とりあえず、ドリンクバーでいいか」


「ええ、それで良いわ」


「おっ、良いのあるな……今はこういうのがあるのか」


「どうしたの?」


「いや、デザートセットがあるから迷ってる」


 限定デザートにつき頼むと、実質ドリンクバーが無料でついてくるらしい。

 五百円なので、かなりお得だろう。

 値段はともかく、今日は遊びに来たわけではないからなぁ。


「気になる……ちょっと、私にも見せて」


「はいよ」


 パネルを渡すと、すぐに清水の顔がほころぶ。

 どうやら、俺と同じ感想を思ったらしい。


「美味しそう……」


「だよな……食べるか? 確か、糖分は勉強する時に必要とか聞いたことがあるし」


「そ、そうね、勉強するために必要な成分だわ。まずは補給をしてから、しっかり勉強しましょう」


「よし、決まりだ。んじゃ、このセットを二つ頼むか」


「……ふふ」


「……はは」


 俺達は顔を合わせて苦笑いをし、自分達に言い訳をしてデザートを注文するのだった。










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